「私は理由を聞いているだけなのに」――職場でも起きうる「納得するまで詰める」ことのリスク

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2026年09月11日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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「納得できる説明」が得られるまで質問してしまう――そんな記事が話題となった

 9月6日、はてな匿名ダイアリーに投稿された記事がXで大きな話題になった。


上司から評価されているケースもある


例えば元夫が約束を忘れたとする。私は「なんで忘れたの?」と聞く。元夫は「ごめん」と言う。「謝ってじゃなくて、なんで忘れたのか聞いてる」「忘れてたから」「それは分かってる。なんで忘れたの?」「分からない」」「自分がやったことなのに?」「本当に分からない」「じゃあまたやるってこと?」みたいな話を何時間もしてた。


 投稿者は怒鳴っていたわけではない。理由を知り、問題を解決したかっただけで「納得できる説明をしてくれたら終わる」と考えていたという。


 これを読んで、他人事とは思えないと感じた人もいるのではないだろうか。似たようなコミュニケーションは家庭だけではなく、職場でも起こりうる。


●「ミスの理由を聞く」こと自体は間違っていないのだが……


 新人が定着しない部署を見ていると、仕事ができるベテラン社員が中心となって新人指導にあたっているケースがある。ミスがあれば理由を聞く。やり方が違えば指摘する。発言内容だけを見れば、なんら間違ったことはしていない。ベテラン社員本人も「部署のため」「本人のため」と思って指導している。しかし、新人は徐々に追い詰められていく――。


 仕事で「なぜ?」と聞くこと自体は悪くない。ミスの原因を確認し、再発防止を考えるのは当然のことである。


 問題は、会話の終了条件がいつの間にか「仕事上必要な確認が終わったか」ではなく、「自分が納得したか」に変わることだ。


 新人:「確認不足でした」


 ベテラン:「なぜ確認しなかったの?」


 新人:「急いでいました」


 ベテラン:「でも、急いでいても確認はしないといけないよね?」


 ここまで進むと、相手は事実を説明するより「この人が納得する答え」を探し始める。


 元の記事でも、相手から「何を言っても終わらない」と言われた投稿者は「納得できる説明をしてくれたら終わる」と返している。ここに、職場でも起きるコミュニケーションのズレが凝縮されている。


●「厳しい人」とは違う


 「指導のために厳しく追及しているのだから仕方ない」「萎縮を恐れていては何も言えない」と思う人もいるかもしれない。しかし、職場で求められる「厳しさ」と、今回の「納得するまで詰める行為」は別物だ。


 本来、現場の問題点を厳しく指摘し、周りの不満を代弁して「このやり方はおかしい」と声を上げられるベテラン社員は、組織にとって貴重な存在である。


 そうした良い代弁者なら、周囲は「よく言ってくれた」と感じるだろう。厄介なケースは、「そこまで問題なの?」「また始まった」と周囲が感じている場合だ。本人だけが「職場のために言わなければ」と熱量を上げていく。


 「私が気になる」と「みんなが困っている」は決して同じではない。厄介なのは、その違いが本人から見えなくなっている場合だ。


●普通の質問まで「追及の始まり」になる


 ベテラン社員から仕事を教えてもらう新人のケースに話を戻そう。新人の立場からすると、延々と質問攻めされた経験が積み重なると、普通に質問されただけの場合でも萎縮してしまう。


 「これは、どうしてこうしたの?」


 本来なら単なる確認のやりとりでも、過去に「なんで?」「それは理由になっていない」「じゃあどうするの?」と、質問という形の追及が延々と続いた経験があれば、聞かれた側は「また始まる」と身構えてしまう。そればかりか、ミスを知られないようにしたり、気になった点があっても質問しなくなったり、できるだけその人を通さず仕事を進めようとしたりするようになる。


 こうした無意識の過剰な追及は、近年注目されている職場の「インシビリティ(失礼な言動や配慮に欠ける態度)」にも通底する。インシビリティが離職に与える影響については、過去に行われた数多くの研究を統合したメタ分析でも裏付けられている。職場でこうした言動を受ける人ほど、離職意向も高い傾向が確認されている。


 また、「質問攻め」をするベテラン社員の問題については、上司や周囲からは見えにくい。


 上司はそのベテラン社員のことを「○○さんの言っていること自体は正しい」「仕事もできる」と評価しているからだ。部署の成果がその人の知識や経験に依存していれば、なおさら注意しづらくなる。


 部下からすると、「上司に相談しても、『正しいことを言っているだけ』と片付けられる」と感じれば、相談しなくなっていく。気がつくと新人は定着せず、ベテランだけ残り続ける、という構図も起こり得る。


●問題を「個人の性格」で終わらせない


 今回話題になった記事を読んで「自分も『なんで?』とよく聞くが、大丈夫だろうか」と不安になった人もいるだろう。


 質問すること自体が悪いわけではない。自分が完全に納得できなくても、仕事上必要な確認を済ませて話を終えられるなら、「納得するまで相手を追及する」ことにはならない。


 むしろ重要なのは、組織がこうした問題を個人の性格だけで片付けないことである。


 管理職は「その人の言っていることが正しいか」だけでなく、周囲がどう変化しているかを見る必要がある。質問や相談が減った、特定の誰かを避けるようになった、「何も言われないようにしよう」と仕事をする社員が増えた――こうした変化があれば、関わり方に問題がないか疑うべきだ。


 特に、仕事のできるベテラン社員ほど「厳しいけれど必要な人」と評価され、問題が見過ごされやすい。組織管理上において、仕事上必要な指摘と、本人の納得を求める行為は切り分けて考える必要がある。


 職場を壊すのは、悪意のある人だけではない。「自分は正しいことをしている」という確信が強いときほど怖いこともあると、肝に銘じておきたい。


著者プロフィール:村上 ゆかり


コラムニスト。1児の母。リクルートにて人材業界で法人営業、面接、面談フォロー実績数百件を経験。人事役員などと伴走しさまざまな人事課題に向き合う。広告業界にて5000人集客イベント企画&事務局経験、福祉業界では人事管理職として新卒及び中途採用を1人で設計から実務まで担当し年間約120人採用を達成。国会議員秘書約4年半を経験後、フリーで活動を始め、執筆のほか企業の人事採用コンサルタントなどを手掛ける。アンガーマネジメント講師。



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