36万円超の「折りたたみiPhone」で本当に変わるもの。Appleが狙う“検索をなくすAIの支配”

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2026年09月12日 09:31  日刊SPA!

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iPhone Duo。Apple公式サイトより引用
9月9日、Appleは同社初の折りたたみ型スマートフォン「iPhone Duo」を発表した。閉じれば5.4インチのコンパクトなiPhoneだが、開くと7.6インチ。日本では10月16日から予約を受け付け、23日に発売される。256GBモデルで36万4800円、2TBなら57万4800円に達する。
発表直後、当然ながら最も注目を集めたのは値段だった。同容量のiPhone 18 Pro Maxより12万5000円高い。国内メディアでは「40万円近いスマホ」と驚きの声が上がり、海外でも「欲しいが高すぎる」「折り目は長く使っても大丈夫なのか」「Apple Pencilが使えるならiPad miniの代わりになる」と評価は割れている。AppleはSamsungより7年以上遅れて折りたたみ市場に参入しただけに、「いまさら折りたたみiPhoneなのか」という見方が出るのも不思議ではない。

だが、こうした議論だけを追っていると、iPhone Duoでもう一つ起きている変化を見落とす。

Apple自身がこの端末で前面に出しているのは、折りたためることだけではない。開けば「iPhone史上最大」という7.6インチの画面になり、二つのアプリを同時に動かす。そこへ再設計されたiOS、Apple Intelligence、Siri AIが組み合わされる。つまりAppleは、一日中持ち歩くスマートフォンに、これまでタブレットやPCへ移って行っていた作業まで引き戻し、その中心にAIを置こうとしている。

ここで問いは、「36万円の折りたたみiPhoneにそれだけの価値があるのか」から少し変わる。

スマートフォンが単なるアプリの入れ物ではなく、AIに「何をしたいか」を伝えれば、その先の検索、アプリ、サービスまで選んでくれる端末になったとき、人間とデジタル世界の間で最も強い場所を握るのは誰なのか。

iPhone Duoで本当に見るべきなのは、折り目ではない。Appleがスマートフォンとタブレットの境界を薄くし、その「入口」にAIを置き始めたことなのである。

◆Appleは「折りたたみ」では7年以上遅れている

そもそも、折りたたみスマートフォンはAppleの発明ではない。Samsungは2019年に初代Galaxy Foldを発表し、閉じればスマートフォン、開けば7.3インチの大画面になる製品をすでに実現していた。Huaweiも同じ年にMate Xを発表している。つまりAppleは、この市場では7年以上遅れて参入した後発組である。

それでもAppleの参入が無視できないのは、折りたたみ技術が特別だからではない。AppleにはすでにiPhoneとiOS、App Store、Apple Silicon、各種サービス、そして世界中のアプリ開発者がいる。端末の形を変えるだけでなく、「この画面なら、こう使う」という作法そのものを大量の利用者と開発者に広げる力を持っている。

実際、iPhone DuoではiPhoneとして初めて「Split View」が導入された。二つのアプリを横に並べ、Safariを二画面開いて商品を比較することもできる。Appleによれば、Netflix、Zoom、Slackなどの他社製アプリもすでにDuoの大画面に対応している。

Appleが一社ずつ命令しなくても、利用者が増えれば開発者は新しい画面構成を前提にアプリを作るようになる。便利だから対応が増え、対応が増えるからさらに便利になる。これがプラットフォームの強さだ。

◆スマホとタブレットの境界が薄くなる

これまでApple製品には、かなり分かりやすい役割分担があった。iPhoneは常に持ち歩く端末、iPadは大きな画面で読む、見る、作業する端末、Macはさらに本格的な仕事をする端末という具合だ。

Duoは、この境界を一部崩す。電車の中では閉じたまま普通のスマートフォンとして使い、席に着けば開いて二つの資料を見比べる。Safariを二つ並べて価格を比較し、片側に文章、もう片側に別のアプリを表示することもできる。Apple自身、Duoを「iPhone史上最大のディスプレイ」と位置づけ、マルチタスクを大きな売りにしている。

MacやiPadが不要になるという話ではない。重要なのは、これまで別の端末に移らなければやりにくかった行動の一部が、一日中持ち歩くiPhoneの中で済むようになることだ。

Appleが増やすのは販売台数だけではない。利用者がAppleの環境の中で行う仕事、閲覧、買い物、検索といった行動の種類そのものが増えていく。言い換えれば、Appleの「デジタル領土」が一段広がる。

◆しかし、本当に重要なのはAIである

ここまでは、便利な折りたたみ端末の話だ。iPhone Duoが一段違う意味を持つのは、その広い画面の中央にAIが入り込んでいるからである。

Appleが公式に示したDuoの利用例を見ると、それがよく分かる。画面の片側にアプリや資料を表示したまま、反対側でSiri AIと会話できる。Siri AIは、メッセージやメール、写真に含まれる情報を探し、いま画面に表示されている内容を理解した上で関連する操作を行えるとAppleは説明している。

これまでは、ホテルを探すなら検索や旅行アプリを開き、店を探すなら地図を開き、メールを書くならメールアプリを開いていた。つまり「何をしたいか」を考えたあと、人間自身が「どのアプリを使うか」を選んでいた。

ところがAIがOSの中で仲介するようになると、「来週の大阪出張にいいホテルを探して」「このメールに返事を書いて」と目的だけを伝えれば済む場面が増える。そのとき、どこを検索し、どの情報を参照し、どのアプリを使うかを、人間より先にAIが判断することになる。

これまでGoogleやAmazonなどのプラットフォーム企業が強大になった理由の一つは、「入口」を握ったことだった。Googleはウェブへ向かう検索窓を、Amazonは商品を探す最初の場所を握った。拙著『「デジタル主権」戦争』でも、第2章で「入口を制する者が、すべてを制す」という構造を追っている。
AIは、そのさらに手前に立つ。

◆検索結果すら見なくなる可能性

Google検索では、検索結果の順位をGoogleが決めていても、利用者にはまだ複数のリンクが見えている。どのページを読むかを最後に選ぶのは人間だ。

しかしAIは、ホテルを20軒表示する代わりに「この3軒がいいでしょう」と答えられる。10本のニュース記事を並べる代わりに「今日重要なのはこの3点です」とまとめられる。

すると、問題は「検索結果の何位に表示されるか」ではなくなる。そもそも人間の目の前に候補として出てくるかどうかが重要になる。

検索を支配するより強いのは、検索する必要すらなくすことだ。

Appleはすでに開発者に「App Intents」という仕組みを提供している。アプリの機能や情報をApple IntelligenceやSiriから見つけ、利用できるようにするための仕組みで、2026年の更新ではApple Intelligenceがアプリの内容を検索し、アプリをまたいで作業するための統合がさらに進められた。

開発者にとっても話は変わる。これまでは「ホーム画面で自社アプリをタップしてもらう」ことが重要だった。AIが利用者の代理人としてサービスを選ぶようになれば、「人間に選ばれる」だけでなく「AIに選ばれる」ことが必要になる。

◆なぜ折りたたみ端末とAIが結びつくのか

もちろん、「そんなAIなら普通のiPhoneでも使えるではないか」という反論は正しい。AIそのものはDuo専用ではない。

折りたたみとの関係は、AIを使ったあとの作業にある。普通のスマートフォンなら、AIに質問することはできても、複数の資料を見比べたり、AIの回答を横に置いたまま文章を直したりするには画面が窮屈だ。PCやタブレットなら快適だが、常に持ち歩いているとは限らない。

Duoなら、閉じている間にSiriへ指示し、必要になれば開いてAIとの会話と資料を同時に見ることができる。Apple自身が、片側にコンテンツを表示しながら反対側でSiri AIと会話する使い方を製品紹介の中で前面に出している。

「AIに頼む」「AIが探す」「人間が確認する」「そのまま作業する」という流れを、ポケットに入る一台で完結させやすくなる。Duoは単なる折りたたみスマートフォンではなく、常時携帯できるAI作業端末になりうるわけだ。

◆「端末内AIなら安心」で話は終わらない

AppleはAIについてプライバシーを強調している。Apple Intelligenceのモデルは端末上でも動作し、より大きな処理が必要な場合にはAppleの「Private Cloud Compute」を利用できる。外部のクラウドへ何でも送る方式とは違う。

ただし、ここで二つの話を混同してはいけない。クラウドへの依存が減ることと、プラットフォームへの依存が減ることは同じではない。

AIの処理がスマートフォン内部で行われても、その端末を作り、チップを設計し、OSを管理し、AIを提供し、アプリを配布し、アプリ同士を接続する規格までAppleが握っているなら、利用者が通過するインフラ自体は消えていない。

つまり、AIをクラウドから端末へ移すことは、それだけで「主権がユーザーに戻った」ことを意味しない。依存がなくなるのではなく、依存する場所が変わる可能性がある。

ここを「Appleは危険だ」と読むのも違う。むしろ、便利だからこそ問題になる。便利だから使い、便利だからアプリが対応し、便利だからAIに任せる範囲が増える。

Google検索やAmazonが巨大化したのも、利用者に不便を強制したからではない。圧倒的に便利だったから入口になった。

◆次に争われるのは「どのAIに任せるか」

現在のスマートフォンは、基本的には「人間→OS→アプリ→サービス」という順番で動いている。

しかしAIエージェントが発達すれば、「人間→AI→必要なサービス」という形に変わっていく可能性がある。「ホテルを取って」と頼んだとき、裏側でどの検索エンジンが使われ、どの予約サイトが比較され、どの決済手段が選ばれたのかを利用者自身が意識しない世界だ。

そうなれば、アプリ同士の競争の意味も変わる。自社アプリをホーム画面に置いてもらうことより、人間の代理人となったAIから呼び出されることのほうが重要になるかもしれない。

Appleがその支配を目的としてiPhone Duoを開発した、と断定する材料はない。だが確認できる事実として、Appleは大画面のDuo上で、他のコンテンツと並行してSiri AIを使える形にし、アプリの機能やコンテンツをApple Intelligenceと結びつける仕組みをすでに開発者へ提供している。

だからiPhone Duoで見るべきなのは、折り目が目立つかどうかでも、Samsungより売れるかどうかでもない。

GoogleやAmazonが巨大化する力となった「入口支配」が、今度はアルゴリズムやAIによる認知・判断への介入という一段深い形で、一台の端末の上に重なり始めたことだ。

これまでのデジタル主権戦争では、「何を見るか」を決める力が争われてきた。AI時代には、さらにその手前に戦場が移る。

「何を見る必要があるか」を、人間より先に決める者は誰なのか。

iPhone Duoの本当に新しいところは、折りたためる画面ではなく、その問いをポケットの中へ持ち込んだことなのである。

文/昼間たかし

【昼間たかし】
ルポライター。1975年岡山県に生まれる。県立金川高等学校を卒業後、上京。立正大学文学部史学科卒業。東京大学情報学環教育部修了。ルポライターとして様々な媒体に寄稿。著書に『コミックばかり読まないで』『これでいいのか岡山』

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