天山さんの引退試合当日。モンゴリアンチョップをする棚橋と、天山さんの元付き人のマスター・ワト ©新日本プロレス―[新日本プロレス社長・棚橋弘至のビジネス奮闘記〜トップロープより愛をこめて]―
新日本プロレスの人気プロレスラーにして「100年に一人の逸材」と言わしめ、プロレスラーを引退したばかりの第11代社長(’23年12月就任)棚橋弘至が、日々の激務のなかでひらめいたビジネス哲学を綴っていく。今回は「継承の本質」について。棚橋社長はいったいどんな結論に至ったのか。(以下、棚橋弘至氏の寄稿)
◆vol.82 マニュアル化できない。だからこそ大切な「継承の本質」とは
僕が高校生の頃、テレビの前で釘づけになって見ていたのが、天山広吉というプロレスラーでした。
強烈な髪形。荒々しく豪快でタフなファイトスタイル。そして、リングに立った瞬間に伝わってくる圧倒的な存在感──。
高校生だった僕は、一瞬で天山ファンになりました。
まさか将来、その天山さんと同じリングに立ち、同じ新日本プロレスという会社を背負う日が来るとは……。当時の僕には想像もできない未来でした。
その天山さんが、先日現役を引退しました。
僕にとっては、憧れのプロレスラーであり、長年ともに闘い、そして多くの後輩に慕われた、優しい先輩でもありました(試合中はとても怖いですが……)。
その天山さんの背中を近くで見続けてきたのが、付き人もしていた大岩陵平という選手です。
天山さんの引退翌日。その大岩がG1 CLIMAX36で優勝しました。なんという、ドラマチックな流れ。
しかしながら、この出来事を単なる偶然で終わらせたくはありません。
ビジネスの世界でも、「誰から誰へ、何を託すのか」は、とても大切なテーマです。
会社を次の世代につなぐとき、技術やノウハウは資料に残せます。仕組みもマニュアル化できます。しかし、覚悟や情熱、仕事に向き合う姿勢、その人を紡いできたストーリーまで、すべてをマニュアルにすることはできません。
それは、人から人へ、背中を見せながら伝えていくしかないものだからです。
では、天山さんから大岩に託されたものとは、一体何だったのでしょうか。
正直、僕にもまだはっきりとはわかりません。
でも、それでいいのだとも思っています。
本当の継承とは、「これを受け継ぎました」と言葉で説明するものではなく、受け取った本人が、その後の生き方や仕事、そしてリングで証明していくもの。
大岩がこれから、どんなプロレスラーになっていくのか。どんな景色を見せてくれるのか──。
その一つ一つが、天山さんから彼が受け取ってきたものへの答え合わせになっていくはずです。
天山さんが築いてきた道を、大岩がそのまま歩く必要はありません。
受け継いだものを自分の中で消化し、自分自身のものとして、新しい道をつくっていけばいい。
そしていつか、大岩の背中を見て「自分もああなりたい」と思う少年が現れる。
そのときになって初めて、天山さんから大岩へ渡されたものが、次の世代へとつながっていったことになるのかもしれません。
ということで、まずは皆さん、大岩陵平の大胸筋からチェックしてください!
◆今週のオレ社訓 〜This Week’s LESSON〜
受け継いだものを自分の中で消化し、自分自身の新しい道に!
<文/棚橋弘至 写真/©新日本プロレス>
―[新日本プロレス社長・棚橋弘至のビジネス奮闘記〜トップロープより愛をこめて]―
【棚橋弘至】
1976年生まれ。新日本プロレスの第11代社長(’23年12月就任)。’26年1月4日を以て現役を引退。キャッチコピーは「100年に一人の逸材」