※画像はイメージです。生成AIを使用しています 満員電車の中で他人の行動に「迷惑!」と感じた経験がある人は少なくないはずです。
混雑した車内では、一人の行動が思った以上に周囲へ影響を与えます。一般社団法人日本民営鉄道協会が公表した『駅と電車内のマナーに関するアンケート』(2025年度)では、『乗降時のマナー』に関する迷惑行為として「扉付近での滞留(乗降を妨げる、奥に詰めない等)」が上位に挙げられ、多くの利用者がストレスを感じている実態が明らかになっています。
公共交通は多数の人が限られた空間を共有する場だからこそ、少しの配慮が全体の快適さを左右するようです。
今回ご紹介するのは、帰宅ラッシュの都内JR線車内で起きた実録エピソード。車内で目立っていたのは明らかに酔っている一人の男性。
周囲への迷惑もおかまいなしで、扉付近に居座り続けるその男性に思わぬアクシデントが起きてしまいました。
◆ドア付近で「仁王立ち」する男に浴びせられた怒声
都内の広告代理店に勤務する細部さん(仮名・32歳)は、その日、運良く座席に座ることができ、心地よい揺れに身を任せてうとうとしていました。
しかし、ある駅に停車した直後、車内の平穏は一瞬にして破られることになります。
「何やら扉の付近から、大声で誰かを叱責するような男の声が聞こえてきて、ハッと目が覚めたんです」
細部さんが重い瞼を開けると、視線の先では緊迫した光景が繰り広げられていました。
「邪魔なんだよ! どけよ!」
そう声を荒らげていたのは、その駅から乗車してきた中年男性でした。怒りの矛先を向けられていたのは、ドアの真ん中に居座り、頑なに動こうとしない若い男性客です。
「文句の矛先は若い男性で、腰に手を当てて仁王立ちのような姿勢をとっていました。大きなバックパックを背負ったままで、見るからに周囲の邪魔になっていたんです。ただ、よく見るとその仁王立ちもどこかフラフラしていて……。最初は強気な態度なのかと思ったのですが、どうやらどこかで一杯やってきた帰りのようで、完全に泥酔している様子でした」
周囲の冷ややかな視線もどこ吹く風。お酒のせいで周りの状況がまったく見えていないのか、若い男は中年男性に怒鳴られても「……」と無言のまま、うつろな目で一点を見つめているだけだったそうです。
◆手がつけられない迷惑行為に乗客たちのイライラは頂点に
「その男は電車の揺れに合わせて後ろのドアに思い切り寄りかかったり、反動で背後にいる他の乗客にドスンとぶつかったり……。周囲の乗客はイライラが頂点に達しているようでした」
男が背負っているパンパンに膨らんだバックパックが、周囲の乗客を容赦なく圧迫。男には、乗客たちの無言のブーイングと、鋭い視線が突き刺さります。
「乗車してくる客の中には、わざと肘でその若い男を押しのけたり、ぶつけたりする人も。とにかく、一触即発な状況だったのには変わりありませんでしたね。私の座席からははっきり見えなかったのですが、足元を蹴ったりする様子も見えました」
「ドン、ドン、ドン」
酔っているように見える若い男性ですが、時々電車のフロアに自分の足を叩きつけて威嚇するような反抗に驚く乗客も少なくはなく、いつしか若い男性の周囲には少し余白ができるような有様だったといいます。
◆突然の衝撃的な展開に声を失う乗客たち
何となく悪い予感がした細部さんは、今目の前で起こっているトラブルをどうしても看過できなかったそうです。
「すでに車内はかなりの乗車率で、ギスギスした空気が張り詰めていました。そこで私は、次の駅に到着するまでに、あの扉付近の若い男性に声をかけ、自分が座っているこの席を譲って座らせようと考えたんです」
細部さんは、まもなく駅に到着するという絶妙なタイミングを見計らい、意を決して男に向かって声をかけました。
「ちょっと! お兄さん!ねえ!」
しかし、運悪くそこは地下の走行区間でした。「ゴー……」という凄まじい轟音が車内に響き渡り、声は届きません。そうこうしているうちに、次の駅に到着してしまった電車。
「プシュー」という音とともに扉が開いたとたん、体を扉に委ねていた男性はスローモーションのようにホームへダイブしました。
「バタン!」
次の瞬間、その男性はうつ伏せに倒れ、ピクリとも動かなくなってしまったそうです。
◆自業自得の結末。静まり返るホームと、乗客たちの「ニンマリ顔」
一瞬、周囲の乗客は驚いたようでしたが、誰一人として手を差し伸べようとはしなかったといいます。
幸いにして、駅の係員がすぐ集まり、その男性を抱えてベンチに移動させ、そのうちの一人が車掌に合図を送り電車は何事もなかったように発車したそうです。
ただ、その惨事を目の当たりにした乗客たちは皆見て見ぬふりをし、むしろ『ニンマリ顔』だったそうです。
「ちょっと複雑な気持ちでした。たしかに、あれだけの迷惑行為だったので周囲の乗客は内心『ほれみたことか』と思ったのでしょう。しかたがないことだと思いつつも、なんだか寂しい気持ちにもなりました」
細部さんはそう苦笑しながら当時の様子を振り返って語ってくれました。誰一人として助けてくれなかった理由は『飲酒』によるものだったからでしょう。
幸いにして今回は“自業自得”的な結末でしたが、周囲を巻き込むような状況になっていたらと考えるとゾッとします。
自動車の飲酒運転の規制のように、普段の生活においても『飲酒』について、何らかの法的な規制があってもよいのではと思ってしまう出来事でした。
◆周囲の気持ちも分かるが、少し考えさせられる部分も
今回の迷惑行為、話だけを聞けば「自業自得」と感じる人もいるかもしれません。実際、その場にいた乗客たちの中には、どこか溜飲が下がったような表情を浮かべる人もいたといいます。
特に、人は公共空間でトラブルに遭遇すると、「誰かが対応するだろう」と考え、行動を控える傾向があるといわれています。
『日本民営鉄道協会の2025年度調査』では、扉付近で動かず乗降を妨げる行為は、上位にランキングしています。ただ、目の前でホームに倒れ込んだ乗客を見て見ぬふりをするというのは、いかがなものかとも思ってしまいます。
そういう観点から、「文句を言うためではなく、席へ誘導して危険を避けよう」という細部さんの判断は間違っていないようにも思えます。
今回は、大ごとに発展しなかったようですが、場合によっては取り返しのつかない怪我に繋がっていたかもしれません。
公共交通機関を利用する際は、とにかく他人に迷惑にならないよう心がけるとともに、万一今回のような状況に遭遇した際は、面倒でも車掌や駅係員に知らせることが賢明なのかもしれません。後味の悪い結末になれば、後悔するかもしれませんし……。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営