※画像は生成AIによるイメージです満員の電車内で、通路に大きな荷物がでんと置かれている。避けて通ることもできず、かといって声をかけるのもためらわれる。そんな数十秒をやり過ごした経験は、通勤で電車を使う人なら一度や二度ではないかもしれません。大声での会話や車内での飲酒まで加われば、なおさらです。
日本民営鉄道協会が2025年度に実施した「駅と電車内のマナーに関するアンケート」(回答5,202名)で、迷惑行為として「荷物の持ち方・置き方(鞄・傘等)」を挙げた人は20.1%。前年度の14.9%から大きく伸びています。ちなみに1位は「周囲に配慮せず咳やくしゃみをする」34.7%、2位は「座席の座り方(詰めない・足を伸ばす等)」31.9%、3位は「騒々しい会話・はしゃぎまわり」30.2%でした。
今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ人気記事から、出張先へ向かう満員の電車で、通路を塞ぐスーツケースの前で酒を飲み始めた若者4人組と、静かな一言でその場を収めた60代の男性をめぐるエピソードです。
記事の後半では、迷惑行為に遭遇したときに冷静に対応するためのヒントもあわせてご紹介します。
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◆ほぼ満員の車内で通路に大きな荷物を置く若者
いまから数年前、出張先へ向かう電車内にて、スーツケースで通路をふさぐ迷惑客に遭遇したという山川さん(仮名・40代)が当時のエピソードについて語ってくれた。
都内に住む山川さんはその日、出張のために神奈川県西部方面へと移動していた。
「翌日の早朝から、神奈川から静岡へ移動しなければならない仕事の予定があったので、前日のうちに静岡寄りの神奈川のホテルに1泊しようと思っていたんです。その日は都内の勤務先での仕事が終わってから、そのまま東海道本線に乗って神奈川方面に向かいました」
山川さんはその日残業をしており、夜遅い時間帯に乗車したそうだが、ほぼ満員の状態だったという。その車両には、ボックス席と通常のロングシート席が設置されていた。
「車内には帰宅するサラリーマンなどが多かったんですが、ボックス席に座っていたガラの悪そうな若者4人組のグループはとても目立っていました。ほぼ満員状態で狭いのに、大きなスーツケースを通路側に置いて場所を塞いでいたんです」
山川さんによれば、若者たちは周囲から冷たい目で見られていることも気にしていない様子で、大きな声で会話をし、さらには酒まで飲み始める始末だったという。
◆しびれを切らしたサラリーマンが果敢に
逆ギレされるなどして面倒ごとに巻き込まれたくないのか、ほとんどの乗客は注意できない状況だったそうだが、そんななか、しびれを切らしたとある人物が若者たちに声を上げる。
「私と同世代くらいのスーツを着たサラリーマンの男性が、少し離れた場所から若者たちに向かって『うるさい君たちさあ!みんな迷惑してるんだから、その荷物、足元に置くとか、網棚に上げるとかできないわけ?』と果敢に注意してくれました。その男性はかなり怒っている様子でしたね」
しかし、注意された若者たちは「チッ」と舌打ちをするだけで、男性を無視。注意されたからか大きな声で会話をすることはなくなったが、依然として酒を飲みながら会話を続けていた。
そんな態度に、注意した男性は怒りが収まらなかった様子。「おい!何とか言えよ!」などと声を荒げ、若者たちにさらに怒りを向けた。
「車内はとても険悪な雰囲気になっていました。若者たちもさすがにおとなしくなっていましたね(苦笑)」
だがそれでも若者たちは相変わらずで、スーツケースを通路からどける様子はなかったという。
◆ブチギレたサラリーマンに近づいた意外な人物
そんななか、怒りが収まらない様子のサラリーマンの男性に近づいた人物がいたという。
「60代くらいで、いかにも紳士といったような、身なりのきちんとした初老の白髪男性が、サラリーマンの男性に近づいて、『バカは相手にしちゃいけません。相手にしない、相手にしない』などと言って落ち着かせていました」
サラリーマンの男性はその言葉に納得したのか「それもそうですね。言っても通じない相手はいますからね」などと言って、穏やかな様子で白髪の男性と談笑し始めたんだとか。
◆バカ呼ばわりされてしまった若者たちはその後…
「その後2人の男性はボックス席のある場所から離れ、車両間のデッキで何やら話し込んでいました。しまいには名刺交換までしていて、ビジネスの話で盛り上がっていた様子でしたね。
このひょんな出来事が、そのサラリーマンにとって自分の仕事上メリットのある出会いになったようでした」
一方、周囲の視線がますます冷たくなっていたのを感じたのか、“バカ”呼ばわりされてしまった若者たちはさすがにその場に居づらくなったようで、次の駅でべつの車両に移動したそうだ。
――迷惑客に果敢に注意したことで、思わぬ仕事上のチャンスに巡り合えたかもしれないサラリーマンの男性。迷惑していた乗客を救った因果応報かもしれない。
しかし、男性側も声を荒げてしまった点も忘れてはいけない。迷惑客に逆ギレされるなど、リスクもある。トラブルを避けるためには、常に冷静に対応したいものだ。
<取材・文/瑠璃光丸凪(A4studio)>
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◆■注意する側にも、リスクはある
このケースは白髪の男性が割って入ったことで収まりましたが、直接注意することが常に安全とは限りません。鉄道の現場ではどうか。日本民営鉄道協会とJR各社などが2026年7月に公表した集計によると、2025年度に駅係員や乗務員が受けた暴力行為は、全国38社局で590件にのぼりました。コロナ禍で一時的に減っていたものの、輸送人員の回復とともに右肩上がりで、コロナ禍直前の水準に迫っているといいます。
注目したいのは発生の傾向です。曜日別では金土日の週末に多く、時間帯別では夜から深夜にかけての発生が目立ちます。訓練を受けたプロの係員に対してさえ、この件数です。山川さんが遭遇したのも、残業帰りの夜の車内でした。声を上げたサラリーマンの男性が無事だったのは、幸運だった面もあるのかもしれません。
では、どうするか。ひとつは、自分で対峙せずに車掌や駅係員に伝えるという方法です。もうひとつ、荷物についてはそもそものルールを知っておくと話が早くなります。JR東日本の手回り品のきまりでは、持ち込める荷物はタテ・ヨコ・高さの合計が250センチ(長さは2メートルまで)以内で、重さ30キロ以内のものを2個までと定められています。ただし、このエピソードで問題になったのは大きさではなく置き方でした。ルールの範囲内の荷物でも、置く場所ひとつで通路はふさがってしまいます。
電車は、見知らぬ者同士が数十分だけ同じ空間を共有する場所です。だからこそ、我慢するか、声を上げるかの二択で消耗する必要はないのかもしれません。あの日の車内でいちばん角が立たない収め方をしたのは、「相手にしない、相手にしない」と穏やかに声をかけた、あの初老の男性だったのでしょう。
<再構成/日刊SPA!編集部>
【瑠璃光丸凪】
編集プロダクションA4studio(エーヨンスタジオ)所属のライター。興味のあるジャンルは、アングラ・音楽・ファッションなどサブカルチャー全般と、ジェンダー問題、政治経済問題について。趣味はレコード集め。