【独占インタビュー】那須川天心は初黒星で何を変えたのか 井上拓真への雪辱に向けた"原点回帰"とさらなる進化

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2026年09月14日 09:50  webスポルティーバ

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那須川天心 単独インタビュー前編

那須川天心(帝拳)にとって大一番と言える再戦が間近に迫っている。9月27日、トヨタアリーナ東京でWBC世界バンタム級王者・井上拓真(大橋)に挑むタイトル戦は、昨年11月以来のリターンマッチだ。初戦では3-0の判定負けを喫し、格闘技キャリアで初の黒星を味わった"神童"は、雪辱の場にどんな想いで臨み、どのように戦うのか。8月中旬、東京都内で行なった単独インタビューでじっくりと話を聞いた。

【キャリア初の敗戦で吹っ切れたもの】

――大事な再戦が間近に迫っていますが、今の意気込みは?

那須川天心(以下、那須川) 前回、拓真選手との試合が終わってから、この再戦のために準備をしてきました。いつ試合が組まれても、いつ試合が始まってもいいぐらいの気持ちで。4月には復帰戦でフアン・フランシスコ・エストラーダ選手(メキシコ)と戦ったわけですけども、そこを目ざしてやってなかったというか、今回の試合に向けてずっと取り組んできたという感覚です。

――当然ですが、少なくともこれまでのボクシングキャリアでは最も大事な試合ですよね?

那須川 ボクシングキャリアだけに限らないですよね。格闘技キャリアのなかでも本当に、本当に、大事な試合です。初めて負けましたから、その借りといいますか、預けたものをしっかりと取り返しにいく試合になります。

――格闘家としてのキャリアは長いですが、そのなかでも一番重要かもしれない。

那須川 それくらい大事にしているかもしれないですね。もちろん毎試合大事ではあるんですけど、前回の試合を見てもらえればわかると思いますが、お客さんも感情移入しやすいといいますか、人生を見てもらっている感覚なのかなと思いますね。

――相手が現代の日本ボクシングを代表する井上家の選手というところまで含め、非常にわかりやすいストーリーがありますね。那須川選手のほうで、この1年で変わったところというと?

那須川 前回の試合までは、どちらかと言うとボクシングを習う、学ぶという感覚でずっとやっていました。あの敗戦から、自分を反面教師みたいな感じで捉えて1年間ずっとやってきている感じです。あれが"失敗"とは、自分はあまり思わないですけど、 ああなってはいけないなっていう結果は出ています。そうならないために何をするかということを強く考えながらやっている感じです。

――あの敗戦を味わったから得られたものとは?

那須川 何か吹っ切れることができたところはあります。何のためにやっているんだろうというのをもう一回自分で探ってみて、 本当に自分が強くなりたいと。

 最終的には自分のためじゃないですか。誰々のために格闘技をやっているとか、 ファンのためにとか言いますけど、 それって嘘だと思う。自分のため、自分をしっかりと見せることができたら、自ずとみんなのためにもなる。 その自分とは何なのかをずっと考えてやってきている感じで、だから環境も変えました。どうせやるなら、自分で言い訳を作りたくないし、後悔したくない。原点回帰で葛西裕一トレーナーに教えてもらったりとか、父親のジムに行ったりとか、自分がやってよかったなって思える環境でやることを重視しています。

【自分が関わっている人は、自分の鏡みたいなもの】

――前回の試合を少し振り返っていただきたいのですが、拓真選手は事前の想定以上に強かったんでしょうか?

那須川 うーん、なんか自分がわからないボクシングをされましたね。ボクシングの幅と言いますか、そういったところで後手になってしまい、負けてしまった。パンチが強かったとか、スピードが速くてとか、手数がどうとかじゃなく、やってくる幅。間合いの取り方とかですね。今回はそこ(への対抗策)を探ってきた感じです。

――あの試合での那須川選手は2回まで完璧に近いボクシングをしました。3回以降に流れが変わったように見えましたが、そこから相手の幅が出てきた?

那須川 そうかもしれません。向こうが前に出てきたり、ちょっと歯車を狂わされたという感じで、基本的にそこから立て直すことができなかった。まだ自分の発想、発展が少なかったなと思います。

――あの試合は公開採点で4ラウンドごとに途中経過が発表されました。最初の4回は3-1でリードかなと思ったのが、2-2だったことは影響があったのでしょうか。

那須川 今考えれば、ありましたね。ドローだったので、スタイルを変えなきゃいけないと思ってしまったのが、その時の自分の未熟さでした。

――あれがもし3-1だったら、そのままのスタイルでやっていたかもしれない。

那須川 そうかもしれません。もちろんそうなったら向こうも変えなければいけないと思っていたわけで、"たられば"の話ではありますが。

――那須川選手は人気者ではありますが、それと同時に"日本で一番と言ってもいいくらいアンチも多い選手"という話を以前したことがありました。それほど毀誉褒貶が激しいと、負けたあとは大変だったのではないでしょうか。

那須川 負けたのは初めてだったから、自分よりも周囲にドヨンとした天気の悪い日みたいな空気がありましたね。友だちや仲間は相当落ち込んでいたし、いつもハイテンションな奴が病んでいるみたいな感じになっていたり。自分がそうさせちゃっているんだから、それはちょっと申し訳ないなと思いました。

――自身よりも周りのほうがショックを受けていた。

那須川 自分はあまり感情に左右されないんですよ。悲しい、悔しいとかがダメだとは思わない。悔しいんだったら悔しい、悲しいなら悲しいでいいし、「その感情を手に入れた」と思ったほうが得るものは大きい。ただ、僕が負けて周りがドヨーンとしたり、悲しくなったりというのは今まで見たことがなかったので、自分のためにも、もうそうさせないようにしよう、とは思いました。周囲に悲しい、悔しいと感じさせたという感情とともに生きていくというのが、一番のストレスでした。

――スポーツでよく言われるのが、負けるとそれまでちやほやしてくれた人が離れていくということ。そういう感じではなかったですか?

那須川 それはなかったですね。むしろ周りの人が落ち込んでいて、だから「本当にいい仲間を持ったな」と。それで離れる人がいても、別にいいんです。それでいなくなる人は心から応援してくれる人ではないわけですから。僕は自分が関わっている人は、自分の鏡みたいなものだと思っています。相手が思っていることは、自分がさせていること。そういった感じでいろいろと気づいたことはあります。

【特定のスタイルにとらわれずに再スタート】

――そういった流れを経て迎えたエストラーダとの復帰戦。あれほどの"レジェンド"をストップしたわけで、納得している試合ではありますか。

那須川 勝ったという結果でほっとはしましたね。一安心というか。でも一時の感情だけで、それを引っ張ったりはまったくなかったです。「よし」ってちょっとなっただけで、すぐに「次だ」となりました。練習したことがたくさん出た試合だったので、そのきっかけをつなげていくというのが今後の取り組みとして大事になります。

――"喜び"というより"安堵"だったんですね。

那須川 そうですね。安堵。ちょい安堵。「よし、でもこんなもんじゃない」「そこじゃない」みたいな。心のなかの自分はずっと「こんなもんじゃないから、ここで安堵するなよ」みたいな感じで思っていますね。

――あの試合ではガードが固く、左ストレートも打ち抜いていて、よりトラディショナルなスタイルのボクシングに見えました。それは意識したところだったんですか。

那須川 自分から試合を作りにいくことを意識、イメージしました。今までは来たものに対してアクションを起こすみたいなスタンスが、ガラッと変わったと言いますか、自分から打ちにいく、打ち込みみたいなところを練習しました。 4ラウンド終了後に出た(井上拓真戦同様、公開の)採点がデジャブのようにドローで、前の自分だったらめっちゃ焦っていたと思うんですけど、「いや、このままでいける」と思えた。そこは成長できたところだったし、ブレずに戦えたかなと思います。

――待ちではなく、自らいくスタイルはご自身で考えたものでしょうか? それとも葛西トレーナーなど、チームによる提案ですか?

那須川 チームで話してそういう結果になりました。 過去の自分を超えていかないといけないですし、(特定の)スタイルにとらわれるのはよくないと思っています。何でもできるぞってところを見せるためにも、 自分で自分に発破をかけ、復帰戦でも強い相手を選んでやりました。 ギリギリというか、崖っぷちみたいな状態が好きなんです。 そういう相手をあえて選び、しっかりクリアしたという点でいい経験になりましたね。

――エストラーダ戦のスタイルが今後も基本になっていきそうですか。それともオプションの中のひとつになるのでしょうか。

那須川 そうやって戦えるし、守りながらもいける。どんな状況、どんな状態でも戦える自分を作っている感じです。だから前回の試合はいいきっかけになりました。

――すでに名前は出てきていますが、前回の試合からトレーナーが葛西さんに代わりました。その背景は?

那須川 葛西さんはもともと自分がボクシングを始めたきっかけの人でもあります。キックボクシング時代からずっとパンチを教わっていたトレーナーなので、だから原点回帰の意味も込めて、自分で決めてお願いしました。

 初めて帝拳ジムに来たときは中学生か高校生くらいで、知人を介して葛西さんを紹介していただいたんです。口約束みたいな感じですけど、その時に「いつかボクシングをプロでやるんだったら、教えてやってもいいぞ」と冗談混じりで言われていました。この時期になってようやくその言葉の回収ができたといいますか、そういった背景ですね。

――前任の粟生隆寛トレーナーともかなり親しかったですが、新しい方向に踏み出すにあたって別離の辛さはありましたか。

那須川 悲しい部分はあります。でも割りきらないといけないところもあります。元カノをずっと引きずるわけにもいかないので、やっぱりそこは男らしく(笑)。今までボクシングの基本を教えてもらいましたし、めちゃくちゃ感謝しているので、ずっと付き合いはあるのでしょう。粟生さんとは会ったらちゃんと話しますし、連絡も取ったりしますし。あ、でも元カノとは連絡はとらないですけどね(笑)

後編に続く:井上拓真との再戦に示す覚悟「僕が勝ったほうがボクシング界は面白くなる」

杉浦大介●取材・文 text by Daisuke Sugiura

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