画像提供:マイナビニュース長野県茅野市では、首都圏企業と地域企業を「仕事」でつなぎ、新たなビジネスを生み出そうという取り組みが始まっている。
KotobitoおよびNTT DXパートナーは7月17日、首都圏企業と地域産業をつなぐ事業共創プログラムを茅野市からの委託を受け開始した。その拠点の1つとなるのが、JR茅野駅前の複合交流施設「8Peaks living(エイトピークスリビング)」だ。
さらに同施設には8月31日、睡眠・ウェルネスをテーマにした体験スペース「NAP ROOM」がオープンした。それに先立ち、8月27日、報道関係者向けの内覧会が開催された。
首都圏企業との「仕事」を生み出し、継続的な交流へ
茅野市がある八ヶ岳・諏訪エリアでは近年、企業の進出や二拠点居住の広がりなどによって、首都圏からの関心が高まっている。一方、地域産業では担い手不足や事業承継、販路開拓、新規事業創出など、さまざまな課題を抱えている。さらに、製造業では、人件費の上昇に加え、世界情勢などを背景とした物価高や原材料価格の上昇が経営を圧迫しているという。
そのため、茅野市では、「交流」をまちづくりの重要な要素として位置付けている。茅野市 商工課長の小林弘夫氏は、「交流を事業として進めていくことがまちづくりの根幹であり、この地域における課題解決のコンテンツだと捉えています。内側だけで考えるよりも、外のいろいろな知見を生かして中を育て、展開していくことを考えています」と説明した。
7月から始まった事業共創プログラムでは、首都圏企業が持つ技術やノウハウを地域に取り込み、地域産業の活性化につなげることを狙っている。特徴的なのは、単純に企業同士を紹介することをゴールとしていない点だ。
Kotobito 代表取締役CEO/プロデューサーの石島知氏は、「このプログラムで非常に大事にしているのは、仕事を作っていこうというところ」だと強調した。
地域と都市を結ぶ企業マッチングや交流イベントは、これまでも全国各地で行われてきた。しかし、一度企業が地域を訪問しても、それだけで継続的な関係が生まれるとは限らない。
「茅野市の交流人口を継続的に増やしていくためには、仕事を創出することで、繰り返し訪れてもらえるような出口を確実につくる必要があります。ただ、来てもらって、すぐに仕事が生まれるわけではありません。しっかり設計していかなければならないと考えています」(石島氏)
そこで今回のプログラムでは、企業が地域と接点を持つ入口として「テーマ設定型」と「課題起点型」という2つのアプローチを用意した。
地域の課題と企業をつなぐ、2つのアプローチ
テーマ設定型では「睡眠・ウェルネス」をテーマとして、同分野に関心を持つ企業に茅野市を事業開発のフィールドとして提供する。
一方の課題起点型では、医療、農業、観光、製造業などの地域パートナーが参加し、現場が抱える課題を首都圏企業と共有する。課題解決につながる技術やサービスを持つ企業を茅野市に呼び込み、事業開発へつなげる仕組みだ。
「地域で実際に起きているリアルな課題を首都圏企業と共有し、解決できるソリューションがあれば、茅野市に来てもらって事業開発につなげていきます」(石島氏)
医療分野では諏訪中央病院が参加し、医療従事者の人材不足などを地域課題として検討している。農業や観光、製造業でも、それぞれ地域企業や団体が参加する。
さらに、課題の構造化からマッチング設計、試験的協業(PoC)、次年度の事業化を見据えた出口設計までをKotobitoとNTT DXパートナーが支援する。
石島氏によれば、2026年度秋ごろからPoCを実施し、「ここから1つでも2つでも事業が生まれていく」ことを目指す。10月14〜15日には首都圏企業を招き、白樺湖エリアなどを訪問して地域事業者とディスカッションする宿泊型の視察プログラムも予定している。
駅前の「8Peaks living」を企業共創の拠点に
企業と地域のリアルな接点となるのが、茅野駅前の商業施設「ベルビア」内に4月25日にオープンした「8Peaks living」だ。
施設には地域住民だけでなく、別荘住民や観光客などが自由に利用できるスペースとともに、コワーキング・共創拠点「KNOT LOUNGE」「KNOT OFFICE」なども設けられている。
「8Peaks living」の運営などを手掛けるイマージ代表取締役社長の北原友氏は、「8Peaks livingという名前の通り、八ヶ岳のふもとの“みんなのリビング”です」と説明する。
「地域住民、別荘住民、観光客の皆さんに自分らしく、ふらっと立ち寄って、思い思いの時間を過ごしていただきたいと願っています。ここでいろいろな人が交流することで、人の良いところを見つけ、それが結ばれ、ここから地域に開いていく。そんな場所にしていきたいと思っています」(北原氏)
普段は学生が勉強したり、本を読んだり、食事をしたりすることもできる。そうした日常的な交流空間に企業共創という機能を重ねることで、地域と首都圏企業が自然に接点を持てる場所をつくろうとしている。
そして、この「8Peaks living」に新たに加わるのが、睡眠・ウェルネスをテーマとした体験スペース「NAP ROOM」だ。
仮眠室を「社会実装・実証ラボ」に
テーマ設定型の企業誘致で中心的な役割を担うのがNTT DXパートナーだ。
同社 スリープテック事業部 ディレクターの尾形哲平氏によれば、NTT東日本で立ち上げたスリープテック事業を現在はNTT DXパートナーが担っているという。
「NTT東日本グループとして通信インフラを通じて社会を支えている中で、NTT DXパートナーではその発想を広げ、人々の健康や活力を支える『健康のインフラ』ともいえる睡眠領域に取り組んでいます」(尾形氏)
その活動の1つが、335社ほどが加盟する睡眠課題解決企業間コミュニティ「ZAKONE」だ。「ZAKONE」は、睡眠に関係する企業を業種横断でつなぎ、企業同士の共創や新規事業創出を支援している。
尾形氏は、「我々はこのコミュニティを使って、どんどん茅野市に企業を誘致して、新しい事業を創造していく」と話す。その接点の1つが「NAP ROOM」というわけだ。
「NAP ROOM」は、ZAKONEに参画する企業が持つ睡眠・ウェルネス関連のサービスや製品を実際の空間へ落とし込み、利用者に体験してもらうとともに、新たな共創を生み出す「社会実装・実証ラボ」として設計されている。
視覚、聴覚、嗅覚から休息を促す
「NAP ROOM」では、「入眠準備」「睡眠」「覚醒」という3つのフローを意識している。
まず視覚面では、日常生活の中で絶えず流れ込んでくる情報から利用者を切り離し、視覚的なノイズを減らすことで休息へと導く。
尾形氏は、「スマートフォンを持っていることで、常に情報と接続しています。その接続を遮断してしっかり休息を取ることで、午後のパフォーマンスや、その後の仕事に備える工夫を入れています」と説明した。
聴覚面では、森の中でフィールドレコーディングした音などをミックスし、リラックスを促す仕掛けを採用。嗅覚についてもZAKONE参画企業のエステーの技術を活用し、休息を意識した香りを空間に取り入れている。
さらに重要なのが、ここで完成されたサービスを展示するだけではないことだ。
「共創パートナーの製品や取り組みを体験してもらうとともに、地場ならではの香りや音などと掛け合わせることで、オリジナル製品もつくっていけると思っています。共創、社会実装、実証ラボとしての機能をしっかり組み込みたいと考えています」(尾形氏)
睡眠・ウェルネスと茅野市の地域資源を掛け合わせ、新しい商品やサービスを生み出す。その意味で「NAP ROOM」は、休息のための空間であると同時に、新規事業を試す実験場でもある。
なぜNTT DXパートナーが「睡眠」で地域共創に挑むのか
今回の取り組みにおけるNTT DXパートナーの役割について、尾形氏はもう1つ興味深い点を挙げる。それが、特定の製品を持つメーカーではないからこその「中立性」だという。
「例えば、僕らが枕を作っていたら枕事業者とは連携しづらくなります。ただ、NTT DXパートナーはメーカーではないからこそ、常に中立な立場で横串を通して、いろいろな企業を呼んだり、つないだりすることができます」(尾形氏)
NTT DXパートナーは、こうした中立的な立場で企業をつなぎ、必要に応じて事業化まで伴走する。
茅野モデルをほかの地域へ展開できるか
では、なぜ実証の舞台として茅野市なのか。
石島氏は、首都圏からのアクセスの良さに加え、地域事業者が外部との交流に積極的であることを挙げる。地域では以前から経営者同士のコミュニティや勉強会などが存在し、外部企業を受け入れる土壌が形成されてきたという。
尾形氏も「茅野市役所の方々がすごくチャレンジングで熱量が高い」と評価する。
「新しいことにチャレンジする意欲があり、地場の経営者のコミュニティもある。アイデアをすぐ実装できるフィールドがあるというのは、非常に大きいと思っています」(尾形氏)
NTT DXパートナーにとって、今回のプロジェクトは地域共創モデルそのものを検証する機会でもある。
「地域の課題や地域ならではの資源について、何度も来る中で我々の解像度も上がっています。その課題を解決できる仕組みやサービスを持つ事業者を連れてきて、それが本当に仕事になり、地域の課題解決につながるのかを検証したいと思っています」(尾形氏)
茅野市のキーパーソンと首都圏企業のキーパーソンをつなぎ、そこでビジネスが生まれ、その成果が地域へ還元される。この仕組みを茅野市で実証できれば、他地域への展開も見えてくるという。
地域創生では、イベントを開催したり企業を誘致したりするだけでは、継続的な関係を構築するのは難しい。今回の取り組みが目指しているのは、その先に具体的な「仕事」をつくることだ。
「NAP ROOM」で睡眠・ウェルネスを体験することをきっかけに企業が茅野市を訪れ、地域の人や課題に出会う。そしてPoCを実施し、新たな事業へと発展させ、企業が再び地域を訪れる理由をつくる。
「仮眠」を入口に始まる一風変わった企業共創が、首都圏企業と地域を継続的な「仕事」で結ぶモデルへ成長できるのか。茅野市で始まった取り組みの今後が注目される。(丸山篤)