
平日の昼。施設内は閑散としていて、並んでいるのは高単価なメニューばかり。テナントの撤退が相次ぎ、開業1年で「廃墟」と呼ばれたフードホール――。
2026年の春、そんな評価を集めたのが「タイムアウトマーケット大阪」だ。あれから半年近くたつが、同施設は現在どうなっているのか。「人がいない廃墟」というのは本当なのか。
タイムアウトマーケットは、ロンドンに本社を置くタイムアウト社が世界各地で展開する食の複合施設で、編集者がキュレーションした食と文化を体験できるというのが売りだ。
2014年にポルトガルのリスボンで1号店が誕生して以降、欧州や北米、中東で展開し、今回がアジア初の出店となる。
|
|
|
|
同施設は、うめきた2期の再開発で開業した「グラングリーン大阪」の南館地下フロアにある。JR大阪駅のうめきた地下口から徒歩すぐの立地で、周辺のグランフロント大阪やルクア大阪ともつながる。
総面積は3000平方メートル超で約800席を備え、17の飲食区画と2カ所のバーを構える。関西を代表するシェフやレストランが多数参加し、ステージやイベントスペースを併設するほか、アートも展示。一般的なフードコートのように、ただ食事をするという場所ではなく、食を軸にした体験を売る施設として設計している。
2025年3月21日に華々しくオープンしたが、開業1年を迎えた今春には、空席が目立ち、テナントの閉店も相次ぐなど、ネガティブな話題が注目を集めた。
●何が起きていたのか
2026年2月からタイムアウトマーケット大阪の支配人を務める仁科拓也氏に、これまでの経緯を聞いた。
|
|
|
|
開業後は話題性もあり、3カ月ほどはオープン特需の勢いが続いたという。しかし、その後は集客が低迷。「いろいろな課題が浮き彫りになっていた」と仁科氏は分析する。当時のGoogleマップの口コミには、注文や席の使い勝手、価格帯への不満など、施設への厳しい評価が一定数寄せられていた。
施設の打ち出し方にも課題があった。「ちょっと高級なフードホール」という立ち位置でスタートしたこともあり、そのイメージが独り歩きした。
1万円のシャトーブリアンのサンドイッチ、3300円のマルゲリータ D.O.C.EXなど、高単価なメニューに注目が集まった。実際には単品で1000円以下のメニューも用意していたが、幅広い価格帯であることが伝わらないまま、「高い」という印象が先行した。
同施設では対策として、2025年秋からパーティープランやテークアウトを導入し、バーのビールを値下げ。開業当初から続けてきたDJやライブのイベントに加え、2026年1月には落語も取り入れるなど、「廃墟」と話題になる前から集客を増やすためのテコ入れを続けていた。
●実は好調だった3月
|
|
|
|
2026年3月には、集客が一時的に持ち直した。グラングリーン大阪全体で1カ月にわたり実施したMrs. GREEN APPLEとのコラボ企画に加え、「2026ワールドベースボールクラシック」のパブリックビューイング、開業1周年イベントも重なったためだ。
しかし、同月には17店のうち7店が退店した。同施設では、テナント契約を原則1年ごとの更新としている。街の変化に合わせて店を入れ替えることが世界共通の方針で、契約も1年ごとに更新する仕組みだ。一方で、相次ぐ撤退を「業績不振によるもの」と見る向きもあった。
イベントが集中した3月が明けると、集客は反動で落ち込んだ。退店したテナントの空き区画も目立ち、4月になると報道が集中する。平日の午前11時から1時間が過ぎてもメインフロアの約200席に客の姿がなく、閉店した店舗跡には什器が置かれたままなどの情報が拡散。「廃墟」という言葉が広まった。
一方で、後継テナントの選定は並行して進んでいた。1カ月もかからずに全区画が決まり、5月にラーメン店の「天命」、英国料理の「FURAI GUYS」が開業。6月には15店舗、7月には期間限定のポップアップ店を含めて17店舗に戻した(8月25日時点では16店舗)。報道が相次いだ時期にも、新規テナントとの調整は進んでいた。
●「ランチセット」「水が無料」などの施策を展開
客足を取り戻すための施策も動き出した。狙ったのは、1万人を超えると見込まれるグラングリーン大阪の就業者によるランチ需要だ。周辺施設や大阪のランチ価格を調査し、その結果を踏まえてメニュー構成を見直した。
2025年12月に一部店舗でランチセットの提供を始め、2026年2月には平日限定のランチメニューへ拡大。5月には全店に広げ、平日のランチタイムは全品1500円以下とした。現在は新店の出店などに伴い、1500円を目安に柔軟に設定している。
水の無料提供も4月から平日ランチタイム限定で開始し、現在は土日祝を含め終日提供している。
7月1日時点のメニュー表を見ると、「情熱うどん 讃州」の定食(1000円〜)のほか、ラーメン店「天命」のランチセット(890円〜)、「くれおーる」のたこ焼きランチセット(990円)、「まにぽぽ」のビビンバ定食(小盛り、980円)など、1000円を切るメニューも複数ある。
効果について、仁科氏は「週1回来ていた人が、週3回来てくれるようになった」と語り、日常的に利用する客が増えたとみている。価格に対する評価も変化しており、以前のように「高い」という声は減ってきたという。
実際、グラングリーン大阪のオフィスフロアで働く人に筆者が尋ねたところ、ランチセットの導入後に利用頻度が上がったほか、席数が多く、大人数でも場所を確保しやすい点を評価していた。日常の選択肢に入り始めていることがうかがえる。
●筆者が見た集客の状況
筆者は7月末から9月上旬にかけて、曜日や時間帯を変えて7回現地を訪れた。8月上旬の平日ランチタイムに訪れた際は、ビジネスパーソンを中心に3〜4割ほどの席が埋まっていた。
9月上旬の月曜は、開店直後から昼にかけて館内で過ごした。開店時点からインバウンド客とみられる数組が利用し、午前11時30分には目測で40〜50人ほどのランチ客がいた。正午には各区画にまんべんなく客が座り、報道で空席が指摘されたセンターのハイテーブル席にも客はいた。
週末になると客層が変わった。8月上旬の土曜、午前11時30分。端の座席には空席が多く、デートや家族連れの姿が目立った。客の年齢層はやや高めだった。
同じ時間帯に周辺の施設を回ると、広場を挟んで向かいの「うめきたグリーンプレイス」のフードコートは、家族連れや学生を中心にほぼ満席。大阪駅直結の「バルチカ03」にも、行列になっている店があった。正午にタイムアウトマーケットへ戻ったが、混み具合は変わらず、昼前の時間帯に限れば、周辺施設との集客の差ははっきりしていた。
しかし、盆休みの祝日のランチタイムに訪れた際は、7割ほどの席が埋まっていた。8月末の土曜の昼には、お笑いライブが開催され、区画によっては空席を探さなければならないほど混雑していた。ベビーカーを押す家族連れ、カップル、高齢者、学生らしき若者、外国人客など、あらゆる客層が入り交じっていた。
●残る課題は
現在の集客状況を見ると、「廃墟」と呼ぶにはにぎやかな印象を受けた。具体的な数値は非公開だが、タイムアウトマーケット大阪によると、イベント開催やランチ需要の獲得の効果もあり、集客数は計画値に近い水準で推移しているという。
もっとも、時間帯によっては弱さが残る。仁科氏も「午後2時ごろから午後5時ごろまでが苦しい」と認める。夜も同様で、9月上旬の金曜午後6時30分時点では、席の埋まり具合は2割ほど。ビールを半額で提供する月曜も、午後6時15分時点では客足はまばらだった。
ただ、夜の需要がないわけではない。同施設は宴会プランを用意し、施設内には個室も設けている。駅直結という立地条件に加え、大人数でも席を取りやすいという利点があることから、設備やメニューの認知が広がれば、可能性はありそうだ。
商業施設にとって、2年目は開業景気が切れ、実力の問われる局面でもある。タイムアウトマーケット大阪は施策を打ち続けたが、成果が外から見えるまで時間がかかった。一度ついたイメージは、実態よりも長く残りやすい。
11月にはグラングリーン大阪の北側に「うめきたの森」が開業を予定しており、周辺のさらなる人流の増加が見込まれる。仁科氏は今から1年後の理想像として「さまざまな客層の人が毎日笑顔で食事を楽しんでいる。そういう姿になっていればいい」と語る。
うめきたエリア全体のまちびらきが完了する2027年度。そのとき、タイムアウトマーケット大阪はどんな施設として呼ばれているのか。
(カワブチカズキ)
|
|
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2026 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。