
F1第14戦スペインGPレビュー(前編)
初開催のマドリンク(第14戦スペインGP)は、角田裕毅(レーシングブルズ)にレースらしいレースをさせてくれなかった。
15番グリッドからスタートした角田は、ターン1の飛び込みでタイヤをロックアップさせたカルロス・サインツ(ウイリアムズ)に追突されてしまった。マシンから飛び散ったパーツが火花を散らし、レーシングラインの外に押し出されている間に、キャデラックのセルジオ・ペレスにも先行されてしまった。
「残念ながら、1周目のターン1でレースが終わってしまったようなものでした」
相手のほうが2秒以上遅くても、このマドリンクでは抜けなかった。
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壁に囲まれた高速サーキットで、数少ないハードブレーキング区間のコース幅も狭く、オーバーテイクポイントにはなり得ない。上位勢でも中団勢でも、追い抜きはほぼ不可能だった。
角田もキャデラックに抑え込まれて抜けず、あっという間に中団グループからは15秒も後れを取ってしまった。
「うしろから追突されて、そのせいでマシンにかなりダメージを負ってしまいました。接触でポジションを落としてしまったこともあって、ここはオーバーテイクが難しいですし、楽しいレースではなくなってしまいました」
肩を落としてそう語る角田の表情は、レースを楽しんだ過去2戦とはまったく違っていた。
このマドリンクでは、楽しめるようなレースはできなかった。さらに14周目にバーチャルセーフティカーが入ったことで、角田の入賞争いのチャンスは完全に潰えてしまった。
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中団上位のドライバーたちがこのタイミングでタイヤ交換義務を消化できたのに対し、ハードタイヤでスタートしていた角田はピットインするわけにはいかなかった。ソフトやミディアムでは、残り40周を走りきることはできないからだ。
後方からのスタートとなった角田は、ハードタイヤで長くステイアウトしてチャンスを模索する戦略を採らざるを得なかった。だが、それが完全に裏目に出てしまった。
【金曜のフリー走行は好調だったが......】
オーバーテイクが極端に難しいサーキットだからこそ、どのチームも2台のうち1台はこの戦略を採っており、グリッドの約半数がハードタイヤを履いているという異例の事態だった。つまり、約半数のドライバーがここで勝負権を失う形になり、レーシングブルズと角田だけの問題ではなかった。
ペレスがピットインして前がクリアになっても、角田のペースは中団上位勢ほどには上がらなかった。マシンにダメージを負っており、少なくとも1周あたり0.5秒は失っていたからだ。
同じハードスタート戦略のピエール・ガスリー(アルピーヌ)やガブリエル・ボルトレート(アウディ)と戦うこともできなかった。
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「前がクリアになった途端に一気にペースを上げることはできましたし、マシンのダメージの大きさを考えれば決して悪いペースではなかったと思います。でも、グリップ感がかなり低かったですね」
以降はひとり旅になり、ウイリアムズとハースの各1台を抑えて14位を確保するだけのレースになってしまった。この8カ月間、角田が渇望してきた他車とのバトルを楽しめるようなレースにはならなかった。
金曜は、僚友アービッド・リンドブラッド(レーシングブルズ)がFP1で7位、FP2で4位。角田もパワーステアリングのトラブルでFP1を半分失い、FP2でもトラフィックや赤旗で新品ソフトのアタックがまとめられなかったにもかかわらず8位につけるなど、初日のレーシングブルズは好調だった。
しかし、土曜になるとアルピーヌやアウディが躍進を見せ、レーシングブルズの優位性はなくなってしまった。
すでにオーバーテイクが極めて困難であることは明らかで、モナコと同じように予選が何より重要という状況のなか、角田はQ2最後のアタックで本領を発揮することができなかった。
Q1ではチームメイトを0.029秒上回って12位につけ、中古タイヤのQ2最初のアタックでは1分34秒320とまずまずのタイムを記録していた。しかし、肝心の新品タイヤで0.236秒しかタイムアップできず、15位に終わってしまった。
【アグレッシブな走りが見たかった】
まさかの結果に、角田も驚きを隠しきれなかった。
「なぜだかわかりませんけど、とにかくペースがまったくありませんでした。なぜかタイヤのグリップをまったく感じられなくて、マシンの速さを引き出すことができませんでした。新品タイヤよりも中古タイヤのほうがいいと感じる時があるくらいだったので、すごく変でした」
マドリンクは初開催ゆえに路面コンディションの変化が激しく、刻々とグリップレベルが上がっていった。もともとのアスファルト自体はかなりハイグリップな路面であり、だからこそ余計に変化幅が大きくなったようだ。
金曜から土曜、そして予選Q1からQ2と、路面のコンディション変化にマシンとアタック前のタイヤ準備を合わせ込みきれなかったのが、レーシングブルズだった。
「いろんなことが重なった部分はあったんですけど、FP3から予選に向けて変えたことがかなり響きました。予選では、特にペースが上がっていった時にマシンバランスやフラップの合わせ方に影響してしまったので、そこが一番の要因だったかなと思います」
マドリンクで最も重要な予選が低調な結果に終わり、それがスタート直後の接触や遅いマシンに抑え込まれる展開、さらにはハードタイヤを選択するという戦略につながり、最終的に楽しめないレースになってしまった。
それでも角田は、この3戦の代役出場というチャンスにおいて「やれるだけのことはやった」と胸を張った。
「アップダウンの多い3戦でしたけど、限られた時間のなかで全力は尽くしましたし、可能な限り早く前進しようと、やれるだけのことはやったと思います。特に最初の2戦ではポイントも獲れましたし、ある程度の速さも見せられたと思います。全力を尽くしたので、悔いはありません」
オランダでマシンへの理解を深め、イタリアで10位入賞を果たしただけに、このマドリンクでは角田らしいアグレッシブな走りが見たかった。それが果たせなかったことに一番もどかしく感じているのは、ほかの誰でもない角田自身だろう。
「課題はいつでもあります。次に走れたら、その時に改善するために、自分のなかにしまっておきます」
これで終わりにはしたくない。次のチャンスが来ることを期待したい。
◆つづく>>
米家峰起●取材・文 text by Mineoki Yoneya