
更年期で苦しんでいた私に
「ここ数年、更年期症状に見舞われて、体調も精神状態もよくなかったんですよ」カホリさん(52歳)はそう言って肩をすくめた。3歳年下の夫はやさしいし、成人した子どもたちも心配してくれたが、心身の不調は「なぜ生きているのだろう」という人生の根本的な命題にまで行き着き、気持ちが晴れることはなかったという。
「そんなとき、70代半ばの義母が時々見舞いに来てくれて。何をするわけでもないんです。おいしいお菓子をもってきてお茶を飲みながら話をするだけ。でもいつしかその時間が楽しみになっていって」
義母は趣味の多い人だという。50歳を越えてから、自分に柔軟性がなくなりつつあると気付き、とにかく毎年、新しいことにチャレンジするようにしたのだそう。
「趣味が多いことは聞いていましたが、そういう意図があったとは知らなかった。これまでいろいろなことをやったけど、向いてないと思ったらやめ、また新しいことを始めるという繰り返しだったそう。今も三味線、フラメンコ、朗読、そしてオンラインゲームなどにはまっているようで……。和物も洋物も、そして年齢をも顧みないラインアップがすごいでしょう。私も思わず、『お義母さん、どこに向かってるんですか』と言っちゃいました」
すると義母は、「私見だけど、それぞれ脳の別の部分を使っているような気がするのよ。いろいろなことをやると、そのたび脳が活性化するんだと思う」と言ったそうだ。
「脳ドックを受けたら、ものすごく若い脳だと褒められたそうです。義母の言い分も間違っていないのかもしれない」
義母からパワーをもらって
とはいえ、義母は裕福なわけではない。ほとんどが地元の自治体で行われているサークルで、三味線は友達から譲ってもらったものだ。朗読の勉強は地元の有志が立ち上げたときから参加している。|
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そんな義母からパワーをもらい、カホリさんも昨年からずっと習いたかったチェロを始め、今年は「源氏物語を読む会」に参加しているのだそう。すると、自身も脳の活性化を自覚するようになったという。
「楽しいなと思う時間が増えると同時に、心身の不調が緩和されてきました。もともとどこかが悪いわけではなかったんですよね。子どもたちが巣立ったこともあって、体中に穴があいたような気分だった。そこは誰かが埋めてくれるものではない。自分が埋めるしかないんだと分かりました」
来年もまた、何か新たなことにチャレンジしようと思っていると明るい表情で言った。
新しいものに興味を示さなくなった母
「科学的根拠は分かりませんが、母の介護をしていて思うところがあります」と言うのは、85歳の実母と同居するアリサさん(56歳)だ。このところ物忘れがひどくなった母だが、前兆はあった。
「以前はとにかく新しいものが好きで、私や子どもたちが珍しい食べ物を買ってきたりすると、いち早く興味を示して『早く食べよう』と言うような人でした。自分でも近所を散歩しているときに見つけたカフェに入ったらおいしかったからと言って、焼き菓子を買ってきたりしていた。でも5年ほど前から、新しいものに興味を示さなくなったんです」
「面倒」が口癖となった。新しいものを試すことへの興味より、「いつもと違うもの」を拒絶するようになったのだ。以前なら、あら、面白そうと思ったことが、面白いと思うことさえ面倒になったようだ。
習い事だけではなく、脳を老いさせないためには
「それを老いだから仕方ないと思うのか、もっとワクワクしながら生きていきたいと思うのか、そこが人によって分かれるところかもしれません。母の姉は88歳ですが、時々わが家にも2時間かけてやってくるほど元気。『ちょっと面白いものを買ってきたわよ』とおいしいものを届けてくれます。その伯母いわく、『面倒だと思うことはたくさんある。持病もあるしね。でもここで負けたらいかん』と自分を鼓舞するんだそうです。物事を整理して考える習慣も大事だと思うと言っていました。忘れそうならメモする、毎日日記をつけることも続けていると。その気力の違いなのかもしれませんね。母と伯母、二人の元気度合いにどんどん差がついていると実感しています」気力だけで物事が全てうまくいくわけではないし、持病の深刻度にもよるが、年を重ねるほど、「どう生きるか」を考えることは重要なようだ。
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