
森保一監督インタビュー@前編
日本代表を指揮する者として、ずっと抱いてきた思いがある。監督としてのあらゆる決断は、その一念に基づいてきた。
9月から再び日本代表の先頭に立つ森保一監督に、ラウンド32で敗退した北中米ワールドカップの総括と、そこに至る思考の「芯」を聞いた。
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── 北中米ワールドカップのブラジル戦について、森保監督は帰国後の取材などで「自分が工夫していれば勝てた」と話しています。
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「まずはスタメン、そして選手交代です。ここ最近はジョーカーを必ずベンチに置いて、勝負どころのあらゆる局面に備えてきました。それに対してブラジル戦は、先行して勝ちきるのを一番の勝ち筋として、スタートの時点ですべてを注ぎ込みました。
ブラジル相手にリードされたら、追いつき、勝ち越すのは簡単じゃない。どの試合もスタートから100パーセントの力をぶつけていますが、あのブラジル戦は経験のある選手にできるだけ長い時間プレーしてもらって、勝ちきる展開へ持っていければと考えました」
── 前半は1-0で折り返すことができました。それを受けて後半、ブラジルがギアを上げてくることが予想されました。
「はい、それはもちろん」
── 56分に同点に追いつかれると、66分に堂安律選手(フランクフルト)と中村敬斗選手(当時スタッド・ランス、現リヨン)をベンチに下げました。
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「律も敬斗も守備に追われて、なかなか前へ出ていけない。体力的にも厳しくなっていたので、フレッシュな(菅原)由勢(当時ブレーメン、現カリアリ)と(鈴木)淳之介(コペンハーゲン)を入れて、しっかり守備をして攻撃へ移っていこうと。
ただ、ブラジルがさらにギアを上げてきて、完全アウェーのようなスタジアムの雰囲気もあり、押し込まれる流れは変えられなかった、ということです」
【勝てると本気で考えていた】
── 78分には鎌田大地選手(クリスタル・パレス)、伊東純也選手(ゲンク)を交代させました。鎌田選手はケガでプレー続行が不可能だったと。
「大地は前半から傷んでいました。ブラジル相手でもボールを受けて試合をコントロールできる選手なので、彼が退いたことでチームの機能性が変わってしまうところはありました。受け身になる時間が長くなってしまった。
冒頭の質問の『工夫』について言えば、律か敬斗を残してポジションをひとつ上げるとか、純也をシャドーからウイングバックへ移して残すとか、そういう判断はあってもよかったのでは、と」
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── 交代カードを4枚でとどめたのは、延長戦を見据えたもので? 1-1の時間帯は、ブラジルも交代枠を1枚残していました。
「そうです、延長かなとは思っていました。延長に入ればプラス1枚で2枚使えますので、前線の選手を変えようと。(カルロ・)アンチェロッティさん(ブラジル代表監督)も90分で決めたいのはもちろんでしょうが、延長に入った場合も想定していたのでは」
── 試合が終わった瞬間、記者席のブラジルメディアは狂喜しました。僕自身は1998年からワールドカップを取材していますが、ブラジルのメディアがベスト8より前の試合に勝って狂喜する場面は、かつて見たことがありません。
「親善試合とはいえ2025年10月に我々が勝っていたので、ブラジルからすれば今度は絶対に勝つ、と。負けたら終わりのトーナメントですから、もちろん勝たなければいけないわけですが、プレッシャーはあったのかなと思います。
......ただ、相手どうこうよりも、とにかく悔しかったですね。ネイマールという絶対的な選手が万全でないことも含めて、今の自分たちなら勝てると本気で考えていましたから」
【言われて、ハッとさせられた】
2022年のカタールワールドカップ後の森保監督は、さまざまなシステムをチョイスしてきた。2023年は4バックをベースに4-2-3-1と4-3-3を併用していった。2024年途中から3バックを取り入れ、そこからは3-4-2-1を主戦術とした。
システムを決める前提として、指揮官は選手のポテンシャルを余すことなく引き出し、勝つ可能性を1パーセントでも上げる、と繰り返してきた。北中米ワールドカップへ向かっていくプロセスでは、「積み上げの重要性」も繰り返し説いてきた。
どちらも偽らざる思いである。そのうえで、森保監督は自らにある使命を課していた。
── 2018年の監督就任から北中米ワールドカップまでの道のりにおいて、森保監督が常に念頭に置いていたこと。それは、日本のゲームモデルを作ることだったのでは? 誰が監督でも、どんなメンバーでも揺るがない日本のサッカーを構築しようとしてきたのでは?
「そのとおりです。システムを3バックにするのか、4バックにするのか、といったことはありますけれど、日本代表というチームの力の最大化、最適化を常に探し求めてきました。
ちょっと話が逸れてしまうかもしれませんが、2022年のカタールワールドカップ後にヨーロッパへ視察に行って、レアル・ソシエダの関係者と話をしたんです。日本の指導者養成にも関わってくれている方で、『ワールドカップでスペインに勝ってよかったな』と言われた時に、私は『勝ったけれどポゼッション率は20対80だった。将来的には自分たちももっとボールを保持できるようになりたい』と答えたんです。
そうしたら、『何を言ってるんだ』と。『日本の守備は世界一だぞ。世界のどのチームも嫌がることを、まさか捨てるのか』と言われて、ハッとさせられたんです。僕自身はカタールワールドカップ後に続投が決まって、アップデートやブラッシュアップを考えていたところだったので、粘り強く戦う、組織的に戦う自分たちの強みは絶対に忘れちゃいけない、と思いました」
【トレンドをコピーするつもりはない】
── そこは日本の強みであり、日本のゲームモデルの土台と言っていいものでしょうね。
「世界のトレンドをコピーするつもりはないのですが、やはり積み上げが大事なんだと、あらためて感じました。それは強く覚えています」
── 個人的には、その国ならではの『型』がないと、ワールドカップでは優勝できないのだろう、と思います。
「僕もそう思います。『日本型』のゲームモデルを作り上げながら、個の力を上げていく。やはり、個のレベルを上げていかないといけないでしょう」
── 日本人選手のレベルは相対的に上がっていますが、カタールワールドカップから北中米ワールドカップまでの4年間で、ビッグクラブへ移籍した選手は思いのほか少なかった。それは、少し寂しい現実です。
「ワールドカップでベスト8やベスト4に食い込んでくるチームは、多くの選手がチャンピオンズリーグで優勝を狙えるクラブに所属しています。そういう経験値を持った選手たちが揃っていますからね」
── トップ・オブ・トップの国は独自の『型』がありつつも、ピッチ上で起きる問題を『個』で解決できる側面もあります。特に「取りきる」ところと「守りきる」ところですね。
「日本の結束力、組織力は、間違いなく世界一です。その強みをさらに高めるために個の大きさが必要になる、というのが私の考えです。選手たちもそこはわかっているので、所属チームでの活動からマックスでやってくれている。
日本からヨーロッパへ行く、主要リーグから5大リーグへ行く、とステップアップをしていくなかで、選手たちは自分の身体が壊れることをいとわずに、個を大きくしている。ケガ人が出るのはホントに残念ですけれど、ケガをしてしまうくらいチャレンジしてくれている。選手たちはすごいことをやってくれていると、私はいつも感心させられています」
【4年がかりの目標は、ほぼ達成された】
── 2018年9月からの8年間で、森保監督の考える『日本型』のゲームモデルは固まってきていますか?
「世界で勝つための積み上げはできている、と感じています。カタールワールドカップを終えて、FIFAランクがひとケタのチーム、ワールドカップのシード分けでポット1に入るチームに勝つには、やはり攻撃を磨かなければいけないとの反省がありました。
一例としてポゼッション率を挙げると、カタールワールドカップのスペイン戦は20対80でした。その数字を5パーセント、できれば10パーセント上げていこうと」
では、カタールワールドカップと北中米ワールドカップで、ボール保持率にどのような変化があったのか(以下はFIFAのインコンテスト=どちらも保持していない時間、を含む集計)。
カタールワールドカップのドイツ戦は22対65(インコンテスト=13)だった。コスタリカ戦は48対39(インコンテスト=13)と上回ったものの、スペイン戦は14対78(インコンテスト=8)と圧倒的にボールを握られた。そしてラウンド16のクロアチア戦は35対51(インコンテスト=14)。
一方、北中米ワールドカップでは、オランダ戦が37対54(インコンテスト=9)。4-0で勝利したチュニジア戦は55対36(インコンテスト=9)と上回り、1-1で引き分けたスウェーデン戦は44対44(インコンテスト=12)だった。
そして、ブラジル戦は30対61(インコンテスト=9)。4年がかりの目標は、ほぼ達成されている。
── この4年間でブラジル相手に30、オランダ相手に37まで保持できるレベルに到達しました。この数字をさらに伸ばしていきながら、日本型を構築していくわけですね。
「一気にひっくり返したいけれど、そんなに甘いものでもありません。20対80は本当に押されている展開で、ワンチャンスあるか、ないかという感じですが、30対70はやられっぱなしという感じでもない。
いずれにせよ、ある程度ボールを持つのは前提です。そのうえで、攻撃へ出ていくには、ボールを奪わないといけない。つまり、守備をしないといけない。組織で守ることは以前からできていて、個で守ることもできるようになってきています。でも、ブラジル戦の2失点の場面では、相手をマークしていない選手がいるんです」
(つづく)
◆森保一・後編>>「1番から11番まで、どういう選手が必要なのか明確にしたい」
【profile】
森保一(もりやす・はじめ)
1968年8月23日生まれ、長崎県長崎市出身。1987年に長崎日大高からマツダ入り。1992年にハンス・オフト率いる日本代表に初招集され、翌年「ドーハの悲劇」を経験。サンフレッチェ広島→京都パープルサンガ→ベガルタ仙台を経て2003年限りで引退。2012年に広島監督に就任して3度のJ1制覇。2017年から東京五輪代表、2018年からA代表を率い、2022年カタールワールドカップでベスト16入り。2026年北中米ワールドカップ後も続投して2027年アジア杯まで指揮する。日本代表通算35試合1得点。ポジション=MF。身長174cm。

