
「3年3カ月に及ぶ隔離部屋での勤務を強いられるパワハラを受け、株式会社あおぞら銀行(以下、あおぞら銀行)を相手に2023年4月に起こした裁判は、8月24日、原告、被告、双方からの上告を最高裁が不受理とし、高裁判決が確定というかたちで終わりました。
高裁では多くの訴えが認められたものの、一部、認められなかった主張があり、くやしい気持ちが残りました。でも、今、関連会社に出向して周囲に人がいる環境で働くことができています。ごくごく当たり前の日常がありがたいんだなって感じながら、仕事をしています」
こう語るAさんは、高校を卒業後、5年ほどトラック運転手をしたあと、ファイナンシャルプランナーの資格を取得し、転職を繰り返してある保険会社に勤務していた。
「そのときにあおぞら銀行を担当していて『保険の販売を強化したいので来ないか』とお誘いをいただきました」
2011年10月にあおぞら銀行に管理職層で入行したAさんは、2019年7月に昇格。ところが2020年6月、同僚によるコンプライアンス違反や証拠の隠滅が疑われる行為を内部通報したことで、社内評価が一変したと、Aさんは語る。
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「通報から1カ月後に人事部から呼び出され、過去の問題行為を指摘されました。例えば、コロナ禍で社内会議があったとき、出社を推奨されましたが感染を恐れてリモートで参加すると伝えました。大事な会議だから来られませんかと言われたのですが、志村けんさんが死亡したニュースもあったので『死にたくない』という思いで断ったのです。
それが『指示に従わない』と問題行為にされていました。そのほかにも5、6年前の社内でのやりとりが『反抗的だった』などと捉えられ、2020年10月に再び人事部に呼び出され、3日間の出勤停止の懲戒処分を受けました」
その後、業務指示が全く来なくなり、仕事がない日々が続いた。2021年2月、来客用応接室に呼び出されると、人事評価が最低ランクになる可能性があり、降格になると給与が20%ほど下がると伝えられたという。
「そこで、『ご退職、検討いただけないでしょうか』と退職勧奨がありました」
伝えられていたように、その後、最低の人事評価となり、2021年4月1日から2階級降格の上、来客フロアにある8畳ほどの応接室の一つをあてがわれた。机の上にはパソコンのモニター、キーボード、マウスのみが置かれ、ゴミ箱はなく、シュレッダーを利用する際は人事部担当部長の判断が必要だったという。
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「人事部付けで、一人配置された隔離措置でした。週3日出社して、週2日在宅勤務という勤務形態。出社するときは、毎朝人事担当部長と30〜60分の面談があり、退職勧奨されたり、業務とは関係のない雑談をしていました。あとは業務終了するまでの約8時間、誰とも話す機会はなく、会議に呼ばれることもありませんでした。
仕事といえば、レポート作成のみ。会社からテーマを与えられ、2カ月に1回ほど提出していました。私のキャリアと関係のないテーマも多く、何に活用されたのかは分かりません。とりあえずやっとけみたいな感じだったと思います」
Aさんが1日を過ごした応接室の廊下側に面した壁は、腰から上がすりガラスになっていたため、日々、廊下を行き交う多数の行員からの目が気になった。
「言葉を選ばずに言うと、晒し者。公開処刑というか、ボクは高卒ですが、大学出の大人がよくこんなことをやるなって。最初の感情は怒りや悔しさだったんですけれども、数カ月経つとそういった感情がどんどんなくなって、屈辱感と羞恥心に苦しむ日々が続きました」
誰もAさんに近づこうとしなかったが、たまに退職近くになった行員から『これ、いつまで続けんだろうね』、『こんな人権侵害、これ、当然、社長、知ってるよね』と声をかけられることもあったという。
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2023年3月、Aさんが加入していた組合が、東京都労働委員会に申し立てたところ、Aさんの置かれている就労環境が異様だと認定され、速やかに人事部以外の部署に配属させなければならないという命令が出た。
「これで隔離部屋から解放されると思いました。中央労働委員会で再審査中であっても、初審命令に従う義務があるとされていますので、銀行も従うはずだと喜んだんですけど……、隔離措置は解消されませんでした。喜びから一転、地獄に突き落とされたような大きなギャップにより、精神的にも落ち込み、不眠症になりました。
3カ月くらいジムに行って、なんとか疲れれば寝られるかなと思ったんですけれども、結局、もう、全然眠れなくなってしまって、心療内科で処方された薬を飲んでいました」
隔離部屋生活は2年になろうとしていた。Aさんは妻には余計な心配をさせたくないため、出かけるときは玄関まで笑顔でいたが、一歩外に出ると気持ちが落ち込んだ。当時、小学校高学年だった子どもには、父親として、自分の置かれている状況をとても見せられない。そんな悔しさもあったのだろう、家族の話となると、Aさんはぐっと歯を食いしばり、涙をにじませた。
「隔離されていたのは、いろんなお客さまがいらっしゃる銀行の応接室なので、画像記録や録音がされている可能性があると思っていました。気が休まる時間がないし、1時間、2時間がとても長い。そのなかでいろんな感情がグルグルグルグル回るんです。“あー、死んだら楽だな”と思うことは1回、2回ではなくて、何十回と考えました」
東京都労働委員会の命令が出た1カ月後の2023年4月、在職したまま訴訟を起こした。一審の審議中の2024年2月に東京労働局からパワハラ防止法違反と認定された。そして2024年7月には関連会社への出向命令が出て、3年3カ月の隔離生活から解放された。だが――。
「裁判では懲戒処分や降格の無効などを求めました。しかし、2025年3月の地裁判決では全負けでしたね。もう本当に、全て、何も認められなかった。しかし、2026年1月の高裁では一転、パワハラ認定、10個の懲戒事由すべてが否定され、懲戒処分や降格、減給の無効など、訴えが認められたんです。判決を聞いたときはホッとした。でも、それも束の間で、おそらく最高裁まで争うことになると予想していたので、すぐに気持ちも切り替わりました」
Aさん自身もまた、高裁判決には納得できない部分があり、最高裁に上告したのだった。高裁の判決では、降格によって減った賃金の差額分とは別に、慰謝料の支払いも認められたが……。
「高裁では、パワハラが内部通報の報復だとは認められませんでした。また、300万円(弁護士費用を除く)を求めた慰謝料も、100万円にとどまりました。隔離措置は3年3カ月ですので、月に換算すると約2万5600円。サラリーマンのお小遣いみたいな額で、あのようなパワハラが許されてしまうのかというメッセージにもなりかねません」
あおぞら銀行も含め、双方が最高裁に上告したが、不受理とする決定がなされ、高裁判決が確定したのだった。あおぞら銀行側は判決をどのように受け止めているのか。広報担当者が、以下のように答えた。
「弊行としましては、今回の判決につきましては、真摯に受け止めております。必要な改善に取り組んで参ります。その他につきましては、個人のプライバシーにかかわることでございますので、コメントは差し控えさせていただきます」
長い裁判を終え、日常生活を送っているAさんだが、パワハラで受けた心の傷が癒えることはない。
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