写真「AIに仕事を奪われたら、人間はどうやって生きていけばいいのか」
昨今、そんな不安を抱く人も多いのではないだろうか。AI社長やAI社員というキーワードにも表れるように、「社長だけが人間で、他の社員は全員AI」という会社は、もはや空想の話ではない。
生成AIはあらゆる専門領域に精通し、作業まで代行してくれる。小規模事業なら、すでにそれに近い形で回っている会社もあるかもしれない。
しかし、これに対して「心配はいりません。AIに仕事を奪われても人間の価値が1ミリも下がりません」と語るのは、脳科学者である黒川伊保子氏だ。
AIに仕事を奪われても人間の仕事がなくならない理由について、経済と脳科学の両面から黒川氏が解説する。
※本記事は、『AIのトリセツ』(黒川伊保子著、扶桑社刊)より一部抜粋・再構成してお届けします。
◆社員全員がAIという会社
先日、こんな質問を受けた。
「このままいけば、社長だけが人間で、他のすべての社員はAIという会社もありえますよね?」
たしかにその通り。しかも、もう未来の話じゃない。生成AIは、あらゆる専門領域の、あらゆる業務に精通しているし、作業も代行してくれる。生成AI利用を支援してくれる企業もやまほどある。
社長に全方位の意思決定力があるのなら、完全に可能である。小規模事業のアントレプレナーなら、既にそうしているのでは?
私がそう答えたら、質問者は「では、人間は、どうやって生きて行けばいいのでしょうか」と顔を曇らせた。
私は笑顔で答えた。
「遊んで暮らせばいいのでは? そんな社会になったら、消費することが、人間の仕事になるから」
◆AIに仕事を奪われたら、消費することが仕事になる
社長一人で、何十億も稼ぎ出すのであれば、当然、税金を山ほど払ってもらうことになる。それを国が生活分担金として、国民に分配すればいい。
国は、AI導入によって超高率税を払う企業の製品には、それがわかるマークをつけることを許可する。となれば、生活分担金を当てにしている人は、その商品を買うでしょう、自分のお金が循環していることになるのだから。
商売は、消費してもらわなければ完結しない。人間を雇用しない会社は、超高率税を払うことで、消費者に認めてもらうしかない。それが新たな企業コンプライアンスの一つになるだろう。
そもそも、人間に働き口がない時代には、企業側が商品を買ってもらうお金を社会に還元しておかなければ、商品が売れることがないのである。
そう考えると、会社経営は、なんだかおかしなマッチポンプになっていく感じがする。とはいえ、人間を雇っていた分を社会に還元するだけだから、儲かる社長は、ちゃんと儲かる。
ビジネスが「売る」「買う」の表裏一体で成り立っている以上、消費を一手に担っている人間が、生きていく道を断たれることはない。AIは、せいぜい電気代を食うだけ。どんなに進化しても、消費者にはなれない。
◆完全AI社会なら、人はただ幸せになればいい
「ストレスのある仕事に、一日の大半をささげて、人生がすり減っていくように感じる」人は、もういなくなる。
人間は、仕事をAIに押し付けて、自分は魂が楽しむことをやって生きればいい。一日を、もっと自由に使っていい。どこかの酔狂な社長が、AIを駆使して、超高率税を払ってくれているおかげで。
もちろん、「自分の魂が喜ぶこと」が、「いわゆる仕事」であることも多いはず。人の命を救ったり、お米を作ったり、子どもたちの育ちに寄り添ったり、心に響くものを創ったり、街をきれいにしたり。
喜びを伴う仕事は、たいていAIに完全代替できないものだし、たとえ代替できたとしても「人の手や思いと共にあること」の価値はけっして費えないから大丈夫。
冷凍食品を電子レンジでチンしてもけっこう美味しい時代に、それでも、手作りをしたい人がいて、手作りを幸せだと思う人がいる。実際、美味しさの質も違う。
「この季節、この食材、この家族、この時間、この天候、この気分」で作られる料理だもの。塩分濃度とかうまみ成分とかの問題をはるかに超えた、身体的フィット感がそこにはある。
それを美味しいと感じるセンスは、愛することに直結した本能で、人間が人間である限り、けっしてなくなることはない。
そりゃ、「魂が喜んでばかりもいられない、つらい仕事」も、この世には残るだろう。けれど、右のような社会で、その仕事を、使命感をもって引き受ける人は、社会のヒーローになるだろうし、対価も破格になるはず。
私は、「AIが仕事を奪う未来」を、けっこう楽観視しているのである。経済社会において、結局一番強いのは消費者だから。
◆たった一人の文化祭の準備は楽しめるのか?
さて、とはいえ、私は「社長だけが人間、後の従業員はすべてAIという会社」が世の主流になるとも思っていない。
だって、私自身が起業したときのあの感じ……! 志を同じくする仲間とアイデアを出し合って、一つ一つ問題解決していったあの日々。まるで高校の文化祭前夜のような高揚感だった。
挫折しそうになったことは数知れず。でも、すべての危機は、仲間と家族を路頭に迷わせないために乗り越えてきた。自分のためだけだったら、とっくにあきらめていただろう。仲間がいるから、会社なのである。
たった一人の会社なんて、たったひとりで文化祭の準備をするようなものでしょ。それって、寂しすぎない?
けどまぁ、たぶん、自分以外がすべてAIの会社経営者は、ゲーム感覚で会社経営をするのだろう。ゲームで育った世代は、私たちの世代よりずっと「たった一人の文化祭」を楽しめるに違いない。
でもね、いくらゲームが進化しても、野球は電子ゲームやAIショーでいいや、に、ならないでしょう? AIでスーパーヒーローがいくらでも作れる時代に、大谷翔平の存在価値は1ミリも下がらない。
身体感覚を持つ仲間との共鳴でないと意味がない。身体感覚を持つヒーローの活躍でないと意味がない。脳には、確実に、そういう領域がある。
AIは、人間の代わりになんか、なれないのである。
〈文/黒川伊保子〉
【黒川伊保子】
(株)感性リサーチ代表取締役社長。1959年生まれ、奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に従事、2003年現職。『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』がベストセラーに。近著に『息子のトリセツ』『母のトリセツ』