
1度は結婚したい
「ずっと一人だったから、死ぬまでに1度は結婚をしてみたい。私はそういうタイプでした。だからといってどうしてもというわけでもない。曖昧といえば曖昧なんですが、いい人がいればともに手を携えて穏やかに生活するのもいいなと思っていました」キヨカさん(58歳)は、結婚相談所で頑張るより、パーティー系での出会いを求めた。何度か通ううちに、女友達ができたのがうれしかったという。
「その友人も同世代で、同じようにずっと独身。私は親の介護などで結婚しそこなったんですが、彼女は恋愛至上主義だったのと笑っていて。この年になっても華やかな人なので、モテるだろうなと思ったけど、『モテるわけないでしょ』って。時々会って作戦会議を開いたりするようになり、そこに時々見かける他の女性も加わって、妙に女同士の連帯が強くなりました。いろいろ情報交換をしたり、それぞれの活動報告をしたりと充実した活動をしています」
先日、3人が集まったとき、一人の女性が「でもさ、結局、男って幼いよね」と言いだした。「それをかわいいと思えるかどうかで、相手との関係が決まるのかもね」とキヨカさんも答えた。
親しくなった男性に案内されたのは……
「そんな話をした数日後、とあるパーティーで、少し親しくなった男性がいたんです。2歳年上で、若いころ1度結婚して離婚、子どもはいないという人でした。今度食事でもということになって、その週末、二人で会いました。そのときは楽しかったんですけどね……」次の週末、また二人で会った。「彼が見つけてきたすてきなカフェ」に案内されたという。確かにポップでおしゃれなカフェだったが、周りは若い女性ばかり。「孫でもいないとこういうところには来ないな」とキヨカさんは少し恥ずかしかった。
「フルーツを使ったスイーツがおいしいということで頼んだんですが、運ばれてきて手をつけようとしたら、彼が『写真撮らないの?』とちょっと不満そうに言うんです。私は料理の写真を撮る趣味はない。それよりさっさと食べたい派だと言ったら、『せっかくこんなにきれいなスイーツなのに』と残念そう。彼が見つけた店だから、そこに敬意を払って、じゃあと撮影したんです。すると彼は、スイーツの角度を変えて、さらに撮るように仕向けてくる。何枚も撮ってから、いざ食べようというときにはちょっとスイーツがへたっているように見えました。すぐ食べた方がおいしいに決まってる」
あげく、彼は「写真、共有してね」と言いだした。自分でも撮るんですかと聞いたら、「僕は撮らないけど」とのこと。私にだけ撮らせるのかと内心、がっかりした。デートが続いたら、いつも写真を撮らされるのだろうか。キヨカさんは暗い気分になったそうだ。
|
|
|
|
はやりの店ばかり追いかけて
「世間話や仕事の話をしていると、それなりに楽しいんですけど、とにかく店の選び方やデートがやたらと若い。たまにはこういう店もどうかなと、あるとき私が渋い名曲喫茶に連れていったんですよ。そうしたら彼、落ち着かなくて。昔ながらのプリンがとてもおいしい店なんですが、写真撮影は禁止なんです。すると彼は『なんだか偉そうな店だね』と不快感を示しました」長く歴史のある店だから、落ち着いた雰囲気を大事にしたいんじゃないかなとキヨカさんが言うと、「そういう店はダメだよ」と決めつけた。
「店も人もアップデートしなくちゃいけない。若くあろうとしない限り、人は若くはいられないんだと力説するんですよ。あげく、『ちょっと医者に行ってきたんだ。見た目、変わったでしょ』と。ほうれい線にヒアルロン酸を入れたそうです。きみもやった方がいいよ、人は老けて見られたらその時点で終わりだからって」
衝撃だった。彼の店選びも、キヨカさんに写真を撮らせるのも、全て若さを追い求める気持ちの表れだったのだと分かったから。
「そんなに老いるのが怖いの? 年齢を重ねることは全てマイナスなの? と思わず聞いてしまいました。すると彼は『何もいいことはないと思う。だからせめて見た目と気持ちは若くいないと、世の中から取り残される』と」
老いることに価値はないのだろうか
キヨカさんにも彼の気持ちは理解できた。ただ、年齢を重ねるのは誰もが同じ。見た目や行動で「若いフリ」をしても、実年齢は変わらない。必死に若さを追い求めるのは、むしろかっこ悪いのではないかとキヨカさんは本音をぶつけた。「そうしたら彼は『そうか……。やっぱりきみとは合わないみたいだね。老いに逆らわない人間は、生きている価値がない』って席を立ちました。なんだそれと思い、ムカッとしたので、自分の分は払っていってねと言ってやりました」
腹は立ったが、「老いに逆らわないのは生きている価値がない」という言葉は、数カ月たった今も、キヨカさんの心に残っている。例の女友達にその話をしたら、二人とも「うーん。分からなくはないけど」と押し黙ってしまったという。
誰もが「若いことに価値がある」と思っているのだろう。確かに若さには価値がある。では、老いに価値はまったくないのだろうか。シニアの婚活は、そうした人生観があらわになるものなのかもしれない。
|
|
|
|

