
「もう限界、離婚したい」と思っても、d勢いだけで決めるのは危険。年金や住まい、お金はもちろん、人間関係や介護、相続まで。離婚後の生活で困らないために、今から確認しておきたいこととは―。
離婚すれば夫の年金の半分をもらえる=正しい理解ではない
「人生100年時代といわれる今、熟年離婚では、その後の人生が20年、30年と続くことも珍しくありません。だからこそ、別れることだけをゴールにしてはいけないのです」
そう語るのは、自身も離婚を経験した後、夫婦問題カウンセラーとして多くの女性の相談に乗ってきた寺門美和子さん。
「夫との生活に嫌気が差しているときは、とにかく一刻も早く別れたいと思うもの。でも、離婚届を出した瞬間から、それまで夫婦で支えていた生活を、自分ひとりで組み立て直さなければなりません。住む場所も収入も、老後のことも、すべてです」(寺門さん、以下同)
離婚を具体的に考え始めたら、まず確認したいのが、夫婦の財産と離婚後の生活費である。
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「離婚すれば夫の年金の半分をもらえると思っている人は、意外なほど多いんです。でも、それは正しい理解ではありません」
離婚時の年金分割は、夫が将来受け取る年金額そのものを半分にする制度ではない。原則として婚姻期間中の厚生年金の記録を分割し、その結果に応じて、それぞれの将来の年金額が決まる仕組みだ。
自営業などで国民年金だけに加入している場合、その年金を分けることはできない。また、夫婦共に会社員だった場合も、単純に夫から妻へ年金を移すわけではない。
第3号被保険者だった期間がある場合は、条件を満たせば3号分割の対象となることもあるため、離婚を考え始めた段階で年金事務所に確認しておきたい。
そして今年4月1日、離婚後の財産分与をめぐる民法のルールも変わった。これまで離婚後に家庭裁判所へ財産分与を申し立てることができる期間は原則2年だったが、改正後は5年に延長。財産の内容を把握しやすくするための手続きも整備された。
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「夫がお金の管理をすべてしていて、妻は何も知らないというケースもあります。離婚の話し合いを始める前に、預貯金、不動産、保険、株式や投資信託など、どんな財産があるのかを確認しておくことが大切です」
財産分与の対象となるのは、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産。夫名義の預貯金や不動産であっても対象になる可能性がある一方、結婚前から持っていた財産や、相続・贈与によって取得したものは、原則として別に扱われる。
ただし、夫の財産を勝手に処分したり、違法な方法で情報を入手したりするのは問題だ。通帳や保険証券など、適法に確認できる資料を整理し、必要に応じて専門家に相談したい。次に考えたいのが、毎月の生活を支える収入。
自分の収入源を確保する準備を
「離婚を考えているなら、できるだけ早いうちから仕事を始める、勤務時間を増やすなど、自分の収入源を確保する準備をしてほしいですね」
長年専業主婦だった人や短時間勤務を続けてきた人なら、離婚後にどれだけの収入が必要かを具体的に考える必要がある。条件を満たして社会保険に加入し、長く働けば、将来の年金額にも影響する。仕事には、お金以外の意味もあるという。
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「以前、相談を受けた専業主婦の女性が、外で働き始めたことで離婚の話がなくなったことがありました。職場で自分を必要としてくれる人がいることに気づき、自信がついたことで夫婦関係まで変わったのです」
そして、生活の基盤として見逃せないのが住まいだ。婚姻中に購入したマイホームは、財産分与の対象になることがある。売却して現金を分けるのか、どちらかが住み続けるのか。その前に、家の査定額と住宅ローンの残高を調べる必要がある。
「売ったお金でローンを完済できるのか、それとも借金が残るのかによって、その後の選択肢は変わります」
また、夫がローンの契約者のまま家を出て、妻だけが住み続ける場合も注意が必要。夫婦間で返済について約束しても、金融機関との契約上の債務者や連帯保証人が自動的に変わるわけではない。
固定資産税や修繕費、マンションなら管理費や修繕積立金まで含め、将来も住み続けられるのかを数字で考えたい。
離婚によって変わるのは、お金や住まいだけではない。寺門さん自身、離婚と同時に、それまで築いてきた人間関係の多くが変わったという。
「夫の会社関係の人や、その奥さんたちとの付き合いなど、自然と離れていった人は少なくありませんでした。私は夫のコミュニティーだけで生きていたため、ほぼすべての人間関係を失いました」
夫を介してつながった友人や知人との関係は、離婚をきっかけに変化することがある。趣味や地域活動、仕事など、夫とは別のつながりを持っていることが、離婚後の孤立を防ぐ助けになる。
夫の親との関係も一律に断ち切る必要はない。子どもがいる場合、離婚後も祖父母と孫の交流が続くケースはある。
熟年離婚ではその先の老後も現実的な問題だ。離婚後、ひとりで暮らすことになれば、将来、介護が必要になったときにどこで、どのように暮らすのかも考えておきたい。
子どもがいても必ず頼れるとは限らないため、介護サービスや施設利用も含めて、必要なお金を見積もる必要がある。
相続についても状況が大きく変わる。離婚が成立すれば、元夫婦は互いの法定相続人ではなくなり、一方で離婚しても子どもとの親子関係は変わらないため、子どもは父母双方の相続人となる。
人間関係が複雑になるため誰に財産を残したいのかという希望があるなら、遺言書の作成も選択肢に入れておこう。
寺門さんが強調するのは、離婚するかどうかを決める前に、まず生活の条件を具体的に確認することだ。
「夫が悪い、自分が正しいという感情だけで結論をいきなり出さず、離婚した場合の生活を一度、シミュレーションしてみましょう。そのうえで離婚するのか、関係を続けるのかを落ち着いて判断してほしいですね。熟年離婚はそこができるかできないかで、損する人、得する人の差が決定的に開きます」
熟年離婚を見据えた6つの備え
年金
「夫の年金の半分をもらえる」と思いがちだが、それは間違い。離婚時に年金分割されるのは婚姻期間中の厚生年金のみ。年金受給のベースになる標準報酬月額の記録分が分割される。自身での備えは不可欠。
キャリア
低収入の場合、離婚後に経済的な困窮に陥る可能性も。正社員など、安定した収入が得られ、社会保険に加入できる働き方を目指したい。厚生年金に加入して長く働けば、老後の年金額を増やせることも。
介護
熟年離婚は、おひとりさまで老後を迎える可能性も。子どもがいない場合など、介護が必要になったときに身近に頼れる人がいないということも。自身が望む介護のあり方を考え、早めに準備を進めておきたい。
住まい
マイホーム(不動産)も財産分与の対象。査定額から住宅ローン残高を差し引いた実質的な価値を夫婦で分ける。金額がプラスなら売却して折半できるが、ローンの残高があれば清算しないと売却できない。
人間関係
夫の会社仲間、友人・知人の奥さんなどとの人間関係は、離婚と同時に一気に失うことになりかねない。夫のコミュニティーだけではなく、自身のコミュニティーをつくってそこで人間関係を築いておきたい。
相続
相続も介護と同様。おひとりさまの場合、将来の資産管理や死後の財産についても考えておきたい。法定相続人がいなければ、遺産が最終的に国庫に帰属することも。希望があれば遺言書の作成など早めの準備を。
取材・文/百瀬康司
寺門美和子さん 1965年生まれ。お金と終活、相続、夫婦問題の専門家。自身も離婚をしたのち、夫婦問題カウンセラー、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得し、開業。著書に『熟年離婚 女性がお金で損をしない本』(河出書房新社)など。
週刊女性2026年9月22日号

