
10月25日まで麻布台ヒルズで実施している「まんが日本昔ばなし展」では、市原悦子さんと常田富士男さんの声そのままに6カ国語で「かぐやひめ」が楽しめる。背景にはNTT西日本の公認AI音声技術がある。
●中国語やフランス語でも「まんが日本昔ばなし」
「Welcome. Please select one of the four options on the screen…」(ようこそ。画面にある4つの選択肢から1つ選んでください…)
サイネージパネルの言語を選んで「ENTER」を押すと、その言語の音声ナビゲートが再生される。その音声は市原悦子さんだ。
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次に赤いメニュー(物語を観る)をタッチすると、日中韓英仏西の6言語別に作られたQRコードがポップアップされるので、いずれかをスマホで読み取る。すると、その言語に吹き替えられた「まんが日本昔ばなし」が視聴できる。
どの言語版でも、声はあの市原悦子さんと常田富士男さんの名コンビだ。映像も、かつて全国のお茶の間で流れたものと変わらない――。
1975年に「まんが日本昔ばなし」の第1回が放送されて半世紀がたつ。放送終了までに1470の昔話が全国のお茶の間に届けられた。この資産を次世代や海外の人たちに継承すべく企画されたのが、9月18日に始まったPOP UP BOX「まんが日本昔ばなし展 -昔、むかし、あるところに…」だ。
東京メトロ・神谷町駅直結の麻布台ヒルズギャラリースペースで、10月25日まで展開している。
エンディングテーマ「にんげんっていいな」で登場する“にんげん”の巨大人形が出迎えるイベントスペースには、キーホルダーやぬいぐるみ、ポストカード、Tシャツなどの番組グッズが並び、その奥には冒頭の多言語対応デジタルサイネージが置かれている。
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選べる昔ばなしは、第1弾の「かぐやひめ」で、どの言語版も無料で視聴できる。
この多言語版の音声は、NTT西日本の社内カンパニーであるVOICENCEカンパニーの音声AI技術によるものだ。90話分のアーカイブから二人の音声データを抽出し、それを独自のトラスト技術などを駆使して「公認AI音声」として運用しているという。
常田さんは2018年に、市原さんは2019年にそれぞれ亡くなっている。故人の音声を「公認AI音声」にするとはどのようなことか。会場で同社カンパニー長/CEOの花城高志さんに詳細を尋ねた。
●双方向コミュニケーションも可能な技術
VOICENCEカンパニーが立ち上がったのは2025年10月のことだった。もともと提供エリア内で通信事業の競争が激しかった背景もあり、NTT西日本には新たな収益の柱が生み出せるような体制を求める土壌があった。
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そこで、花城さんはバックオフィス機能を母体に委ねながら、柔軟に事業展開ができる社内カンパニーを立ち上げ、動き出したのだという。
核になるのは、公認AI音声技術だ。社内カンパニーを立ち上げる1年以上前から研究を重ねていた。特定の音源から特定の人物の音声を抽出してAI音声にする技術は、既に世の中に存在している。問題はいかに“公認”のAI音声、すなわち権利を守りながらAIで活用できる音声とするかだ。
そこで同社は、提供された音源データから条件にあったAI音声を作り、そこからコンテンツを生み出すまでのプロセス全体を知的財産=音声IPとして管理する枠組みを作った。
データの証明技術(Verifiable Credentials)とブロックチェーンにより、音声データの加工履歴を階層的に記録し、それぞれの過程で契約内容の履行が証明できるようにした「トラスト技術」を開発。これにより第三者の改ざん、あるいは契約の範囲外に及ぶ編集加工などができないようにしている。
完成した作品は、同社であっても無断の変更ができない(実行すると履歴が残る)仕組みだ。
この技術により、音声の提供元が求める条件に沿いながらAIで加工し、世に出した後も改ざんを防ぐ運用が可能になった。意図しない音源が世に出るエラーも防げる仕組みだ。
花城さんは「今回でいえば(まんが日本昔ばなしの企画・管理会社である)愛企画センターさんに生成された音源をお聞きいただいた上で実装しています。市原さんや常田さんの声を皆が自由に使えるというサービスではないので、そこはご安心いただけたら」という。
生成可能な音源には現役の声優や俳優、アーティストだけでなく故人も含まれる。故人の場合は本人から了承を取り付けるのは不可能だが、遺族などの関係者に話を通すことを徹底しているという。
今回も愛企画センターだけでなく、市原さんと常田さんの遺族からも賛意を得ているそうだ。
なお、この技術は対話型のサービスにも実装可能だ。その場合はプロンプトでNGワードなどを指定して振る舞いの範囲を定めたものを生成して、そこにトラスト技術を適用する流れとなる。
実際、NTT西日本は2026年3月に俳優の別所哲也さんが一人二役で演じる音声CMを公開したが、その告知イベントで対話型の“AI別所哲也”を披露したという。
サービスを展開する上で難しいのは、技術面よりも倫理面の管理だ。花城さんは、鍵になるのは生成したAI音声の使われ方だと強調する。「生成したものをコンテンツとして作って世に届けること。声だけが切り出されるのではなく、作品として見てもらえるような、そういうプロデュースが大事だと思います」
VOICENCEの技術は、VTuberのような映像コンテンツとの組み合わせも可能だという。声の主や関係者の権利を守りながら、かつての音源を生かせる道筋が増えれば、さまざまなコンテンツ作成にプラスに働くことが期待ができそうだ。
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