【ボクシング】井上拓真と那須川天心は再戦までにどう進化した? 山中慎介が両者の「予想を超えた」前戦を踏まえて分析した

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2026年09月25日 07:40  webスポルティーバ

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山中慎介が予想する井上拓真vs那須川天心 前編

 2026年9月27日、TOYOTA ARENA TOKYOで行なわれるWBC世界バンタム級タイトルマッチ。王者・井上拓真(大橋ジム)と同級1位・那須川天心(帝拳ジム)が、約10カ月ぶりに再び拳を交える。

 昨年11月の初戦は、1、2ラウンドは天心がポイントを重ねたものの、3ラウンド以降に接近戦で主導権を握った拓真が3−0の判定勝ち。その後、拓真は井岡一翔から2度のダウンを奪って完勝し、王者としてさらに評価を高めた。一方の天心は、元世界2階級制覇王者ファン・フランシスコ・エストラーダを9回終了TKO勝利。ともに大きな勝利を挙げて迎える再戦となる。

 初戦から10カ月、両者はどう変わったのか。元WBC世界バンタム級王者・山中慎介氏に、井岡戦とエストラーダ戦で見えたそれぞれの進化を聞いた。


(文中敬称略)

【拓真が井岡戦で見せた「想像の範囲を超えた強さ」】

――初戦から10カ月。両者とも前戦ではすごくいい勝ち方をしましたが、天心選手にとって再戦のタイミングは少し早いのではという声もあります。山中さんはどう見ていますか?

山中 普通に考えれば早いですよね。ただ、WBCの挑戦者決定戦で決まったことなので、それに従っているというのもあります。天心は「次やったらいける」という自信があるんでしょう。

―― 一般的には再戦となると、一度勝っているほうが優位とも言われます。

山中 そうですね。拓真は、初戦で1、2ラウンドは取られましたけど、そのあと「前に出ればいける」という感覚をつかんだじゃないですか。実際に3ラウンドから流れが変わりましたからね。その成功体験があるのは大きいと思います。

――拓真選手は天心選手に初黒星をつけて、井岡選手にも一方的な勝ち方をした。まさに今、スポットライトがグッと当たっています。

山中 井岡戦に関しては、いい意味でみんなの予想を裏切った。想像の範囲を超えた強さを見せましたよね。試合前は「どっちが勝つかわからない」と言われるくらい予想が割れていたじゃないですか。蓋を開けてみたら、フルマークを含む大差の3−0(118−108、119−107、120−106)で完勝でした。

――ディフェンス技術の高い井岡選手から2度のダウン(2ラウンドに右クロスカウンターからの連打、3ラウンドに右アッパー)を奪っています。

山中 序盤に2度ですから、さすがにびっくりしました。ただ、井岡はバンタム級だと体格的に少し無理があるかなというのもありました。年齢などいろんな要因が重なっての結果だと思います。

 スピード差もありましたね。井岡は圧のかけ方や距離の取り方が非常にうまいですけど、拓真はひとつ上のスーパーバンタム級でも日本のトップ選手と戦ってきた。そういう経験があるぶん、井岡の圧に対しても慌てることはなかったですよね

――拓真選手が天心選手、井岡選手に勝ったことで得た自信や経験は、これまで以上に大きいのでは?

山中 お兄さんの影に隠れて、インパクトという部分では目立ちにくかったですけど、もともと強い選手なのは間違いないですから。過去も錚々(そうそう)たる相手とマッチメイクされて、それを乗り越えてきました。そして注目度の高い2戦に勝ったことで、さらに自信もつけたでしょう。

【那須川天心の変化】

―― 一方の天心選手は、エストラーダ戦でいい勝ち方をしました。

山中 エストラーダは経験も豊富ですし、試合前は「厳しいのでは?」という声もあったじゃないですか。でも、結果は完勝でしたね。

――あの試合、天心選手のどんな点に変化を感じましたか?

山中 一番は、前にいく意識ですね。天心はもともと距離の取り方が抜群です。相手を見ながら絶妙な距離を保つのがうまい。エストラーダ戦では、そういう持ち味を生かしながら、自分から攻めていく姿勢が強かったですよね。拓真の井岡戦と同じように、みなさんの予想をかなり上回る内容だったんじゃないですか。

――「前にいく」という部分は、葛西裕一トレーナーとの練習も大きかったのでしょうか?

山中 僕は実際の練習でのやり取りまではわからないですけど、試合中のインターバルを見ていても、葛西さんが熱く「前にいくんだ」という感じでジェスチャーをしていましたからね。昔から天心を知っている葛西さんなので信頼関係もあるでしょうし、環境が変わって最初の試合とはいえ、天心もそこまで違和感はなかったんじゃないですかね。

――天心選手にゲキを飛ばして、鼓舞できる存在でもある。

山中 そうですね。結局、試合は内容と結果がすべて。環境を変えて最初の試合で、ああいう結果を出したわけですから、その選択は正解だったということ。天心も環境が変わったなかでしっかり切り替えて、自分の持っている軸はブレずにやってきた。その結果がエストラーダ戦で出たんじゃないですかね。

――天心選手はエストラーダ戦の前、「スパーリングの出来がそれほどよくなかった」という話がありましたよね?

山中 僕もそういう話は聞きました。それでも本番であれだけの内容を見せた。ずっと調子がよくても、そのまま試合でもいいパフォーマンスができるケースばかりじゃないですからね。調子が上がらないなかでも結果を出せたというのは、大きな経験になったと思います。

――天心選手はボクシングのキャリアが浅いぶん、一試合ごとの成長幅も大きいのでは?

山中 まだまだ変わる可能性がありますし、試行錯誤しながら練習を積んでいて、厳しい試合を乗り越えていますから。技術だけでなく気持ちの変化も大きい気がしますね。

――会見を見ても、天心選手本人には相当な自信があるように感じました。

山中 もう戦いは始まっている、という雰囲気でしたよね。拓真は終始落ち着いていましたけど、天心は戦闘モード。少しイライラしているようにも見えましたが、天心はエンターテイナーでもあるので、そこも含めて見せ方なのかなと思います。あの暑いなか、革ジャンを着ていましたし(笑)。

――天心選手は、自分の挑戦や生き方まで含めて見せている印象があります。

山中 実際、常に挑戦する意識はあるでしょうし、毎回ギリギリの戦いでもあるじゃないですか。エストラーダ戦も、負ければ世界タイトルへの道がかなり厳しくなる試合だったと思いますけど、そこでしっかり内容と結果を出した。ただ、それは拓真も同じなんですよね。昔からずっとサバイバルマッチのような試合を経験してきていますから。

(後編:山中慎介から見た「井上拓真vs.那須川天心」のカギは「最初の4ラウンド」 初戦と"距離感"や戦い方はどう変わるのか>>)

【プロフィール】

■山中慎介(やまなか・しんすけ)

1982年滋賀県生まれ。元WBC世界バンタム級チャンピオンの辰吉丈一郎氏が巻いていたベルトに憧れ、南京都高校(現・京都廣学館高校)でボクシングを始める。専修大学卒業後、2006年プロデビュー。2010年第65代日本バンタム級、2011年第29代WBC世界バンタム級の王座を獲得。「神の左」と称されるフィニッシュブローの左ストレートを武器に、日本歴代2位の12度の防衛を果たし、2018年に引退。現在、ボクシング解説者、アスリートタレントとして各種メディアで活躍。プロ戦績:31戦27勝(19KO)2敗2分。

篠��貴浩●取材・文 text by Takahiro Shinozaki

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