【ボクシング】山中慎介から見た「井上拓真vs.那須川天心」のカギは「最初の4ラウンド」 初戦と"距離感"や戦い方はどう変わるのか

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2026年09月25日 07:50  webスポルティーバ

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山中慎介が予想する井上拓真vs那須川天心 後編

(前編:井上拓真と那須川天心は再戦までにどう進化した? 山中慎介が両者の「予想を超えた」前戦を踏まえて分析した>>)

 約10カ月ぶりの再戦を前に、天心は初戦とは戦略が「ガラッと変わる」と明言。一方の拓真も、井岡一翔戦ではロープ際で巧みに体を入れ替えてカウンターを当てるなど、あらためてボクシングの"幅"を見せた。

 初戦では、拓真が距離を詰めた3ラウンドから流れが変わった。互いに手の内を知る再戦では、どちらが距離を支配するのか。そして、4ラウンド終了時に公開される採点は、その後の展開にどう影響するのか。元WBC世界バンタム級王者・山中慎介に、勝負を分けるポイントを聞いた。

(文中敬称略)

【再戦で変わる"距離"の攻防】

――初戦は、拓真選手が接近戦に持ち込んでから流れが変わりました。再戦では、天心選手はそこにどう対応してくると見ていますか?

山中 天心は前回、1、2ラウンドはスピードを生かして距離をキープしながらポイントを取りました。ただ今回は、(ファン・フランシスコ・)エストラーダ戦で見せたように、もっと自分から攻めていくと思います。「前にいく」といっても、単純に距離を詰めて打ち合うということではありません。天心はもともと距離感に優れていますから、自分の得意な距離を保ちながら、攻撃の意識を強くしてくるんじゃないですかね。

――初戦を経て、お互いに相手の距離感や戦い方の情報は入っていますよね。

山中 両者とも、どの距離なら自分が優位なのかという感覚は持っていると思います。だからこそ、前回と同じような最初の4ラウンドにはならない気がしますね。前回よりも相手に向かっていく。その意識がお互いに大事になるでしょう。

――天心選手は今回の戦い方について、初戦とは戦略が「ガラッと変わる」「最初から打ち合う」と明言しています。

山中 より攻撃的にいくと思います。ただ、拓真も初戦と同じ戦い方をするとは限らないですよね。井岡戦では、相手が前に出てきた時に下がりながらカウンターを取るのもうまかった。お互いに距離を変えながら戦う展開になると思います。

【セコンドも含めたジム同士の戦いにも注目】

――井岡戦では、ロープ際まで下がって、体を入れ替えるところでパンチを当てるような場面もありました。

山中 天心との初戦でもその動きを少し見せていました。拓真は相当自信をつけていると思います。

――両者、スピードのある選手ですが、その質は違いますか?

山中 静から動、ゼロからイチになる瞬間的なスピードでいえば、天心に分があると思います。ただ、試合全体の動きや攻防のなかでの切り替えという部分では、拓真が速い。同じ「スピード」でも種類が違うんですよね。

――初戦では、3ラウンドに流れが変わりました。

山中 拓真が距離を詰めて、先手先手で戦った。逆に天心は後手に回った印象がありました。

――セコンドの井上尚弥選手が「ガードを固めて前に出ろ」という指示を出したといいます。

山中 接近戦なら拓真が優位に戦えると見抜いたということですよね。ただ、セコンドが「いけ」と指示しても、実際にリングにいる選手がいけないことはあります。そこで指示どおり、勇気を持って前に出た拓真もすごかったと思います。

――セコンドを含めて、帝拳ジムと大橋ジムという大手ジム同士の戦いという見方もできます。

山中 リングサイドに帝拳の本田(明彦)会長、反対側には大橋(秀行)会長と、さらには尚弥もいる(笑)。そういう構図も含めて面白いですよね。相手をどう分析して、どんな策を授けるのか。試合中にセコンドがどんな指示を出すのか。そのあたりも見どころだと思います。

――拓真選手の練習パートナーは、坂井優太選手、田中湧也選手、片岡叶夢選手の同門サウスポー3人が務めています。

山中 のちの世界チャンピオン候補、才能あふれる若手たちです。もちろん天心とはスタイルが同じではないですが、スピードや技術はまったく劣らないレベルです。こうした環境も含めて、今の拓真の充実ぶりがあると思います。

【最初の4ラウンドがカギ】

――今回、会場は初戦と同じTOYOTA ARENA TOKYO。WBCのタイトルマッチなので、オープンスコアリングシステムが採用され、4、8ラウンド終了時にポイントが公開されます。

山中 そこはかなり影響が大きいと思います。お互いがどういう入り方をして、4ラウンドが終わった時点でどんな採点が出るのか。それによって、そのあとの戦い方も変わってきますから。

――初戦は4ラウンド終了時、ジャッジ3者とも38−38のイーブンでした。

山中 僕は39−37で天心もあるかな、と思って見ていました。でも実際はイーブン。ここは天心にとってはけっこうキツかったと思います。ポイントで追いつかれて、試合の流れは拓真がつかんでいましたからね。

――山中さんは、オープンスコアリングについてはどう考えていますか?

山中 選手にとっては自分が勝っているのか負けているのかがわかるので、戦いやすさはあります。お客さんも状況がわかるし、その点でのよさはある。ただ、ポイント差が大きいとリードしている側が安全運転になって、試合がエキサイトしないパターンもあります。

――両者のこれまでの戦い方を踏まえると、ポイントを取り合う試合になる?

山中 もちろんKOの可能性はありますけど、両者とも基本的にはポイントを積み重ねながら試合を組み立てるタイプですよね。だからこそ途中で採点がわかれば、そのあとの戦い方にも大きく影響すると思います。

――今回も判定までいく可能性は高いと見ますか?

山中 両者ともディフェンス能力が高くて、一発で倒すタイプではありません。前回と同じように12ラウンドのなかで、細かい攻防とポイントの取り合いになっていく可能性は高いんじゃないでしょうか。

――両者とも前戦でいい勝ち方をしたことで、再戦の見方も変わりましたか?

山中 そこが一番楽しみなところですよね。拓真が井岡、天心がエストラーダにいい勝ち方をした。それがこの一戦をさらに熱くしましたね。前回の対戦結果から拓真有利と見る声も大きいと思いますけど、僕は両者の前戦を見て「わからない」というのが正直なところです。そうさせる天心もまたすごいなと思いますね。

【プロフィール】

■山中慎介(やまなか・しんすけ)

1982年滋賀県生まれ。元WBC世界バンタム級チャンピオンの辰吉丈一郎氏が巻いていたベルトに憧れ、南京都高校(現・京都廣学館高校)でボクシングを始める。専修大学卒業後、2006年プロデビュー。2010年第65代日本バンタム級、2011年第29代WBC世界バンタム級の王座を獲得。「神の左」と称されるフィニッシュブローの左ストレートを武器に、日本歴代2位の12度の防衛を果たし、2018年に引退。現在、ボクシング解説者、アスリートタレントとして各種メディアで活躍。プロ戦績:31戦27勝(19KO)2敗2分。

篠��貴浩●取材・文 text by Takahiro Shinozaki

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