
最近、ショートスリーパーが話題になっている。というのも、「1日30分睡眠」を掲げたYouTuberが、本人の生活を示す目的で約1週間の24時間ライブ配信を行い、バズったためだ。
1日30分は極端だが、世界でもショートスリーパーのエピソードはいろいろある。
例えば、ショートスリーパーとして有名な著名人には、元米国大統領のバラク・オバマ(毎晩約5時間睡眠で深夜まで執務をこなしたことで知られる)や、英国の元首相マーガレット・サッチャー(「鉄の女」と呼ばれ、多忙を極める中で毎晩4時間ほどの睡眠しか取らなかったとされる)、発明家のトマス・エジソンらが挙げられる。彼らは睡眠時間を抑えることで活動時間を確保し、歴史的な業績を残したとされる。
一方で、ロングスリーパーとして知られる著名人も少なくない。相対性理論を唱えた物理学者アルバート・アインシュタインは毎晩10時間以上の睡眠を取り、夢や休息から偉大なアイデアの着想を得ていたと言われている。また、テニスのロジャー・フェデラーや陸上のウサイン・ボルトといった世界のトップアスリートたちも、最高のパフォーマンスを維持するために、毎日10時間前後の睡眠を欠かさなかったという。
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活動時間を最大化して成果を出すショートスリーパーと、十分な休息によってパフォーマンスを高めるロングスリーパー。ビジネスの現場でも、こうした睡眠時間を巡る議論は絶えない。
結局のところ、ビジネスにおいて有利なのはショートスリーパーとロングスリーパーのどちらなのだろうか。今回は、科学的な研究データなどを参考に、ビジネスパーソンが取るべき現実的な睡眠戦略を探ってみたい。
●「眠くない」「仕事に支障はない」は信用できない
睡眠と仕事のパフォーマンスの関係を検証する際、前提として理解すべきなのは、単に5時間しか寝ない人と9時間寝る人を集めて比べるだけでは、体質の優劣を公平に検証できないことだ。睡眠時間そのものだけでなく、その人に必要な睡眠量を確保できているかを確認する必要がある。
その上で、実験や研究から見えてくるのは、「睡眠を削ることは不利になりやすい」ということだ。
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例えば、健康な成人を対象に、毎晩の睡眠時間を4時間・6時間・8時間に分けて14日間追跡した米国の実験では、4時間および6時間睡眠の条件では、課題の成績が悪化した。だが、睡眠時間が短いほど眠気を自覚するわけではなく、参加者は自身の能力低下を十分に認識していなかった。
重要なのは、「眠くない」という主観的な感覚と、「実際に能力を維持できているか」は一致しないということだ。したがって、本人の「短時間睡眠でも仕事に支障はない」という申告だけで、その人が短眠体質であるとは判断できないわけだ。
ただし、睡眠不足になるとあらゆる能力が一律に落ちる、と言い切ることもできない。スイスの研究者らが2024年に発表した、44の研究を統合した分析によると、一晩の睡眠制限によって持続的注意力は低下したものの、作業記憶や抑制制御などでは有意な低下が確認されなかったと報告されている。
●必要なのは、自分に合った量・質・規則性
では、これらの実験結果から、ビジネスについて何が言えるのか。「会議で活発に話せる」といった目立つ能力だけでなく、長時間の作業での集中力や見落としまで含めて評価すべきだということだ。「元気に働いている印象」をそのまま成果の証拠にしてはならない。
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実際にビジネスパーソンを対象にした実験では、どのような結果が出ているのだろうか。筑波大学の2025年の研究では、日本の就労者7万9048人のデータを分析し、スマートフォンアプリで推定した睡眠時間と、本人が回答した仕事のパフォーマンスを比較した。
この研究では、睡眠が短すぎる側と長すぎる側の双方で仕事の生産性損失に大きな関連が見られた。7〜8時間付近の睡眠で損失が最も小さかったという。
さらに、睡眠の「質」や「規則性」も、生産性と関係していることが分かった。寝つきの悪さ、途中で目が覚めること、平日と休日の睡眠時刻のズレも、生産性の低下と関連していた。
もっとも、生産性というのは自己評価であり、観察研究でもあるため、因果関係は100%確定できるわけではない。要は、「長く寝るから仕事ができない」とも「誰でも7〜8時間寝れば最適」とも言い切れない。「ショートよりロングのほうが優秀」という逆方向の単純化もデータには合わない。
結局のところ、必要なのは睡眠の「最大化」ではなく、本人に合った量や質、規則性を確保することだろう。
●睡眠が短ければ、時間を多く使える?
筆者の周りでは、多忙のために毎日の睡眠時間が4〜5時間ほどという人も少なくないが、筆者も「短眠者には使える時間が多いという利点があるのではないか」と漠然と思ってきた。確かに、能力や健康状態、1時間当たりの仕事の成果が同じだとすれば、5時間の睡眠で足りる人は、9時間必要な人より、単純計算で1日4時間多く活動できる。
ただし、それは時間配分上の利点であって、仕事での「成功」が実証されたという意味ではない。実際、1時間当たりの生産性が高いことと、1日全体の成果が大きいことは別の話だ。
こんな実験がある。インドの低所得層の成人452人にデータ入力の仕事をしてもらい、睡眠が仕事の効率や収入にどう影響するかを調べた研究だ。
昼寝をすると、仕事の効率は上がった。だが昼寝をせずに働いた場合と比べると、働く時間が短くなるため、1日の収入は減る。一方、同じ時間を休憩に使う場合と比べれば、昼寝をしたほうが収入は増えた。
また、夜の睡眠を平均27分増やしても、仕事の効率改善は明確に確認できなかった。ただし、参加者の夜の睡眠は、途中で何度も目が覚めるなど、質に問題があった点には注意が必要だ。
この研究が示唆するのは、「睡眠を削ればよい」ということではない。「長く寝れば、その分だけ仕事の成果も増える」とも限らず、睡眠の質や仕事の内容、休む時間と働く時間の配分を併せて考える必要がある。
●どのような睡眠戦略を選ぶべきか
以上を踏まえ、ショートスリーパーとロングスリーパーで優劣を付けられるのか。
まず、生まれつき睡眠時間が短くても足りる人と、長い睡眠を必要とする人を比べると、優劣を決めるのは難しい。他の条件が同じなら、短眠者に時間的な利点はあるが、職業上の成功まで優位とはいえない。
次に「無理して短く寝る人」と「必要なだけ寝る人」を比べると、必要なだけ寝る人のほうが有利だ。特に見落としやミスが損失につながる仕事では、活動時間を増やすことより、能力を安定させることを重視したほうがいい。
一般の人が重視すべき戦略は、「自分の必要睡眠量を確保し、実際の仕事の成果で検証する」ことである。睡眠時間が短くても足りる人には「利点」があり得るが、睡眠時間を削れば、その「利点」が得られるわけではない。
ちなみに「仕事ができる最短の睡眠時間」は、睡眠の機会を十分に確保し、朝の休養感や日中の眠気がどう変わるかを見ながら計っていくのが基本だという。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、必要量には個人差があるため、日中の眠気や「寝て休まった感覚」を手がかりに探るとしている。
オバマやサッチャーのようなショートスリーパーの睡眠時間だけをまねして睡眠を削っても、得られるのは、「眠気に気づかないまま低下するパフォーマンス」と「ミスが増えるリスク」だけだ。
仕事のために重視すべきなのは、睡眠時間の短さという「見た目のタフさ」ではなく、「起きている時間の成果を安定させること」なのだ。
(山田敏弘)
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画像データで分かった今の高齢者(写真:ITmedia ビジネスオンライン)56

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