17歳・大橋信、大会直前に39度発熱も世界新の裏側 指導者は「ちょっと普通の選手ではない」

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2026年09月25日 16:50  webスポルティーバ

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 アジア大会でメダルラッシュとなった競泳ニッポンの活躍を振り返る本企画、前編は男子200m平泳ぎで世界新記録という歴史的快挙を達成した17歳・大橋信(枚方SS/四條畷学園高)の衝撃に迫る。

【「これで北島康介さんと同じ道を歩めそう」】

 アジア大会・競泳5日目、9月24日の男子200m平泳ぎ決勝、2分04秒83の世界新記録をたたき出し、100mとの2冠を達成した大橋信(枚方SS/四條畷学園高)は、レースをこう振り返った。

「本当にしんどかったのでバテたのかと思って......。(世界記録の2分05秒48には届かない)2分06秒00くらいかなと思ったけど、歓声を聞いたら結構デカかったので、『これは世界新にギリでいったな!』って思った感じですね」

 今大会、それまでの世界記録保持者である覃海洋(中国)との直接対決は実現しなかったが、大橋は覃が2023年に福岡で出した2分05秒48をターゲットにして泳ぎ、見事に0.65秒更新した。

「予選の2分09秒93から考えても、こんなに上がるとは思わなかったので、かなりうれしいですね。正直、自分の調子が最高の状態で、キックの調子もよければ、おそらく2分03秒台も狙えると思っていましたけど、予選のタイムから(考えて)世界新を狙えるか狙えないかくらいだなと思っていたので、かなり予想外でした。

 レース前は、自分を安心させるために2分05秒台が出せればいいと思っていましたけど、いざこの記録を出したら、そんな自分が本当にバカらしく思えてきて。これで北島康介さんと同じ道を歩めそうで、すごくうれしいです」

 今年3月の日本選手権で、日本記録に0秒19差まで迫る2分06秒59(世界ジュニア新)で優勝して以降、大橋は2分05秒台、さらには世界記録を視野に入れていた。オリンピックで2大会連続金メダルを獲得した北島康介の再来と期待する声も高まるなか、本人もそれを意識した。

 そんななか、初のシニア国際大会として臨んだ8月のパンパシフィック選手権(アメリカ)は、100mでは2位ながら58秒54で自身の日本記録を更新したものの、200mは後半に失速して2分08秒27で3位と悔しい結果に終わった。

 大橋はそこから気持ちを切り替えたという。

「パンパシで逆に2分07秒くらいで中途半端に優勝していたら、(アジア大会に向けて)200mに(もっと)専念するという気持ちも生まれなかったと思うので、やっぱりすべてがつながっているんだなと思います」

 指導する太田伸コーチもこう話す。

「そこから200m中心のトレーニングに変えましたが、いつもなら僕が出した練習メニューを嫌がるのに、今回は嫌がらなかった。自分からちゃんとやるということを考えていた。(パンパシの)タイム自体はそんなによくはなかったけど、トレーニングをしっかり積めると、ある程度のタイムは出るとわかっていたし、順調だったかなと思います」

【「100mを6本」泳いだことがプラスに】

 だが、このアジア大会本番までの道のりは決して順調ではなかった。大会直前に発熱していたのだ。太田コーチがこう振り返る。

「9月16日の夜に熱が出て、最高は39度まで上がったのですが、その日のうちに数時間で熱が下がって。17日はもともと完全オフの日に充てていたので、18日から泳ぎだしましたけど、もう最後の調整なのでかなり抑えてやらせました。不安もかなりあったと思いますが、それを自分で打ち消すような言葉も出ていたので。『大丈夫だ、大丈夫だ』と自分に言い聞かせようとしている感じがすごくあったので、そのへんはすごく頼もしいなと感じました」

 200mよりも先に行なわれた100ⅿでは、アジア記録保持者の覃に先着しながらも、自己記録に届かない58秒64で董志豪(中国)と同着優勝。レース後には結果に納得できないといった表情も見せていた。

「体調不良の影響が、体ではなく心にきてしまった。気持ちが乗らなかった部分があると思います。本当にいい練習が積めていたので、体調不良がなければ57秒台も見えていたのかなと思います」と振り返り、覃に勝ったことについても「100mのほうが200mに比べて気持ちも楽だし、覃選手の調子が全然上がってないので、うれしいけど実感はないです。全盛期の彼とやってみたかったなと思います」と冷静に話した。

 そして自分の泳ぎについて、「テンポを上げすぎてもそこまでスピードは上がらないので、今は200m向きの泳ぎをしているのかなと思います」と分析していた。

 大橋はその翌日に男子4×100mメドレーリレー、さらに翌々日に混合4×100mメドレーリレーの予選と決勝に出場し、3日間で100mを合計6本泳いだが、結果的にそれが200mにプラスの影響をもたらした。

「僕はレースを重ねるたびに泳ぎがどんどんよくなっていく選手だと、自分でも思っているし、(指導をしていただいている)先生たちからもそう言われています。6本泳いで少し100m寄りの泳ぎになってしまったけど、逆にスピードが出た。200mの練習しかしていなくてスピードがあまり出ていなかったので、そこがうまくハマったかなと思います」

 200m決勝、前半の100mを世界記録ペースの59秒台で入ったのは3月の日本選手権と同様だったが、内容はまったく違った。最初の50mは、日本選手権が22ストロークで27秒95。対して今大会は18ストロークで28秒27と落ち着いた入りで、そこから徐々に上げて100m通過は59秒89。2位に1秒44もの差をつけた。

【コーチは100m通過時点で「後半も持つだろう」】

 太田コーチがこう明かす。

「100mを1分00秒台で入って、後半の100mは32秒台2回でまとめると話をしていたのですが、最初の100mを59秒台で入った時に、たぶん1分00秒くらいのつもりで入っているから後半も持つだろうなとワクワクしました。

 最初の50mの時点で全力でなくても28秒27で入れているというのは、最初からいい泳ぎがハマったなという感じで。いつもなら途中で泳ぎをいろいろいじってリズムを変える時もあるのですが、今回はそれがほとんどなかった。ベストは出るなと思って見ていましたけど、2分04秒台が出るとは思わなかったですね」

 日本選手権で、前半100mを59秒台で入る世界記録ペースに一度挑戦していたからこそ、2回目の今回は余裕を持っていけたのだろう。大橋は「今までは2分03秒くらいまで(記録を)伸ばして引退かなと思っていましたけど、今回2分04秒台を出したので、2分02秒台とか2分01秒台とか......。たぶん世界のレベルも上がってくるので、それにともない自分ももっとタイムを上げていけるかなと思います」と視線を先に向けた。

 そんな大橋を太田コーチはこう見守る。

「僕は泳ぎをほとんど教えていないという感覚を持っているんですけど、それは彼が研究熱心で、日に日に泳ぎを自分で変えていくのがわかるし、考えているのがこちらにも伝わってくるので、実際に泳ぎをいじる必要がない。ちょっと普通の選手ではないというのは担当してすぐ感じました。

 17歳で世界記録を出すとまでは思っていませんでしたけど、普通の選手だったら苦しんだり、立ち止まったりするようなところを、自分で乗り越えてくる能力が高い。(身長169cmと)体が小さいからハイテンポで泳ぐというのはひとつの武器にするべきだという話をして、やってきたのがよかったのかなと思います」

 そして、これから目指す、北島が歩んだルートへの挑戦に向けてはこう話す。

「シドニー五輪前年、2000年のジュニア遠征から北島選手を見ていますけど、『勝ってほしいな』というところで勝つのが彼のすごさで、それに記録もついてくる。その域に行くためには、人間的な部分も含めてまだまだ経験や成長が必要だと思っています」

 狙いどおりの世界記録樹立で、さらに夢が大きくなった大橋。これからの道はその一歩一歩が、多くの人に感動を与えるものになるだろう。

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折山淑美●取材・文 text by Toshimi Oriyama

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