ワークマンのリカバリーウェアは8カ月で1,200万着 「着るだけで疲れが取れる」服は、誰が儲かっているのか

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2026年09月25日 19:09  TBS NEWS DIG

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作業服のワークマンの店頭に、「着るだけで疲れが取れる」とうたう部屋着や肌着が並んでいます。ニトリにも、ドン・キホーテにも。ワークマンだけで、2026年に入ってからの8カ月で累計販売数が1,200万着を超えました。休む時間は増えているのに疲れが取れない人たちが、「回復」をお金で買い始めています。この服で誰が儲かり、国は何を確かめているのか。疲労回復ビジネスの核心について、リサーチャーのcomugiが解説します。

(TBS Podcast『コムギコ:資本主義をハックしろ!!』2026年9月24日配信『何もしてないのに、疲れる。なぜ休む時間は増えているのに、疲れは取れないのか?』より)

マッサージなどの施術所数はコンビニと同等? それでも、行く人は1割

厚生労働省の統計では、あん摩マッサージ指圧やはり、きゅうといった国家資格を持つ人がいる施術所は、全国におよそ9万カ所。コンビニがおよそ5万6千店ですから、街のもみほぐし店や整体を数に入れなくても、コンビニと同じくらい、あるいはそれ以上の数があることになります。

ところが、マッサージ業の倒産は、2026年4月の東京商工リサーチの集計で、接骨院なども含めて2025年度に過去30年で最多になりました。8割以上がお客さんの減少による販売不振で、ほとんどが小さなお店です。

なぜお客さんが来ないのか。リクルートのホットペッパービューティーアカデミーが2026年6月に発表した、都市部に住む15歳から69歳を対象にした調査では、もみほぐしのような施術をこの1年に受けた人はおよそ1割。市場の規模も、前の年から1割ほど縮んでいます。疲れている人は多いのに、お店に来る人はごく一部です。では、お店に来ない人たちは、回復をどこで買っているのでしょうか。

介護のマットから、肌着の値段へ

その行き先のひとつが、リカバリーウェアです。糸に細かなセラミックなどを練り込み、体から出る熱を受け止めて体の側に放ち直す設計の服で、電気ではなく自分の体温を使います。

この市場は、急に生まれたものではありません。始まりは介護用品でした。2005年創業のベネクスは、最初は介護の現場で床ずれを防ぐマットを作っていて、余った繊維で試作した服がスポーツジムの関係者の目に留まり、運動のあとに着て休む服へと方向を変えました。2010年に発売し、「リカバリーウェア」という言葉を広めたのはこの会社だといわれています。上下で3万円台です。

そこに、2018年創業のTENTIAL(テンシャル)が2021年に「BAKUNE(バクネ)」を出します。上下2万円台を自社通販と直営店で売り、贈り物としても定着させ、2025年に上場しました。2023年には出版社の宝島社が書店で売り始め、3年半で累計85万着。2025年の秋冬にはワークマンが一般客向けに大きく広げ、2026年にニトリとドン・キホーテが続きました。ドン・キホーテの半袖インナーは1着1,099円です。

この1年で起きたことは、高い服が出てきたことではありません。3万円台の服は10年以上前からありました。変わったのは、量販店が肌着の値段で大量に売り始めた、という入口の値段です。

100円売って、残るのは6円

では、誰が儲かっているのでしょうか。

BAKUNEを売るTENTIALの直近の四半期の決算を見ると、100円売ると、仕入れなどを引いて73円が手元に残ります。服を売って得られる利益の幅が、かなり大きいのです。ところが、そのうち33円を広告に使っています。人件費や配送も引くと、本業の利益として残るのは6円ほどです。

もっと興味深いのが、先駆者のベネクスです。ベネクスを含むリカバリー事業は、最新の決算で売上が1割近く伸びているのに、赤字でした。認知を広げるための広告や人の採用にお金がかかったから、と会社は説明しています。ライバルが増えたぶん、広告で取り合いになった、というのが筆者の見立てです。

1,200万着を超えて売れる市場で、先駆者が赤字になっている。市場が広がるほど、売るための費用も増えるからです。売れていることと、儲かっていることは、別なのです。

「一般医療機器」は、国が効き目を保証した印ではない

リカバリーウェアには、「一般医療機器」と書かれた商品があります。着ると本当に疲れが取れるのでしょうか。

正直に言うと、決着はついていません。普通の服と条件をそろえて比べた論文はあり、一部の睡眠の指標には差が出ています。ただ、参加者が十数人の小さな研究が中心で、誰にでも疲労回復の作用がある、とまでは言えないのが現状です。

では、なぜ「一般医療機器」と書けるのか。一般医療機器は、医療機器の中でも体へのリスクがいちばん低いグループで、国の審査を受けて承認をもらうのではなく、会社が国に届け出る仕組みです。

とはいえ、何もしなくていいわけではありません。リカバリーウェアには2022年に専用の区分ができ、届け出る前に試験をすることが求められています。同じ人にこの服と普通の布の服の両方を着てもらい、血の流れの巡り具合がどれくらい良くなるかを比べる試験です。

そのデータをもとに、疲れやこりへの作用を専門家が評価します。そこまで済ませて届け出れば、「血行を促進して疲労を回復する」と書いてよい。厚生労働省が2025年8月に改訂した質疑応答集に、そう定められています。

つまり、この表示は「普通の服より血の流れが良くなることを、試験で確かめて届け出ました」という印です。「誰が着ても疲れが取れると、国が保証しました」という印ではありません。

買っているのは、効果だけではない

それでも、これだけ売れています。買っている人は、体への作用とは別のものも一緒に買っているのではないでしょうか。手がかりになるのが、TENTIALの自社通販で注文の4割近くが贈り物だという数字です。ラッピングを一緒に頼んだ注文からの推定ですが、同社が2026年4月に公開した第2四半期の決算説明資料によると、4割近くが誰かのために買われています。

ここで思い出すのが、神社の御守りです。NHKが1973年から続けている調査では、2013年の時点で御守りや縁起物を身の回りに置いている人はおよそ3人に1人。ところが、その力を信じている人はおよそ6人に1人でした。持っている人の半分ほどは、信じているとは答えていないのです。この構図は1970年代から変わっていません。2006年に社会心理学研究に載った、学生に御守りについて聞いた研究では、御守りを持つ意味は不思議な力より、贈ってくれた人の気遣いを思い出すことにありました。

日本人が急にスピリチュアルになった、という話ではありません。NHK放送文化研究所が2019年にまとめた調査では、神仏に心のよりどころを求める人は、1998年から2018年までの20年で減っています。自分や大切な人の無事を願う気持ちをモノに込めて買う、という昔ながらの買い方を、いまは企業が服の形にして売っています。買っているのは、効果への期待と、安心と、気遣いです。

一方で、お金で買えないものとは?

回復は「着るもの」として、また脈や睡眠から「今日の余力」を点数で見せるスマートリングのように「測るもの」として、買いやすくなりました。それでも、ひとつの数字に戻ります。総務省の社会生活基本調査では、10歳以上の人が1日に「休養・くつろぎ」に使う時間は、2016年の1時間37分から2021年の1時間57分へ、5年で20分増えました。2021年はコロナ禍の年である点を割り引いても、休む時間は減っていません。

休む時間はあります。それでも疲れが取れないのは、その時間がスマホの通知や仕事のチャットで埋まっていて、仕事や画面から本当に離れられていないからかもしれません。リカバリーウェアを着て寝ても、寝る直前まで仕事のチャットを見ていたら頭は休まりません。回復は買えても、休んだ時間でちゃんと疲れが取れる「回復の機会」は、お金では買えないのです。

通知を増やして注意を奪う商売があり、その隣に通知を減らすアプリがあります。仕事を速くするAIがあり、その後始末で疲れた人にリカバリーウェアが売られています。疲れを生む商売と、回復を売る商売は、同じ経済の中にあります。

どちらも疲れた人の役に立とうとしている正統なビジネスです。ただ、回復を買えるようになったからといって、回復の機会が増えたわけではありません。1,200万着という数字は、資本主義が「回復」をどれだけ買いやすい商品にしたかと同時に、私たちがどれだけ回復の機会を失っているかを映しているのだと思います。

<コムギコ:資本主義をハックしろ!!>
毎日ニュースを100本を読むビジネス系VTuberのリサーチャーであるコムギ(comugi)が、日々の経済にまつわるニュースを解説するビデオポッドキャスト。本記事は2026年9月24日配信『何もしてないのに、疲れる。なぜ休む時間は増えているのに、疲れは取れないのか?』から抜粋してまとめたものです。

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