ワールドカップ優勝まで20年 JFA名誉会長・田嶋幸三「育成をビジネスとして成立させないと勝てない」

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2026年09月26日 07:30  webスポルティーバ

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日本サッカー この先20年の強化を考える 
田嶋幸三(JFA名誉会長)インタビュー 後編

 日本サッカーはこの先20年の強化をどうするべきか。長く強化・育成に携わってきた田嶋幸三JFA名誉会長にインタビュー。後編では育成システムのあり方や代表チームが強豪へ進化するポイントを聞いた。

>>前編「10代でJデビュー→欧州移籍という選手たちを集めたい」

【育成がビジネスになりクラブを進化させる】

――育成システムで変えたほうがいいのではというところはありますか?

田嶋 Jリーグのクラブでクオリティーに差が出てきているように感じます。例えば、Jクラブではなく高校のサッカー部を選択する選手がいます。コーチの数も多く、練習場も整備されていて、寮もある。それだけの投資をしているからです。三井寺眞(横浜F・マリノス)がいたFCフォーリクラッセ仙台(現FCフォーリクラッセTOHOKU)は財前宣之代表の下、指導に定評のあるクラブです。しかし、欧州ではバイエルンのようなクラブに優秀な選手が集約されていくのが普通です。地域で選手を育て、Jクラブがその中核にあるはずなのですが、現実には必ずしもそうなっていません。

 Jクラブ所属の16歳以上の選手は実質的には「プロ」です。プロとして大人扱いすべきだと思います。プロ契約するかどうかは別にして、17、18歳でプロとして堂々とプレーできる選手を育てるためには、精神的にも成長を促していく必要があると思います。

――高校や街クラブのほうが指導力も含めて環境がいい、あるいは高校で奨学金が出るといった経済的なメリットもあるでしょう。日本の場合は育成体系が複雑で、欧州のようにスッキリしたものではないですね。

田嶋 代表を見ても高校サッカー出身の選手が多いですし、日本の良さもあると思います。大学へ行ってから成長してプロになる選手も多い。ただ、逆に言えばJユースで選手を育てきれていないという見方もできるわけです。実際、欧州では10代でプロデビューするわけですから。

 大学経由で選手が成長するのは日本独特の良さではありますが、大学で育ててもらおうとなっている根底には、育成がビジネスに結びついていないという問題があるかと。10代でJデビューし、移籍して1000万円の収入がクラブにもたらされるとします。それならば3000万円で良いコーチを雇って、毎年1000万円の収入があるなら得になる。しかし、育成に投資することでリターンを得られるという構造ができていないので、本腰が入らないのが現状ではないかということです。クラブ間の配慮なのか、国内の移籍金も抑えられている。

 W杯でFIFAに入ったお金はJFAにも回ってきます。選手を育成し、その選手が移籍した時には移籍金がその選手を育てたクラブにちゃんと入ってくる。サッカー界はそういうシステム、いわば持続可能なシステムになっています。チャンピオンズリーグに出場するような選手を5人、6人と輩出していけば、クラブは相応の収入を得られる。そうした仕組みを理解し、活用していくことが重要だと思います。

――・――・――

 Jクラブの収入で最も大きいのはスポンサー収入だ。観客動員による収入がそれに次ぐ。移籍金収入の割合はまだ少ない。しかし、のびしろは大きい。

 高井幸大が川崎フロンターレからプレミアリーグのトッテナムに移籍した際の約10億円が今のところJリーグ最高額だが、20〜30億円は欧州中堅クラスの主力級の移籍金として普通の金額である。Jリーグからの直接移籍ではないが、佐野航大(NEC→PSV)、上田綺世(フェイエノールト→リール)がこの規模だ。欧州でも高額な部類だが、5大リーグの主力に据えるための移籍なら50〜80億円が相場だ。世界的スターなら100億円を超える。

 仮に1500万ユーロ(約28億円)の移籍がひとり成立すると、Jクラブの推定強化費が最大で30億円程度なので、強化費は倍増する計算になる。

 選手の実力だけでなく、いくつかの条件も加わる。まず年齢。欧州側は転売益(次の移籍での利益)を狙っているので25歳以上では買い手がつきにくい。移籍金も下がる。イングランドの場合はGBE(労働許可)制度がある。代表戦、Jリーグ、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の出場時間が規定に達している必要があり、日本の場合は代表歴とACLがポイントになる。

 つまり24歳以下で代表歴があり、ACL出場歴もあることが1500万ユーロ移籍を成立させる条件と考えられる。逆算すると10代でJデビュー、23歳までに主力かつ代表入り、というスケジュール感。さらにACL出場常連クラブに所属していれば有利。

 ベンフィカ(ポルトガル)やアヤックス(オランダ)は1500万ユーロクラスの移籍を量産する体制が組まれていて、Jクラブが当面のモデルとすべき存在である。もしそうしたクラブが出現すれば、強化費は飛躍的に増加するので、Jリーグのトップに君臨する可能性が出てくる。Jクラブは育成力を高めることで、クラブのスケールを大きくできる。しかし、その認識がまだ十分に浸透していないのが課題なのかもしれない。

【強豪へ進化するポイント】

――日本がW杯で優勝する、強豪として優勝するには少なくとも20年くらいはかかるのではないかと思っています。では、その20年間で代表はどう強化されるべきでしょうか。

田嶋 ここまで来るのにも時間はかかりました。Jリーグができ、指導者を養成し、選手も成長してきました。次は指導者が欧州に行くことです。優勝国はすべて自国の監督ですから、日本も欧州で活躍する指導者を持つ必要があると思います。

 あとは熱量ですね。トレセンを始めた時に見学者を20人募集したら100人の希望者があった。当時インストラクター9000人計画というのも立てたのですが、Jリーグ発足という機運もあってすごく勢いがありました。僕はちょうどその最中にいましたから、みんなで日本サッカーを盛り上げてW杯に出場しようという熱量を肌で感じることができました。

 現在はW杯の常連にもなり、当時のような熱量は薄れているかもしれません。そこで優勝という目標に向かって新しい熱をどうやって生み出していくのか。そこにとても興味があります。

――新しい熱量を生むのは何だと思われますか?

田嶋 優勝するには何が足りないか、どこを変えるべきか。先ほどの話にも出た、17歳でプロデビューする選手を育成する、育成をビジネスとして成立させるなど、それが優勝へつながるという明確な意識ではないでしょうか。

――すでに強豪を倒しうる日本代表にはなりましたが、優勝するには強豪にならないと難しい。優勝する日本のサッカーとはどんなイメージでしょうか。

田嶋 強豪と10回やって3回勝てる程度では十分ではなく、やはり6回勝てるようにならないといけない。個で上回れなければいけないでしょうね。

――その個の能力なのですが、優勝したスペインは、例えばフランスの個の強さとは違う「連係する個」でしたよね。

田嶋 ペドリがまさにそれでしたよね。日本人より華奢な体格だけど、ゲーム全体を見る能力が非常に高い。だから、速い、強いだけではなく、すごく頭がいいなど、さまざまな能力のトップクラスが集まるチームであるべきでしょう。大岩剛監督が率いていた五輪代表はパリ五輪でスペインと対戦しましたけど、個で負けている感じはしませんでした。しかし、チームとしてまだ足りないところがあるのでしょう。

――スペインはバルセロナという基盤になるクラブがあります。ある意味、毎日練習している代表チームです。バルサでレギュラーを取ったら即代表です。育成までやってくれる。こういう基盤があって、連係面でのプレー言語を共有できている強みがあった。では、Jリーグでそうした基盤になりうるクラブを持つことはできるでしょうか?

田嶋 代表選手が複数いるクラブがあるだけでは不十分で、そのクラブがACLで優勝し、クラブW杯でも上位に入る実力であることが条件ですよね。そういうダントツのクラブが出てくることは大事かと思います。

――ただ、現状ではそうした基盤になる単独クラブを持つのは難しい。選手が移籍してしまいますから。欧州各地でプレーしている選手たちを集めてプレーするわけですが、その時に基盤となるものが必要です。強豪を倒しうる力はついた。しかし、その先にどう進化させていくか。個々の選手のレベルアップというのはあるとして、次の段階のチームがどういうサッカーをするのかのイメージがはっきりしていない気がするのですが。

田嶋 難しいですね。ただ、日本人の良さをなくしてはダメでしょうね。個の強さを高めるとともに、連係の良さも高めていく。「ファウルしてでも」という文化は日本に合わないですし、日本の良さを大事にしてほしいですね。

――・――・――

 W杯で強豪との対戦を想定すると、ボールを持たれる展開が予想される。一方、北中米W杯で日本が唯一勝利したチュニジア戦は、ボールを保持しての4−0だった。保持するのか、されるのか。これはひとつのバロメーターではあるかもしれない。

 しかし、チュニジアに勝てたのはボールを保持できたからというより、単にそれだけの実力差があったとみるべきだろう。日本が保持局面をそれほど得意としていないのは、直近2回のアジアカップに優勝できていないことにも表れている。アジアの強豪として振る舞い、ボールも保持できたが、前々回は決勝でカタールに敗れ、前回は準々決勝でイランに敗れている。

 2022年カタールW杯では相手に保持されながらドイツ、スペインに勝利した事実もある。仮に保持を軸にした場合、強豪国、とりわけスペインに保持で上回れるかという問題も生じる。優勝する日本代表とはどんなプレーをするのか、これを明確にイメージするのは簡単ではないわけだ。

 個のスケールアップという課題は明確にあるが、それが達成されてもチームとしてどうプレーするかに関してのイメージができていないのが現状だと思う。20年先、そのイメージを持てているかが、目標を実現できるかどうかを左右するのではないか。

田嶋幸三 
たしま・こうぞう/1957年11月21日生まれ。熊本県出身。浦和南高校で高校サッカー選手権優勝。その後筑波大学、古河電工(現ジェフユナイテッド千葉)と進み、日本代表でもプレーした(Aマッチ7試合出場1得点)。1982年に引退後は西ドイツへコーチ留学。帰国後は指導者養成などに尽力し、2001年にU−17日本代表監督、2002年にはJFA技術委員長に就任。選手育成やJFAアカデミー福島の創設にも携わった。2016年から2024年までJFA会長を務め、現在はJFA名誉会長。2011年からアジアサッカー連盟(AFC)の理事、2015年から国際サッカー連盟(FIFA)理事(2016年からはカウンシルメンバー)を務める。

西部謙司●取材・文 text by Kenji Nishibe

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