
米S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは9月4日、米国の大型株で構成する株価指数「S&P100」の構成銘柄を組み替える一環で、ナイキを除外することを発表した。S&Pダウ・ジョーンズは変更の理由について「各指数がそれぞれの時価総額レンジをより適切に反映するため」と説明している。
筆者は約2年にわたり、ナイキの変調を追ってきた。
2024年10月には、直販(DToC)の不振と「オン」「ホカ」といった新興シューズメーカーの台頭を取り上げた。2026年4月には、中国市場で地元ブランドが存在感を増す構図を、ロボット掃除機「ルンバ」の米アイロボットがたどった道と重ねた。今回の除外は、2年前から現れていた兆候が、指数という形で追認されたものといえる。
本稿では株式市場から厳しい評価を受けるナイキと、それとは対照的に急成長するアシックスを比較し、販売戦略の違いについて考察する。
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●巨人と相性が悪い?「希少性ビジネス」
ナイキの2026年5月期の売上高は464億ドル(約7兆2000億円)と前期並みだった。中華圏とEMEA(欧州、中東、アフリカ)地域での減少が影響する一方、北米地域の成長によって部分的に相殺された形だ。一方、直販(NIKE Direct)は6%減で、うちデジタルは12%減となった。
同社の主力シリーズといえば、「エアフォース1」「ダンク」「エアジョーダン1」だ。限定色の抽選販売などで話題を集め、手に入りにくいこと自体が価値となり、2020年以降はたびたび、ブランドバッグや高級腕時計などと並んで投機対象となってきた。
希少性は供給を絞るほど高まる性質がある。日本円にして約7兆円の製品を売る会社が成長を続けるには、売れているモデルの供給を増やさざるを得ない。しかし増やせば希少性は薄れ、話題は冷める。
希少性で売る方法と、巨大企業の成長目標が、靴というカテゴリーにおいてはなかなか両立しにくいようだ。
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エリオット・ヒルCEOは2025年5月期の株主向けレターで、エアフォース1、ダンク、エアジョーダン1という「非常に重要な3つの定番シリーズを積極的に適正規模へ戻す」と述べ、その影響が短期の業績を押し下げたと説明した。希少性を武器に育てた定番シリーズは、供給を拡大すると希少性が薄れ、かといって生産量を減らせば今度は業績停滞につながったというわけだ。
●赤字から復活したアシックス
ここで視点をアシックスに移したい。同社も数年前まではナイキと同じく苦境にあった。
同社は2018年12月期に203億円、2020年12月期に161億円の最終赤字を計上している。2021年2月に公表した「中期経営計画2023」では、2020年12月期の営業利益率がマイナス1.2%だったことを示したうえで、前の中期経営計画について「数値目標のいずれも未達」「収益性の改善分野において抜本的な改革に至らず」と自ら総括した。
北米事業では「ランニングNo.1の奪還」を掲げている。北米のランニング市場で首位を明け渡していたことを、会社自身が認めていたわけだ。
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反転の起点になったのが、この中期計画で打ち出した「カテゴリー経営」である。
同社は事業をパフォーマンスランニング、オニツカタイガー、コアパフォーマンススポーツ、スポーツスタイルなどのカテゴリーに分け、それぞれに利益目標を置いた。
あわせて不採算の直営店の閉鎖や、需要予測による在庫の適正化も掲げた。全ての領域で戦うのではなく、稼ぐ場所を決めて資源を集中させる方針だ。カテゴリーごとに利益を評価すれば、売れ筋を無理に増産して値崩れを起こすより、そのカテゴリーの採算を守る判断が働きやすくなる。
その結果、2021年12月期には最終損益が94億円の黒字に転じ、2022年12月期には売上高4846億円と過去最高を更新、最終利益も199億円に伸びた。
その後も伸びは加速し、2024年12月期の営業利益率は14.7%に達し、同社は2026年の目標を営業利益1300億円以上、営業利益率17%以上に引き上げた。在庫回転日数を抑える管理目標も掲げ、量を追っても在庫を膨らませない運営を明確にしている。
2025年12月期には売上高8109億円(前期比19.5%増)、営業利益1425億円(同42.4%増)と、目標を1年前倒しで上回った。2026年12月期は売上高1兆500億円、営業利益1950億円を見込んでおり、株価も右肩上がりとなっている。
●売り上げの質と量
アシックスの成功要因は、「希少性で売る事業」と「量で稼ぐ事業」を切り分けた点にある。
1〜6月期のパフォーマンスランニングの売上高は2206億円と19.3%増え、全社の4割を稼ぐ。一方のオニツカタイガーは売上高895億円と規模では及ばないが、粗利益率は74.6%、利益率は39.7%にまで達する。同ブランドは東京・新宿に旗艦店を構え、2027年1月には「ラグジュアリーライフスタイルブランド」として確立するため分社化も行うという。
確かにオニツカタイガー自体は、ナイキの売上高の数十分の1程度にすぎない。しかし、この規模だからこそ、供給を抑えて高い価格を保つ売り方が成り立つ。アシックスはその事業に全社の成長を背負わせず、別の組織として運営する道を選んだ。
シェアを広げる量的な成長はパフォーマンスランニング事業で稼ぎ、オニツカタイガーの持つ希少性とは切り離して守る。ナイキが1つのブランドの中で両立させようとした2つの論理を、アシックスはカテゴリーごとに分けて運営しているともいえよう。
ナイキの失速は、「希少性」を全社の成長エンジンに据えようとしたことに一因があると筆者は考える。
規模の大きな会社ほど、成功した売り方をそのまま全社に広げがちだ。だが、その売り方が自社の規模や成長目標と両立するとは限らない。ナイキとアシックスの差は、売り方と規模の組み合わせを見直したかどうかの差でもある。
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