DeNA・石田裕太郎(撮影=萩原孝弘) 今シーズン、ベイスターズ投手陣では、セットポジションからノーワインドアップへとフォームを変える動きが見られる。
直近の登板で力強い投球を見せた石田裕太郎も、ノーワインドアップでマウンドに上がった。さらに山��康晃も「プロ入りした直後、先発のとき以来ですかね」と約10年ぶりにノーワインドアップを採用。伊勢大夢も同様の取り組みを行った。
シーズン途中にもかかわらず、長年ブルペンを支えてきた実力派投手たちが、それぞれのフォームと向き合い、試行錯誤を続けている。
その背景を小杉陽太チーフ投手コーチが、ノーワインドアップがもたらす技術的なメカニズムと、投手たちがフォームを変える意図を明かした。
◆ 石田裕太郎はいきなり結果
25日の阪神戦で7回1失点と好投した石田裕太郎は、ノーワインドアップでマウンドに上がり、力強いストレートを投げ込んだ。球速も上昇したが、今回の取り組みの入り口は、単純な出力アップではなかった。
小杉コーチが明かす。
「裕太郎に関しては、静止してる状態から動く『静から動』だと、ちょっと動き出しのタイミングが難しくなってきたんで、『動から動』で入るっていうイメージで入ったんです。基本的に球速を上げるという意味ではそれも1つのポイントではあるんですけど、球速を上げるというよりかは、タイミングの問題で今日やったんです。そうしたら結果的にスピードも上がってたんで、取り組んで良かったんじゃないかと思います」
セットポジションでは、一度静止した状態から動き出すタイミングの難を解消するため、動きの中から投球動作へ入る「動から動」を試した。
目的は球速アップそのものではなく、投球動作のタイミングを合わせること。その結果としてフォームがスムーズになり、球速も上がった。
ノーワインドアップには、出力を高める可能性がある。山��康晃も「出力が上がります」と話している。ただ、石田裕太郎の場合は、まず自分の身体をスムーズに動かすための選択だった。
そして、そのフォーム変更には、もう一つの物理的なメリットがある。
小杉コーチはノーワインドアップによる重心移動について説明する。
「やっぱりノーワインドアップにすることで、助走じゃないですけど、しっかり並進の時間が早くなります。その時間が早くなると、大体ストライドの幅が0.5足分ぐらいは広がるんですね。それは球速にかなり寄与するんです」
「動から動」へ入ることでタイミングを合わせやすくなるだけでなく、重心移動やストライドにも変化が生まれる。その結果として、ボールに伝わる力が増していく。
石田裕太郎の場合、狙っていたのはあくまでフォームのタイミングだった。しかし、動きの入り口を変えたことが、結果的に球速の上昇にもつながった。
◆ 山��、伊勢も取り組んだ「動から動」
ノーワインドアップへのトライは、石田裕太郎だけではない。山��康晃と伊勢大夢も同様の取り組みを行っている。
小杉コーチは、2人の変化についても明かした。
「(山��)ヤスも、伊勢(大夢)のノーワインドアップで出力上がりましたね。ヤスはいまでも下でね、やったりやんなかったり、ツーストライクに追い込んだらやったりしています。伊勢はやっていますし、裕太郎もですね」
フォームを変えるという簡単ではない決断の裏側には、それぞれの投手が抱える課題と、それを解決するための狙いがある。
だからこそ、小杉コーチも「ノーワインドアップなら誰でも球速が上がる」と単純には考えていない。
「それに耐えられる身体があるかどうかっていうのは結構ポイントだと思います。なのであれをずっと続けていけるかどうかは、僕もわかんないです。年間通してね。できる人、できない人っていうのは当然いると思うんですよね」
大きな出力を生み出せるからといって、そのフォームを1年間続ければいいわけではない。投手それぞれの身体の状態や、シーズンの時期、登板状況によっても、最適なフォームは変わってくる。この取り組みも、柔軟なアプローチの一つと言える。
「動から動」へ。同じ打者との対戦を繰り返すペナントレース。理想を追い求める姿勢と飽くなき探求心が、プロ野球選手の根底にある。
取材・文 / 萩原孝弘