
9月7日、横浜市幹部の告発によってパワハラ疑惑を指摘されていた山中竹春市長が、事実関係を全面的に認めた第三者委員会の報告を受けて辞任しました。
第三者委員会の調査により、今回の問題は収束したように見えます。しかし「絶対的権力者の暴走をいかに止めるか」という、横浜市の例にとどまらない問題への解答は、得られたのでしょうか。
●「ポンコツ」「人間のクズ」と職員を罵倒
2026年1月に会見を開いて市長のパワハラを告発したのは、横浜市の前人事部長でした。怒鳴る、書類を投げつける、にらみつける、意図的に無視する。さらに「ポンコツ」「人間のクズ」など人格否定と受け取れる発言や、深夜や休日を問わない常態的な業務連絡・指示などの事実を挙げて、パワハラ被害を訴えたのです。
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これを受けて第三者委員会が組成され、市長および職員57人へのヒアリングと幹部職員ら約750人に対し記名式のアンケートを実施。アンケートは294人から回答を得ました。
ヒアリングの結果、複数の職員などから上記のパワハラ行為を見聞きしたという証言が得られています。アンケート調査においても、全体の約65%から市長のパワハラ行為を認識していたとの回答がありました。前人事部長が告発したパワハラ行為は、ほぼ全てが認定されたわけです。
またその原因については「職員の尊厳や人権への配慮が欠如していたことは否定できない」「パワハラについての正確な知識・理解が不足していたと言わざるを得ない」としています。
●なぜ、自治体トップのハラスメントが相次いでいるのか
第三者委員会の報告によれば、本件は山中市長の個人的な資質によるところが大きいとはいえますが、1つ気になる点があります。それは、横浜市に限らず近年、自治体の首長によるハラスメント事案がやけに目に付くことです。
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斎藤元彦兵庫県知事は2024年、パワハラを告発され議会の不信任決議によって失職しました(その後、出直し選挙で再選)。沖縄県南城市の古謝景春前市長は2025年、職員へのセクハラを問われ二度の不信任案で失職(再選は不出馬)。杉本達治前福井県知事も同じく2025年、セクハラ行為が認定されると自ら辞職を選び、再選出馬は見送っています。
首長という自治体トップに立つ者が、コンプライアンスに抵触(ていしょく)するような問題行為を無意識に起こすほど非常識であるとは考えられません。ある種のおごりがそこには存在しているのではないか、と捉えるのが妥当に思えるのです。
言い換えれば、これは優越的な地位の濫用(独禁法による「優越的地位の濫用」とはまた異なるもの)であり、首長としてトップに立つ自分であれば、パワハラ、セクハラといった行為がある程度許容されるに違いない――と勝手に思い込んでいるのではないでしょうか。
ではなぜ、こういった思い込みが起きてしまうのでしょう。
●企業不祥事と自治体不祥事に共通するポイントとは?
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根本的な原因は、自身が市民の選挙によって選ばれた特別な存在であるという、自意識にあるのではないかと考えます。自分の周囲にいるのはたとえ幹部職員であろうとも公務員というサラリーマンであり、政治家である自分は、彼らとは「住む世界」が違う。それがゆえに組織内で誰からもとがめを受けないというおごった意識です。
すなわち、自分とそれ以外の職員とを職務上の上下関係ではなく、身分階層的な上下関係として捉えているのではないでしょうか。
似たような構造は、自治体組織以外でも起こり得ます。例えば同族経営の民間企業。オーナー家の後継者は、入社時に次期経営者の座を約束された特権階級と言えます。飛び級でトップに就くという点こそ首長とは違いますが、ある意味同じ落下傘型トップではあります。
2023年に発覚したビッグモーターの不祥事は、特権階級である経営層による恐怖政治が、保険の不正請求などを引き起こしました。第三者委員会の調査では、創業者の子息による人事権を背景としたパワハラ管理が、その大きな原因であるとしています。特権階級意識による組織管理の暴走は、ハラスメントにとどまらず大きな不祥事をも生み出す要因になるのです。
自治体における首長と同族企業における後継者の共通項として、自身がトップに立つ組織において、他の職員・社員と同じようには育ってきていない点が挙げられます。
一般にサラリーマンは、組織の中でもまれ苦労もしながら、学び、成長し、管理する立場に昇進していきます。一方、首長や後継者にはそれがないケースがほとんどでしょう。同時に当然のこととして、周囲もまた特別な存在として彼らに接するでしょうから、彼ら自身の特権階級意識は一層強くなってしまいます。
そうなってしまうと、段階的に組織の中で育ってきた者ならば持つであろう「上下関係を越えた同胞意識」やシンパシーを感じることができずに、部下に対して必要以上に強い姿勢や言動が容易に出てしまうのかもしれません。
ちなみに、同じ落下傘型のトップでも、親会社からの出向の場合は、自身も同じグループで育った仲間であり、かつ親会社の管理下にあるという立場から特権階級意識は生まれにくい傾向にあります。ただし、最近増加傾向にあるM&Aにより子会社になった企業への「天下り」トップの場合には、特権階級意識が生まれやすい環境でもあるので、注意すべき存在と言えそうです。
●「トップの横暴」に歯止めをかけるために必要なものとは?
彼らの特権意識を強固にするものは、絶対的な人事権の掌握です。絶対的な人事権は部下を黙らせ「言いたいことを、言いたいときに、誰もが言える」という心理的安全性を奪い取ってしまいます。
トップの横暴を指摘しようものなら、遠隔地に飛ばされたり、降格させられたり、閑職に追いやられたりするかもしれない。そんな恐怖心が口をつぐませることになります。この点に歯止めをかけないことには、いつどこにおいても横浜市のようなケースは起こり得るのです。
多くの上場企業においては、社外取締役が中心となり構成される指名委員会や、報酬委員会がトップを含めた役員を評価し、よろしからぬ事態によってはトップの更迭(こうてつ)もあり得るでしょう。それこそが、今様の企業経営でありガバナンスです。
しかし、横浜市のような公共団体やビッグモーターのような非上場企業では、いかに大きな組織であろうとも、トップに抑止力を働かせるような仕組みが十分に整備されていないのが実情です。内部通報システムが設置されていたとしても、それが十分に機能しないケースも多く、横浜市の場合にも市長の横暴の前には無力であったのです。
この点について、いかに対策していくべきなのでしょうか。
横浜市の第三者委員会の報告書では、市長などの特別職を対象とした制度の欠如を指摘し、研修などの充実を挙げています。しかし、それ以外の具体策には言及していません。
内部通報システムに関しては、トップから完全に独立させた第三者の管理とすべきでしょう。またトップの優越的な地位の濫用に該当するような通報については、トップ自身を関与させず、第三者が厳正な調査と対応に当たる運用の厳正化が必須です。
公共団体の場合には、問題発生時における議会との連携を含めた具体的な対応方針を事前に定めるなど、トップである市長の横暴に対しても抑止力が働くような仕組みづくりが必要であると考えます。
また、内部通報に至る前の予防策として、トップを部下が査定する「180度評価」の定期的実施も有効です。公共団体などでは、その結果を公にすることで、暴走を抑止できるのではないでしょうか。
誰からもとがめを受けない状況こそが、特権階級意識を助長しているとするならば、この種の制度を導入することが歯止めになるはずです。たとえトップであろうとも「自分の一挙手一投足を、常に厳しい目で見られている」という意識を持たせることこそが、再発防止につながると思うのです。これは民間企業にも応用できます。
もちろん、まずは本人の自覚が大前提であることは、論をまちません。相次ぐ自治体トップの不祥事報道を、組織のトップは何よりまず自身の襟を正す機会として捉えてほしいものです。
(大関暁夫)
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