
広島県福山市に本社を置く精密鋳造メーカーのキャステム。前編では、漫画『キン肉マン』のロビンマスクを再現した商品など、ユニークな自社製品がヒットしている背景を聞いた。
こうした商品開発は、採用にも思わぬ効果をもたらした。キャステムでは、年間10〜20人ほどの新卒採用を行っているが、2023年度には800人を超える応募があり、29人が入社した。
人材不足が課題となる製造業で、地方の中小企業がなぜこれほど多くの若手を集められたのか。後編となる本記事では同社の人材戦略について取材した。
●「何をしている会社か」をBtoC商品で伝える
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キャステムは、医療機器や半導体、電動工具、航空宇宙、ロボットなど、幅広い産業向けに精密鋳造による金属部品を製造している。
国内の鋳造業を取り巻く環境は厳しい。原材料価格の高騰や設備更新、後継者不足など、さまざまな課題を抱えている。経済産業省の調査によると、鋳造業の事業所数は2012年から2021年にかけて39.0%減少した。
キャステムの代表取締役 専務執行役員を務める戸田有紀氏は「製造業は、“安くいいものを早く作ってくれるか”が求められます。ただ取引先にとっては『長く継続して発注を受けてくれる会社なのか』も大切です。そのため、採用強化も中長期的な競争力につながっています」と話す。
採用力を高めるのにつながった取り組みの一つが、前編で紹介したBtoCの自社商品の開発だ。キャステムでは、著名人の手を型取りした金属オブジェや、累計販売数50万個を超える「モンスターボール 虫かご」(1430円)、漫画『キン肉マン』に登場するロビンマスクを原作に近いサイズ、造形、材質で再現した「漫画『キン肉マン』ロビンマスク(原作Ver.)」(16万5000円)など、ユニークな商品を展開している。自社のオンラインショップのほか、雑貨店などにも販路を広げている。
現在、会社全体の売上高に占める自社商品の割合は2〜3%程度だが、商品の開発・販売を通じて、自社の技術やモノづくりを一般消費者に発信できるようになった。
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BtoBで製造している部品は、顧客の製品に組み込まれるため、製造工程を自由に撮影して公開することは難しい。一方、自社商品なら、製造工程を写真や動画で撮影し、PRに活用できる。
さらに、商品を実際に手に取ってもらう場として、2026年4月にはJR福山駅直結のショッピングモールに自社製品を販売する実店舗をオープンした。商品を販売するだけでなく、地域の人や観光客に「こんなモノづくりをしている会社が福山にある」と知ってもらう狙いだ。
こうした発信によって、求職者や学生に「何をしている会社なのか」を伝えやすくなったという。単に部品を製造する会社ではなく、「面白そうなことをやらせてもらえそうな会社」というイメージにつながり、企業の知名度向上や採用にも波及した。
●新卒採用者の平均定着率は8割超
知名度を高めて応募者を増やすだけでなく、働き続けやすい環境づくりにも取り組んできた。鋳造業界は一般的に離職率が高いとされ、キャステムでも離職率が50%を超えた時期があったという。しかし、2020〜2024年の新卒採用者の平均定着率は81.2%まで向上した。
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その取り組みの一つが、福利厚生の充実だ。2018年に社員食堂をリニューアル。1食250円でおかわり自由とし、1日1メニューと、それが苦手なメニューだった場合のために食べ放題のカレーを用意している。また、月に1回「チャレンジメニュー」として、ローストビーフ丼やうなぎ丼などの豪華なメニューをおかわり自由で提供している。
調理担当の社員を雇っており、毎日200食分のランチを前後半に分けて準備。外部に委託するのではなく社内で運営することで、コストを抑えているという。
リニューアル前の食堂は現在より狭くて薄暗く、従業員はテレビを見ながら注文した弁当を黙々と食べているような雰囲気だった。しかし現在は、カフェテリアのような明るい雰囲気に改装。従業員同士の会話につながるよう、テレビは置いていない。座る場所が固定してしまわないよう、定期的にテーブルの配置も変更している。
結婚や出産後も働き続けられる環境を整えるため、2022年には社内に託児所を開設。保育士は社員として雇い、1日700円の自己負担で、生後半年〜2歳児の子どもを預けられるようにした。預け先と勤務先が同じため送迎の時短になるほか、昼ごはんは社員食堂で子どもと一緒に食べられる。
製造業では比較的男性社員が多いが、キャステムでは新卒社員の約4割が女性だ。新規事業の立ち上げなどを通じて女性が活躍できる職種も増え、現在は女性が社員の約35%を占める。
●「やりたい」を応援する部活動
社内の部活動にも力を入れている。特に人気なのが、社員が就業時間外に自分の好きなものづくりに取り組める部活動「TTクラブ」だ。約30人の社員が参加しており、自社で保有している精密部品製造に使う工作機械や3Dプリンタ、工具を自由に使える。
簡単なものでは、3Dプリンタでペン立てやスマホケースなどを作ることができる。TTクラブの活動を知ったことをきっかけに入社する社員もいるという。
2025年7月に開催された、小型の四輪駆動車模型であるミニ四駆の速さや技術を競う「製造業対抗ミニ四駆大会 ワールドカップ in 大阪・関西万博」では、TTクラブが所属する社員が制作したミニ四駆が「パフォーマンス賞」を受賞した。こうした大会に出場する際の旅費は、キャステムがサポートしている。
戸田氏は「技術を自分の好きなものづくりを通じて高められるし、キャステムにいるからそういったことができるということで、社員の定着にも寄与していると思います。失敗をとがめるのではなく、トライしていることを褒める風土でありたいです」と話した。
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