NVIDIA「RTX Spark」が登場間近 Arm版Windowsのソフト互換性は本当に大丈夫?

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2026年10月06日 06:11  ITmedia PC USER

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NVIDIA RTX SparkのSoC「N1X」(写真:PC USER編集部)

 NVIDIAの新SoC「RTX Spark」の正式なリリースが近づいている。同社はRTX Sparkを6月の「COMPUTEX TAIPEI 2026」にて発表したが、その時にそのリリース時期を「この秋」と説明しており、今まさに秋の季節を迎えつつあるからだ。


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 既に9月上旬にドイツ・ベルリン市で開催されたIFAでは、Acer、ASUSTeK Computer、Lenovoなどが搭載製品を発表している。


 このRTX Sparkだが、これまでWindows PCで主流を占めていたx86プロセッサではなく、Armプロセッサと呼ばれる別の種類のCPUが採用されている。


 そこで心配されるのは、ソフトウェアの互換性問題だ。確かに登場当初のArmプロセッサが動作するWindows(WoA、Arm版Windows)にそうした懸念があったのは事実だが、今はほぼ解消に至っている。そのあたりの状況を解説していこう。


●RTX SparkのCPUはArm ISAを採用 これまでWindowsで主流だったx86 ISAとは互換性がない


 NVIDIAが6月にCOMPUTEXで発表したRTX Sparkは、Windows向けのSoC(System on a Chip、1つのパッケージ製品でコンピュータを構成できる半導体製品のこと)になる。これまで、Windows向けのSoCは、AMD、Intel、Qualcommという3社が提供してきたが、今回NVIDIAが参入することを明らかにしたことで、4社が提供する形になり、技術革新や価格競争の面でユーザーにメリットをもたらすと考えられている。


 NVIDIAのRTX Sparkは、厳密にいうと半導体製品としては完全に新しい製品ではない。というのも、NVIDIAは2025年のCESやGTCにおいて「DGX Spark」というAI開発用のミニPCを発表し、2025年の秋ごろからAI開発者向けに販売している。


 このDGX Sparkに採用されているSoCが「GB10」で、基本的にRTX Sparkの半導体製品となるN1X(開発コード名)は物理的にはGB10とほぼ同じだと考えられている(以下基本的にどちらも同じチップであることを前提に話を進める)。


 GB10もN1Xも、1つのパッケージ内に2つのチップが内蔵されている、いわゆるチップレットの構造になっている。1つはGPU以外のCPUや周辺部分を構成するCPUダイで、こちらはNVIDIAのパートナーであるMediaTekが開発してNVIDIAに提供している。


 もう1つがNVIDIAのGPUダイで、48のSM(6144のCUDAコア)の演算器を搭載しているため、ダイそのものはGB205(Geforce RTX 5070などに使われているNVIDIAのGPUダイ)相当だと考えられている(GB205と全く同じかどうかなどは不明だが、少なくともGB205に搭載されているGDDRメモリ用のメモリコントローラーはN1Xでは必要がなく、メモリコントローラーはCPU側のメモリコントローラーが利用されていると考えられる)。


 さて、そうしたN1XのCPUダイが備えるCPUだが、ArmがMediaTekに提供しているIPデザイン(半導体の設計図のこと)であるCortexシリーズを採用している。Arm CPUの通例として、省電力のために2つの種類のCPUが搭載されており、プライムコアと呼ばれるシングスレッド性能重視の「Cortex-X925」と、マルチスレッド向きのパフォーマンスコアである「Cortex-A725」が10基ずつ搭載されている。


 いずれもArmの命令セットアーキテクチャ(Instruction Set Architecture、以下ISA)であるArmv9(第9世代のArm ISA)に対応しており、Arm ISAに対応したソフトウェアを実行できる。


 このISAとは、非常にざっくりいえば、ソフトウェアがCPUと話せる言葉になる。英語しか話せないアメリカ人と、日本語しか話せない日本人のコミュニケーションがとれないのと同じで、ソフトウェアとCPUも同じ言葉を話す必要があるので、こうしたISAが規定されている。ISAが違うと、ソフトウェアはそのCPUで実行できない。Arm ISA向けに書かれたソフトウェアは、Arm ISAのCPUでしか実行できないのだ。


 これまで、Windowsでは一般的にx86というISAが利用されてきた。これはMS-DOSというWindowsの先祖にあたるOSが、IBM PCで採用されたときに使われたCPUが8086(より正確にいうならそのサブセットである8088)というIntel CPUだったことにちなんでおり、8086の後継が80286、386、486とリリースされていったため、x86という名称で定着したのが歴史的な経緯だ。


 AMDやIntelが発売しているWindows向けのSoC(Ryzen AIやCore Ultraプロセッサなど)は、そうしたx86 ISAの上位互換になっており、メモリバス幅が16bit、32bit、そして現状の64bitと進化しているが、基本的には同じ言葉(x86 ISA)を話せることは変わっていないのだ。


 このため、違う会社がリリースしているAMDのRyzen AI、IntelのCore Ultraのどちらも同じx86のWindowsが動くし、x86のアプリケーション/ソフトウェアが動く。これが長い間Windowsプラットフォームでは続いてきた。


●WoAの互換性問題はバイナリ変換(翻訳機)で対応するが、カーネルモードで動くソフトウェアは変換できない


 それに対して、N1XのCPUであるCortex-X925/Cortex-A725は、Arm ISAになる。このため、AMDやIntelのx86 ISA向けに作られたソフトウェアはそのままでは動作できない。そもそも基本ソフトウェア(OS)であるWindows自体に、Arm専用版が必要になり、Windows on Arm(WoA、Arm版Windows)と呼ばれて従来のx86版Windowsとは区別されている。


 現在のWoAは、2016年に構想が発表され、実際に搭載した製品が登場したのは2018年になる。Qualcommが2017年末に発表した「Snapdragon 845」のPC版を搭載し、発売された。当初から課題として言われていたことは、アプリケーションの互換性だ。


 こちらは前述の通り、Arm ISAのCPUではx86 ISAのソフトウェアはそのままでは実行することができない。WoAではOSがArm対応になっていても、実行するアプリがないのでは意味がないということになってしまう。


 そこでWoAでは、当初からPrismと呼ばれる「翻訳機」(ISAの翻訳はバイナリ変換と呼ばれる)が用意されている。このPrismではアプリがx86 ISAだったときに、その命令をArmに翻訳して伝える役割を果たしている。


 このため、当初はArm ISAに対応しているアプリケーションなど皆無といった状況だったが、x86アプリケーションをWoAで実行できたので、使えるアプリケーションが多数という状況から始めることを可能にした。


 このような新しい技術の導入時には「鶏か卵か論争」といって、インストールベースと呼ばれるユーザーの手元にあるArmマシンが少ないからソフトウェアの会社はArmに対応したソフトウェアを作らない――といって卵がないから鶏は生まれないし、鶏がいないから卵が生まれないという状況が発生して、結局普及しないということがよく起こるのがITの世界だ。それを避けるために、WoAではPrismが初期導入された。


 ただし、Prismが万能かというと、実はそうではない。Windows OSはユーザーモードとカーネルモードといってユーザーがソフトウェアを実行する環境が明快に分かれている(アプリが何らかの理由で落ちた時に、OSを巻き込んでシステム全体が落ちることを避けるため)。


 OfficeやCreative Cloudのようなアプリはユーザーモードで実行されるが、OSのコンポーネント(ドライバやOS自体の本体部分)はカーネルモードで実行されている。


 例えばデバイスドライバはカーネルモードで動作するアプリの代表で、GPUのドライバやプリンタドライバなどは、Prismでは翻訳ができず、Arm版が必要になる。よく「WoAでXXが動かない」と言われる場合は、これが原因であることがほとんどだ。


●ATOKやゲーム向けアンチチートツールなどを時間を掛けて解決


 2018年にWoAをリリースしたMicrosoftだが、そのシリコンパートナーとなったQualcommは、この8年〜9年の間にそうした問題をモグラたたきのように1つ1つつぶしてきた。


 プリンタのドライバであれば、プリンタベンダーに連絡をとってArm版のプリンタドライバを作ってもらうなどの取り組みを行ってきた。こういった取り組みにより、当初は対応していなかったグローバルにはHP、日本ではエプソンやブラザー工業のプリンタなどがWoAで使えるようになった。


 PC向けの主要な製品の中では、アドビのCreative Cloudのアプリが使えない問題も長い間指摘されてきた。当初はPhotoshopとLightroom程度しかサポートされてこなかったが、現在は(β版も入れると)ほとんどのアプリがWoA上で使えるようになっている。WoA向けに提供されていないのはIllustratorとInDesignぐらいで、それらの2つもβ版は提供されており、WoAで利用することが可能だ。


 日本ではIME(日本語変換機能)であるジャストシステムのATOKの動作に問題がある(Arm ISA向けに書かれたソフトウェアでATOKが使えない)という課題が2018年の発売時点からずっと言われてきた。


 長らくこれも解決されてこなかったのだが、2026年2月に投入されたATOKの最新版(Tech.Ver 36)からArm ISAに対応したモジュールが提供されるようになって解決した。


 一般消費者向けではAAAタイトルなどのゲームとの非互換性が指摘されてきた。ゲーム本体は前出のPrismを利用することで、x86 ISA向けに書かれたゲームでも実行することができる。ゲームで変換作業とかしていたら性能面はどうなのと思われるかもしれないが、Prismでは初回起動時にCPUで書かれたコードを変換して、それをストレージ上にキャッシュとして保存する機能を持っている。


 初回の起動時に若干の時間がかかることは否定できないが、キャッシュが一度作られるとArm ISAのソフトウェアを実行しているのと同じように実行できる。


 GPUが担当する描画に関しては、DirectXやOpenGLといったグラフィックス系のAPIが利用される。これらのAPIではそもそもCPUのISAから独立して作られており、x86であろうがArmであろうが同じ速度で実行できる。こうした仕組みが採用されているため、ゲームそのものの実行速度に関しては、基本的に問題ない。


 しかし、ゲームパブリッシャーがAAAタイトルのインストール時に導入する「アンチチートツール」に関してはArm ISA環境で互換性問題が発生してきた。このアンチチートツールは、ネット越しの対戦ゲームなどでプレイヤーがズルをしていないことを確認するために使われ、インストール時にOSのカーネルレベルで動作するデバイスドライバをインストールする。


 そのデバイスドライバのArm版が提供されていなかったため、AAAタイトルは「アンチチートツールがインストールされていない」と判断してゲームを起動しないという問題が起きていた。


 この問題も既に解決の終盤に向かいつつあり、多くのゲームパブリッシャーがArm版デバイスドライバを備えたアンチチートツールの提供を開始している。おおむね市場にあるAAAゲームのうち90%は対応が進んでおり、残るはEA(Electronic Arts)のアンチチートツールが提供されれば、ほぼ解決に向かう見通しだ。


 このように、既に「WindowsにおけるArm ISAソフトウェアの互換性問題」は(多少乱暴だが)過去の話になりつつある。プリンタドライバの一部などには依然として課題(例えば企業向けだけに提供されているセキュリティ機能が実装されているプリンタドライバ)が残るが、逆に言うとその程度になってきており、今やWoAでもx86のWindowsとあまり変わらない状況に変わりつつある。


 その意味で、NVIDIAがこの秋にRTX Sparkを出す時には、互換性問題はほぼ解消(見込みを含め)という状況を迎えている。もちろん問題の性質上100%になることはないのだが、CPUがArmだといってもソフトウェア互換性問題はもはやあまり心配する必要がない、それが今の状況だ。



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