
仕事の過酷なプレッシャーから心身に不調をきたし、限界まで追い詰められてしまうことは珍しくない。そんな極限状態での思いがけない出会いが、人生の転機になることもあるようだ。
投稿を寄せた埼玉県の40代男性は、「まだ若かりし頃」に経験したという新聞営業時代の過酷な体験を明かしてくれた。
当時の営業ターゲットは、契約を断られた客やクレームで絶縁になった客などで、常にマイナスからのスタートだった。
「門前払いは当たり前で、話を聞いてもらっても、散々盛り上がって話しても契約の話を出したとたんに玄関ドアを閉められたり、奥様とのやり取りをインターホンカメラ越しに監視していたご主人に、いきなり怒鳴られたこともありました」
行く先々で嫌がられ、「半年としないうちに私は鬱のような状態になり」、営業所を出ても隠れて時間をやり過ごすようになっていた。家庭もあり、転職してまだ半年だったため「『石の上にも3年』の言葉が呪いになって自分にのしかかり」辞められずに悩んでいたという。(文:篠原みつき)
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「突然涙があふれ出て、同時に吐き気を催した」
ある日、営業成績で叱責を受けた男性は、何とか契約を取ろうとある家庭を訪問した。しかし、インターホンを鳴らした瞬間、限界に達してしまう。
「突然涙があふれ出て、同時に吐き気を催したと思うと、お客様の玄関先で盛大に嘔吐してしまったんです」
すると、出てきた奥様が慌てた様子で「あんた大丈夫かい??」と駆け寄ってきてくれた。
男性は初対面の相手に対し、営業が嫌でプレッシャーがひどくて嘔吐してしまったことを話し、軒先を汚したことを何度も謝罪して、掃除をするのでバケツと水道を貸してほしいと頼んだ。
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しかし奥様は「とりあえずこっちに来なさい」と、庭の縁側に男性を座らせ、家の中から麦茶と胃薬を持ってきてくれたという。男性が掃除をしようとしても「そんなことはいいから少し休みなさい」と、とにかく縁側に座らせて話を聞いてくれた。
「今考えれば、アポイントもなく訪問してきた男が、玄関を開けたらいきなり嘔吐して泣き出して、迷惑な奴を通り越してかなり危険な人物だったに違いないと思います」
「心身壊してボロボロになってまでやらなければいけない仕事なの?」
一通り話し終えると、奥様は少しだけアドバイスをくれた。
「契約はしてあげられないけど。だけどね、あなたはお子様もいらっしゃるんでしょ? 生活を支えるために頑張って働かなければならないのはわかるけど、今の仕事って、そんなに心身壊してボロボロになってまでやらなければいけない仕事なの?」
その言葉を聞いた時、男性は「なんだかスーッと心が楽になった」のを感じたという。「こんなボロボロになってまでやる仕事ではないよな。新聞なんてこの世になくても自分は死なないよな」と考えた時、「あ、この会社で頑張るのはやめよう」と思えた。
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奥様は男性の表情が少し良くなったのを感じたのか、「掃除はしておくから、身体と家族を大事にね」と送り出してくれたそうだ。翌日、上司に退職を切り出した。
退職後、1カ月ほどのんびり過ごした男性は、子供とも遊べず、突然わけもなく涙を流していた当時の自分が本当に疲弊していたことに気が付けたという。
「一期一会でしたが、あの優しい奥様が話を聞いてくださったおかげで、短絡的なことはせずに済んだのだと思います。本当にありがたい出会いでした」
さらに「今でも、これからも感謝し続けると思います」と感謝の言葉を重ねた。
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