
2023年に埼玉県戸田市の病院で発砲したのち、蕨市の郵便局に籠もり逮捕された当時86歳の元組員
白昼の港町で、乾いた発砲音が鳴り響いた。9月30日午後1時過ぎ、兵庫県神戸市中央区の路上で、車の助手席に座っていた男性が、後部座席に座っていた男に4発の銃弾を発砲され、うち一発が腹部に命中する事件が発生したのだ。男は運転席の男に運転を命じ、約4.5キロ離れた兵庫区の民家敷地内に移動したあと、運転席の男性に一発発砲。弾丸は右脇腹に命中した。
この事件で、最初に撃たれた助手席の男性は死亡し、続いて撃たれた運転席の男性は重傷を負った。ふたりの被害者は、同じ会社の経営者と部下だった。
2件目の銃撃から約30分後、兵庫県警は現場近くの路上にいた不審な男を職務質問したところ、事件への関与を認めたため殺人未遂容疑で緊急逮捕した。その後、容疑者の氏名を確認した捜査関係者は驚きを隠せなかったという。業界では「名うて」の人物だったからだ。
【過去にも酷似した銃撃事件】
大手紙社会部記者が解説する。
「容疑者とした逮捕されたのは、79歳の無職、亀谷直人です。実は彼は、指定暴力団山口組系の3次団体を率いており、過去には今回の事件と手口が酷似した事件を起こしています。
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2002年11月、東京駅八重洲富士屋ホテル前に停めた車の後部座席で、同じく山口組系の別の3次団体の会長だった人物に4発発砲して射殺。さらに運転席にいた組員にも銃弾を浴びせて重傷を負わせ、その後の裁判では懲役20年の刑が確定し服役しました」(社会部記者)
最初の発砲の現場から数キロの距離には六代目山口組総本部があり、抗争との関連も疑われたが、今回の犯行の裏に組織の影は浮上しておらず、現時点では個人的な恨みによる凶行との見方が有力だ。再び前出記者。
「死亡した男性と亀谷容疑者のあいだには、土地売買をめぐるトラブルがあったという情報も浮上しています。死亡した男性に、亀谷を通して香川県小豆島の土地を購入するよう勧められたという証言も複数出ています。また、亀谷容疑者は2002年の銃撃で上部団体から破門されており、出所後はヤクザとして表立った活動はしていなかったと見られています」(社会部記者)
【高齢ヤクザOBが抱える不発弾】
今回の事件では、現場からは拳銃1丁が押収されているが、入手の経緯などは解明に至っていない。
そこで思い出されるのは、本誌でも既報の2023年10月に埼玉県戸田市の病院で発砲し、蕨市の郵便局に立てこもった当時86歳の元組員の事件だ。この元組員は当時、「長年拳銃を持っていた」と、ヤクザを引退して以降も拳銃を保持していたことを証言している。
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9月30日、亀谷容疑者が最初の発砲した神戸市中央区の路上
警察庁の発表によると、2003年に44400人いた暴力団構成員は2025年末時点で9400人にまで減少している。単純計算すれば、23年で35000人の「元ヤクザ」が発生した計算になる。
これは暴力団撲滅の観点からすれば進歩と言えるかもしれない。しかし肝心なのは、彼らのうちのどの程度が「武装解除」できているかという点だ。
70代の元ヤクザのN氏が指摘する。
「組抜けする際に頭を悩ますのが拳銃の処分。ヤクザだからと言って全員が拳銃を持っているわけではありませんが、持っている場合は自己管理が基本で、その処分方法も自分で考えなければならない。他の組員に譲ったり売ったりすることもありますが、その後にその拳銃が使われて芋蔓で逮捕されるリスクもあるので、海に捨てる人も多いと聞く。あとは自ら警察に拳銃や実包を提出することで不法所持の罪を減免される『自首減免制度』もあるが、入手経路などについては追及されるため、選ぶ人は少ない」(元ヤクザN氏)
一方で、『また裏社会に戻ってくるかもしれない』と、所持し続ける元ヤクザも少なくないとN氏は明かす。そして、元ヤクザが密かに所持する拳銃の暴発リスクを高めるのが、社会復帰の難しさだという。
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「組抜け5年間未満の元ヤクザの民間契約などを制限する『元暴5年条項』で就職はもちろん、銀行口座開設や賃貸住宅への入居、携帯回線の開設にも壁がある。そんな状態では収入を得る方法もなく、生活保護で食いつなぐ者も多い。
自業自得と言えばそれまでだが、社会への憎悪をくすぶらせている者も多い。捨て鉢になったところに手元に拳銃があれば、暴挙に出てしまう危険性も否定できない」(元ヤクザN氏)
事実、そうした例は枚挙にいとまがない。2016年には東京・江戸川区東葛西のアパートで、73歳の元組員が生活音トラブルの末に上階の住民を射殺して自殺。2019年には松山市の愛媛県庁前で、70代の元組員が拳銃自殺を図っている。
実際のところ、元ヤクザの何割が「不発弾」として暴発リスクを抱えているかは不明だ。しかし、組抜け後の武装解除や社会復帰を促進させない限り、暴発は繰り返される。
文/吉井透 写真/時事通信社
