
【チームを助けたいという思いが強いゆえに......】
どんなスーパースターにも、思うようにならない時間はある。ここ数年、MLBの頂点に君臨してきた大谷翔平が、今、簡単には答えの見つからない時間を過ごしている。
アトランタ・ブレーブスとの地区シリーズ(NLDS)第2戦。大谷は「2番・DH」で先発し、4打数1安打、2三振。初回は左腕レイ・カーの内角速球に空振り三振。3回一死一、二塁の好機では、高めのカットボールを打ち上げて遊飛に倒れた。5回に左前打を放ったものの、7回は再び空振り三振。ロサンゼルス・ドジャースも2対3で敗れ、シリーズは1勝1敗となった。
大谷はポストシーズン2試合で8打数2安打。本塁打は8月18日のコロラド・ロッキーズ戦を最後に20試合、94打席にわたって出ていない。その間の打点もわずか1。右上腕二頭筋の炎症で負傷者リスト(IL)入りし、復帰したあとも、私たちが見慣れてきた大谷の打撃はまだ戻っていない。
今季前半は4年連続、通算5度目のMVPも間違いないと言われていた。しかし、WBCから始まった長い1年で、フルシーズンの二刀流にも挑み、やがて左膝や右上腕二頭筋など、身体の問題に悩まされるようになった。MVP争いから後退しただけでなく、豪快な打撃は影を潜め、投手としてポストシーズンのマウンドに上がることも断念した。
地区シリーズ開幕前日、10月2日の記者会見で、大谷はIL入りする前と比べ、「かなりよくはなっていると思います。スイングもスムーズになっていると思います」と説明。一方で今季を振り返ると、こんな言葉も口にした。
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「早く解決策というか、よくなるひとつの答えみたいなもの、これを続けていけばよくなるんじゃないかなみたいなものを早めに見つけたかったなっていう感覚ですかね」
答えを求め、いろいろなことを試した。
「ハマるものもあればハマらないものもあったり。それは来シーズンに向けても、オフシーズンに整理しながらやればいいのかなと思っています」
これまで大谷は、問題が起これば、それを進化へのきっかけに変えてきた。試行錯誤の先には、以前より優れた大谷が現れることが多かった。しかし今季は、10月5日時点でも答えを見つけられていない。それでもグラウンドには立ち続ける。
「毎試合出たいという気持ちは、もちろんありますし。状態が良い悪いではなくて、最低限、試合に出るということが、自分の最低限の仕事のひとつだとは思っているので」
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ドジャースのアンドリュー・フリードマン編成本部長も、大谷はチームを助けたいという思いから、自分の身体の問題を小さく伝えることがあると話している。それはフレディ・フリーマンら、ほかの一流選手にも見られる性質だという。
2024年のワールドシリーズでも、大谷は左肩を痛めながら出場を続けた。その時は5試合で19打数2安打だったが、チームは4勝1敗とニューヨーク・ヤンキースを圧倒した。だが、今季の9月は、明らかに本来の状態ではなかった。球団側と話し合い、IL入りを選んだ。
【負傷者リストでの15日間と厳しい評価】
IL入りの15日間は、以前とは違う時間だった。約15分の10月2日の会見中に、自宅での過ごし方を聞かれると、「子どもたちと接する時間が長かったので、あんまり暇な時間はなかったですね」と表情をやわらげ、少し照れながら答えた。家族の重要性について、こう話した。
「ひとりの時だったら、考える時間も長いし、しんどかったのかなとは思いますけどね。いっぱい人がいたので、そこはだいぶ気持ちの面で違いました」
さらに右腕が痛むなか、どのように子どもを抱っこしたのかと聞かれると、「左手で、娘はもう左手だけでいけるので。ちょっと息子は無理ですけど、娘を中心に左手で頑張っていました」と笑みを交えて話している。
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32歳になった大谷は、父親としても人生の新たなフェーズに入った。球場を離れれば二児の父。野球だけではない、大谷の現在を知るうえで印象的な場面だった。
そして迎えたブレーブスとの地区シリーズ。だが、大谷は最初の2試合で結果を残せていない。しかも、2024年のワールドシリーズとは違い、ドジャースが試合に負ければ看板選手であるがゆえに厳しい視線を浴びる。
地元紙『ロサンゼルス・タイムズ』のミリアム・スワンソン記者は第2戦後、「ドジャースはショウヘイ・オオタニ問題を抱えている」と書いた。スポーツ専門メディア『ジ・アスレチック』も「懸念の度合いは高まっている」と報じ、オールスター以降、大谷はスイングした球の37%を空振りしており、ナ・リーグで2番目に高いと指摘した。『カリフォルニアポスト』紙はブレーブス投手陣がストライクゾーン中央に直球を投じても、大谷は仕留めることができていないと厳しく評した。
地元メディアの視線が厳しさを増すなか、第3戦前日の5日、大谷は普段と変わらない打撃練習をこなした。アーロン・ベイツ打撃コーチによれば、ティー打撃、マシン打撃など通常のルーティンをすべて消化したという。ベイツ自身は大谷が室内で打っているところを見ていなかったが、「報告はすべてよかった。本人も『よかった』と言っていた」と明かした。
その練習にも、大谷なりの工夫がある。ドジャースでは硬球だけでなく、重さや硬さの異なるボールを使ったマシン打撃を行なっている。なかでも大谷は、球の変化をより大きく再現できる白いボールを以前から好んでいるという。
「2024年には、彼があの白いボールを打つのをすごく気に入っていた。翔平が来てから、我々もあれをより多く使うようになったんだと思う」
ベイツによれば、そうしたボールを使うことで、鋭く曲がるスライダーや浮き上がるような速球など、さまざまな軌道を再現できる。
【「シンプルにオフェンスに集中したい」】
大谷がこうした準備を続けるなか、第3戦ではブレーブスのエース左腕、クリス・セールが待つ。大谷はセールに対して通算15打数3安打、打率.200、本塁打なし。ドジャース打線も前回の対戦(8月27日)ではセールに完封負けを喫した(大谷は4打数無安打、2三振)。ベイツは「もちろんすばらしい投手。最大限の敬意を持っている。あとは試合に出て、どちらがより自分たちのやるべきことを遂行できるか。それを見て、結果がどうなるかだね」と語った。
ドジャースのデーブ・ロバーツ監督は5日の会見で、2番を打っていた大谷の打順を下げることさえ選択肢から排除していないと明かした。監督の役割はチームにとって最善の選択をすることで、「彼(翔平)は全面的に受け入れる」ともつけ加えた。
20試合、94打席、本塁打なし。だからこそ、ひと振りですべてを取り戻そうとするのではなく、自分がやるべきことを遂行する。大谷自身も今回のポストシーズンでやるべきことについて簡潔に話していた。
「もうシンプルにオフェンスに集中したいなと思っています」
ここ数年、大谷翔平は野球界にいくつもの「答え」を示してきた。投手と打者を同時に続けることはできるのか。日本人打者はメジャーでどこまで本塁打を打てるのか。世界最高峰の舞台でどこまで進化できるのか。そのたびに、想像を超える答えを出してきた。
しかし32歳の秋、大谷はいまだに「答え」を見つけられないでいる。思うようにならなかったシーズンの最後、ポストシーズンの大舞台でその答えにたどり着けるのか。まずはクリス・セールとの対戦で、その続きを見ることになる。
奥田秀樹●取材・文 text by Hideki Okuda