優秀な社員だったのに――なぜ「静かな退職」をするのか、どうしたら救えるか

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2026年10月10日 11:11  ITmedia ビジネスオンライン

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静かな退職状態の社員が、組織への健全な貢献を取り戻す「5つの復活ジャーニー」を解説(提供:ゲッティイメージズ)

 指示された業務は的確にこなす。しかし、会議での発言は激減し、改善提案は一切出さず、定時ピッタリに席を立つ――。かつて誰よりも熱く語り、難案件に自ら手を挙げていたエース社員の「静かな変化」を、会社は正しく捉えられているでしょうか。


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 以前の記事で「静かな退職」(Quiet Quitting)は、決して単なる怠業やサボりではなく、職務記述書にない「裁量貢献(余白の努力)の意図的な停止」であると解説しました(参考:「静かな退職」は“悪”か? それとも“賢い選択”か? 職場のモヤモヤを整理する4つのチェックリスト)。


 では、現場の社員たちはなぜ、かつて持っていた熱意を失い「最低限の仕事しかしない」という選択をするのでしょうか。本記事では、静かな退職がこれほどまでに広まった要因を解き明かします。


 さらに、実際に社員がどのような心の動きを経て心を閉ざしていくのかを「6つのペルソナ」(人物像)として解剖し、彼らが再び健全な貢献を取り戻すための「5つの復活ジャーニー」を提示します。


●なぜ「静かな退職」が広まったのか? 背景にある要因を分類


 静かな退職のまん延は、単一の理由で起きているわけではありません。以下の6つの要因が複雑に絡み合い、社員の組織に対するエンゲージメントを削ぎ落としています。


1. 心理的契約(Psychological Contract)の崩壊


 かつての日本企業には、強固な「暗黙の契約」が存在していました。社員が会社への無限定な忠誠、長時間労働、会社都合の全国転勤を受け入れる代わりに、会社は雇用を定年まで保障し、年功による着実な賃金上昇とポストを約束するという取引です。


 ところが現在、低成長による賃金停滞、中途半端な成果主義の導入、事業の非連続な変化、ジョブ型雇用への移行の動き、そして業績悪化時の早期退職募集などにより、会社側からの「見返りの保証」は大きく縮小しました。


 それにもかかわらず、社員に対しては依然として「無制限のコミットメント」を求める傾向が残っています。「頑張ればいつか会社が報いてくれる」という信頼が崩壊したとき、社員が自己防衛として「契約された給与の範囲内だけをやる」という考え方に回帰するのは、極めて合理的と言えます。


2. パンデミック後の人生観の変化と「つながり」の希薄化


 米国の調査会社Gallupの分析によると、パンデミック期以降、特に若年層において「職場で誰かが自分を気にかけてくれる」「成長機会がある」「何を期待されているか明確である」という感覚が著しく低下しています。


 これは単にリモートワークで怠けやすくなったという話ではありません。物理的なオフィス空間を共有する時間が減ったことで、先輩の背中を見て学ぶ、ちょっとした雑談による承認、同期との連帯感といった「職場から得られていた無形の報酬」(所属感・ソーシャルキャピタル)が激減したのです。


 仕事が純粋な「タスクの処理」に還元された結果、組織への帰属意識が薄れ、静かな退職へのハードルが下がっています。


3. 「頑張ると損をする」という無情な負の学習


 現場で頻発し、かつ深刻なのがこの要因です。評価システムが機能していない職場では、評価されない努力、誰もやりたがらない炎上案件の火消し、属人化した便利屋としての業務が一部の「責任感の強い優秀な社員」にだけ集中します。


 「やればやるほど仕事が増え、自分の時間は減る」「それなのに、定時で帰る無難な社員と評価やボーナスの差は微々たるものだ」「昇進しても管理職は疲弊するだけで割に合わない」――こうした経験を繰り返すことで、優秀な社員ほど「頑張らない方が得だ」と学習します。この負の学習が完了したとき、社員は自らの出力を最適化するために静かな退職を選ぶのです。


4. キャリア自律の高まりと「就社意識」の低下


 国や企業を挙げて「キャリア自律」や「リスキリング」が推奨され、副業の解禁や流動性の高い転職市場が形成されたことで「一つの会社に人生のすべてを預ける」という就社の前提が崩れました。マイナビが運営する調査・研究メディア「マイナビキャリアリサーチLab」の調査の総評でも、働くことを通じた自己実現の在り方が多様化していることが指摘されています。


 会社での社内政治や出世競争から降り、副業、資格取得、あるいはプライベートでの学びにリソースを配分するほうが、個人の幸福度や中長期でのリスクヘッジの観点から合理的だと判断する層が増加しているのです。


5. 管理職(マネジメント層)の機能不全


 静かな退職は、経営陣のメッセージ以上に「直属の上司(マネジャー)との関係性」において発生します。


 先ほどのGallupの調査では、静かな退職への対処においてマネジャーの存在が重要であり、部下の状況・強み・目標を知るための「週1回15〜30分の意味ある会話」を推奨しています。しかし日本企業では、プレイヤー業務に忙殺されるプレイングマネジャーが多く、1on1ミーティングが導入されていても、単なる「目の前のタスクの進捗確認」に終始しているケースが散見されます。


 キャリアの悩みや業務負荷の調整といった本質に沿った対話が行われないまま放置されれば、部下は孤立感を深め、静かに心を閉ざしていきます。


6. バーンアウト(燃え尽き)からの自己防衛(生存戦略)


 本人が「これ以上このペースで働き続ければ、心身が壊れる」と直感したとき、退職や休職のカードを切る前に、まず自らの出力を落とすフェーズが存在します。


 これは怠慢ではなく、生命体としての「生存戦略」(防衛機制)です。会社や上司がここを見誤り「最近元気がないぞ」「もっと主体性を持て」と無理解な叱咤(しった)激励をすれば、その先の休職・離職・メンタル不調などにつながる可能性があります。


●静かな退職に至る「6つのペルソナ」と心のジャーニー


 先述したマイナビキャリアリサーチLabの調査では、静かな退職のきっかけを「評価不満タイプ」「不一致タイプ」「損得重視タイプ」「無関心タイプ」の4つに分けています。


 実務上においてマネジメント層がこの事象を的確に把握するためには、これに「バーンアウト防衛型」と「組織不信型」の2つを加えた「6つのペルソナ」として捉えるのが有効です。彼らは最初から静かな退職者だったわけではありません。それぞれに固有の「心を閉ざすまでのジャーニー」(心理的軌跡)が存在します。


ペルソナ1:評価不満型の若手・中堅


・初期状態:最初は非常に前向きです。上司に指示された以上の仕事をこなし、会議では積極的に改善提案を行い、難易度の高い案件にも自ら手を挙げます。


・ジャーニー:しかし、評価面談で「君の頑張りは認めるが、まだ経験が浅いから」「今回は部門の相対評価の都合でタイミングが悪い」などとあいまいな理由で正当な評価が見送られます。昇給も限定的です。ふと周囲を見渡すと、目立たずに定時で帰り、新しいことに挑戦しない先輩社員と大した待遇差がないことに気付きます。


・結末:「努力と報酬がひも付いていない」という認知が確固たるものとなります。その結果、怒りではなく静かな「冷却」の感情を抱きます。会議で発言しなくなり、余計な提案は控え、後輩の相談にも最低限しか乗りません。仕事は正確にこなしますが、会社に対して感情の投資をやめてしまいます。


ペルソナ2:不一致型の異動ミスマッチ人材


・初期状態:特定の専門分野(営業、マーケティング、開発など)で専門性を磨くことにやりがいを感じており、キャリアの方向性が明確にあります。


・ジャーニー:ある日突然、人事主導の「会社都合」によって、希望しない部署(例:畑違いの管理部門など)に配置転換されます。「なぜ自分なのか」「この経験が将来どう生きるのか」と問うても、上司からは「会社員だから仕方ない」「全体最適だ」という説明しか返ってきません。


・結末:最初は適応しようと努力しますが、仕事の意味が見出せず、強みも生かせません。やがて「この会社では自分のキャリアは自分で守るしかない」と見切りをつけます。社内での新たな挑戦を放棄し、残存エネルギーを退社後の外部学習や転職活動へとシフトさせます。


ペルソナ3:損得重視型の合理主義者


・初期状態:このタイプは、必ずしも会社への不満が強いわけではありません。仕事を「生活を維持するための単なる収入源」と極めてドライに見なしています。


・ジャーニー:昇進しても責任と残業が増えるだけで、賃金差が小さいという構造を冷静に見透かしています。副業、投資、趣味、家庭での役割のほうが、人生における優先順位が高いのです。


・結末:このタイプに「もっと仕事に情熱を持て」「組織のために汗を流せ」と精神論をぶつけても一切響きません。求められたタスクはきっちりこなすため、会社ができるのは熱意を要求することではなく、職務成果・報酬・期待値を明確に設定することです。安定した成果を出しているなら、無理に“熱血化”させる必要はありません。


ペルソナ4:無関心・安定遂行型


・初期状態:キャリアアップや管理職への昇進に関心がありません。仕事自体は嫌いではないものの、人生の中心に置く気もありません。大きな変化や挑戦よりも、日々のルーティンが平穏に終わることを好みます。


・ジャーニー:劇的な変化はありませんが、環境が変わってもひたすら「現状維持」を貫きます。このタイプは会社にとって必ずしも悪ではなく、むしろ定型業務を安定して担ってくれる重要な存在でもあります。


・結末:ただし、DXの推進や事業転換など、組織が急激な変化を迫られているフェーズにおいては「新しいツールを覚えない」「今までのやり方に固執する」という形で学習を停止してしまうため、静かな退職がそのまま組織のリスクとなる場合があります。


ペルソナ5:バーンアウト防衛型の元ハイパフォーマー


・初期状態:以前は間違いなく組織のハイパフォーマーでした。責任感が人一倍強く、同僚のミスをカバーし、チームの穴を率先して埋めてきました。


・ジャーニー:慢性化した過負荷、終わりの見えない休日対応、上司からの「君にしか頼めない」という過度な依存、そして育児や介護などプライベートの事情との板挟みにより、心身のリソースが限界に到達します。


・結末:彼らが静かな退職に移行するのは「これ以上無理をしたら、自分が完全に壊れてしまう」と分かったからです。ある日突然、会議で発言しなくなり、新しい業務を頑なに拒否し始めます。ここで会社が「最近冷めている」と見誤り、追加要求をすれば、即座に休職や離脱が起きます。日本ではストレスチェック制度が2015年から義務化されており、2028年4月からは労働者数50人未満の事業場にも拡大される予定です(※)。この層への対応は、意欲喚起ではなく、医療・産業保健との接続と業務量の是正です。


※参照:厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」


ペルソナ6:組織不信型のシニア・ミドル


・初期状態:長年、会社の指示に忠実に従い、滅私奉公で尽くしてきたベテラン社員です。


・ジャーニー:時代の変化とともに、経営層から突然「これからは自律的キャリアだ」「リスキリングしろ」「ジョブ型に移行する」とはしごを外されます。会社から期待されているのか、見切られているのか分かりません。若手からは「価値観が古い」と煙たがられ、上層部からは「若手に変われ」と迫られます。


・結末:表面上は従順を装いますが、内心では「今まで散々犠牲になってきたのに。もうこれ以上、会社のために余計なことはしない」と固く決意しています。この層を放置すれば、彼らが持っている暗黙知の継承や若手育成の機能が完全に停止し、組織能力が低下します。


●組織への健全な貢献を取り戻す「5つの復活ジャーニー」


 一度「静かな退職」状態に陥った社員は、二度と心を開かないのでしょうか。結論から言えば、適切なアプローチで復活が見込めます。


 ただし、ここでいう復活とは、昔のように無限定に長時間働く社員に戻すことではありません。「本人が納得した役割と期待値の中で、再び主体性、発言、改善、協力、学習意欲を取り戻すこと」です。実務において、彼らがどのようにして健全な貢献を取り戻し得るのか、5つの復活例を紹介します。


復活例1:評価不満型が、評価の透明化で戻る


 若手Aさんは、追加案件を何度もこなしたにもかかわらず評価されず、会議で発言しなくなっていました。上司が1on1で「何が評価されなかったと感じたか」を深く傾聴し、過去の貢献を棚卸ししました。


 次に、今期の期待成果を「(1)通常業務」「(2)改善提案」「(3)後輩支援」の3つに分け、どれが評価(昇給・賞与)に反映されるかを明確にしました。3カ月後、Aさんは自分から改善案を出すようになりました。


 ただし、以前のように何でも無尽蔵に引き受けるのではなく、「優先順位はどちらですか?」と確認するようになりました。出力をコントロールしながら主体性を発揮する、これは健全な復活です。


復活例2:異動ミスマッチ型が、社内公募(調整型キャリア)で戻る


 中堅のBさんは、希望しない管理部門へ異動させられてから静かな退職状態でした。人事が本人の強みと希望を改めてヒアリングし、社内公募制度を活用してデータ活用プロジェクトチームへ異動しました。本人は水を得た魚のように再び自律的な学習を始め、横断プロジェクトで高い成果を出しました。


 「会社員だから我慢しろ」という会社主導の押し付けキャリアから、社員との「調整型キャリア」へ方針を転換したことでエンゲージメントを取り戻した好例です。


復活例3:バーンアウト防衛型が、業務負荷の改善で戻る


 元ハイパフォーマーのCさんは、周囲の火消しを引き受け続け、突然会議で発言しなくなりました。上司は最初「仕事に冷めた」と誤認しましたが、実際には深刻な睡眠不足と疲弊がありました。


 直ちに業務の棚卸しをして、Cさんだけが抱えていた暗黙の業務をチームに分散しました。そして1カ月の業務軽減と休暇取得を認めました。


 復帰後、Cさんは以前ほど長時間労働をしなくなりましたが、重要案件では質の高い判断を下すようになりました。「出力の最大化」から「持続可能な高貢献」へとフェーズを移行した形での復活です。


復活例4:損得重視型が、専門職(プロ)契約で戻る


 Dさんは昇進に全く興味がなく、副業もしており、会社からは「冷めている」と見られていました。上司は無理に管理職への昇進意欲を引き出すことをやめて「この専門領域では社内の第一人者として責任を持つ一方で、管理職としてのピープルマネジメントは求めない」という内容で合意しました。Dさんは管理職候補としては復活しませんでした。


 しかし、専門職としての誇りを取り戻し、後輩への技術レビューや社内勉強会でのナレッジ共有には極めて積極的に関与するようになりました。


復活例5:無関心型が、意味付けと小目標で少しずつ復活


 Eさんは安定志向で、出世にも新規事業にも関心がありませんでした。上司は「もっと挑戦しろ」と大きなビジョンを語るのをやめ、Eさんの日々の業務が顧客満足や現場の安全にいかに貢献しているのかを具体的に伝え続けました。


 あわせて、改善提案のハードルを大きく下げ「月1件の小さな業務効率化」を設定しました。Eさんが劇的に熱血化することはありませんが、無理のない範囲で業務改善に少しずつ参加するようになりました。


 全員をイノベーターにする必要はありません。「静かなる復活」もまた、組織の生産性を確実に底上げします。


●「静かな退職」をひとくくりにせず、個別の背景に応じた対話を


 本稿では、静かな退職が広がる6つの要因と、心を閉ざしていく6つのペルソナ、そして再び健全な貢献を取り戻すための5つの復活ジャーニーを解説しました。


 同じ「発言しない」「追加業務をやらない」という事象であっても、その裏にある評価への不満、業務や役割のミスマッチ、価値観の違い、バーンアウト、組織への不信など、根本原因はそれぞれ異なります。これを十把ひとからげに「モチベーション問題」として扱い、的外れな精神論をぶつければ、彼らは二度と心を開かなくなるかもしれません。


●著者紹介:小出翔


GrowNexus代表取締役


デロイトトーマツコンサルティングにて14年間のコンサルティング経験を経て、GrowNexusを設立。


多様な業界の大手企業・官公庁・自治体に対し、人事・組織改革、新規事業創出、業務効率化の戦略策定から実行・伴走支援まで幅広く手掛ける。近年はDX推進に加え、デジタル人材戦略から採用・配置・育成・評価・処遇に至る一貫した支援を実施。経産省・IPAのデジタルスキル標準策定も支援しており、デジタル時代の人材・リスキリングに特に強みを持つ。GrowNexusの代表として、伴走・成長支援型のサービスと、テクノロジーを融合した新しいサービスを提供。


著書に『未来のキャリアを創る リスキリング』『地銀”生き残り”のビジネスモデル 5つの類型とそれらを支えるDX』『働き方改革 7つのデザイン』など多数。近著に『誰もが成長し活躍する会社のしくみ「スキルベース組織」という新しい人材マネジメントの実践法』。



このニュースに関するつぶやき

  • ミドル・シニア層の組織不信に対してだけ復活例が無い。今一番問題になっているのが中核要員の不在なのに、どこの企業も対策をしないし、社会全体も放置して良いと考えてる節がある。まぁ、潰れてしまえばいいさ。
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