
玩具販売大手「トイザらス」が、日本での店舗運営から撤退した。その事業を引き継ごうと手を挙げたのは、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」の運営会社だった。
日本トイザらス(川崎市)は10月1日、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。負債総額は132億2600万円に上る。おもちゃ量販店として過去最大の倒産になるという。
同日付でドン・キホーテなどを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)と事業譲渡契約を結び、営業を継続する予定だ。PPIHの開示によると、同社の完全子会社がトイザらスの店舗とオンラインの販売事業を譲り受けることになるという。
そもそも、本家の米Toys “R” Us(以下、米トイザらス)は2017年にすでに経営破綻している。日米2つのトイザらス破綻には9年間の時差があるが、そこには共通点がある。
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それは、いずれの局面においても「おもちゃ市場自体は成長していた」という点である。市場が伸びているにもかかわらず、成長の恩恵にあずかれなかったのはなぜか。今後、玩具販売店に生き残る道はあるのか。
●米トイザらスは「ネットおもちゃ市場」をAmazonに取られた
米トイザらスは2000年8月、米Amazonと10年間の提携契約を結んでいた。AmazonのECサイト上でおもちゃやベビー用品などを独占的に販売する権利を得る代わりに、年5000万ドルの基本料に加えて手数料などを支払う内容だった。
米トイザらスは1998年に自社のECサイトを立ち上げており、ネット黎明(れいめい)期にいち早くネット通販の店づくりと運営に目を付けていた。しかし、それをAmazonに任せたことが後の敗因となる。
提携後、Amazonは自社サイトに外部の出品者を広く受け入れていく。2004年5月にその動向を察知した米トイザらスは、提携の解消を求めて提訴した。Amazonが外部の業者に競合する商品の販売を認めるなどして、独占の約束に反したという主張だった。
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ここでは米トイザらスが勝訴した。裁判所は2006年3月に提携の解消を認め、AmazonのECサイト上にあった共同ブランドの店は同年6月末で閉店となった。
しかし、米トイザらスとAmazonが提携していた2000〜2006年は、ネット通販が急速に拡大した時期と重なる。約6年間で、トイザらスの商品を買っていた顧客データも、ECサイトを改善するノウハウも、Amazon側にたまっていた。米トイザらスは、ネット通販に早くから目を付けていたにもかかわらず、出遅れたスタートに甘んじることとなったのだ。
これが全ての元凶と断言するわけにはいかないが、結果だけを見ると、2005年に投資ファンドなどに買収され、2017年7月末の有利子負債は約52億ドルに達し、同年9月には米連邦破産法11条の適用を申請するに至ったのは事実だ。
●おもちゃ市場「過去最高」 なのに「日本トイザらスは破綻」の怪
米トイザらスが苦戦を強いられたが、日本トイザらスは本家の破綻をよそに生き延びてきた。
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ただ、米トイザらスの破綻は、日本の先行きを映す鏡であったのかもしれない。
米国勢調査局によると、米国の小売売上高に占めるネット通販の割合は2017年の第4四半期に9.1%だった。日本の物販分野におけるEC化率は2017年に5.79%で、9%台に初めて乗ったのは2022年だ。統計の範囲が異なるため単純に比べられないが、日本のネット通販は米国を数年遅れで追いかけてきた。本家を苦しめた店離れが、時間差で日本にも及ぶことは予見できた可能性がある。
実際に、日本トイザらスの売上高はピークだった2007年1月期の約1943億円から、2025年12月期には約752億円まで減り、最終損益は8期連続の赤字だった。帝国データバンクは、インターネットの普及による購買行動の変化や他業態との競争が激しくなる中で、市場トレンドへの対応が遅れ、成長分野を十分に獲得できなかったと指摘している。
日本トイザらスが不調に陥っていた一方で、日本玩具協会の調査データによると、国内の玩具市場規模は2015年度の約8006億円から、2025年度は見込みで約1兆1664億円に増え、2021年度以降は5年連続で過去最高を更新し続けてきた。
市場は成長しているにもかかわらず、なぜトイザらスは破綻することになったのか。
●日本トイザらスを苦境に追い込んだ「他業態」の店舗とは
まずは米トイザらスと同様に、ネット通販との競争が挙げられる。東京商工リサーチは、少子化やインターネット通販との競争が激しく、次第に業績が悪化したとしている。玩具は商品名で探しやすく、店に行かなくても価格を比べて買える。米国で起きたネット通販の伸長と実店舗離れが、日本でも進んだ形だ。
また、家電量販店などとの競争もあった。帝国データバンクは、競争が激化した「他業態」の例に大手家電量販店を挙げている。玩具は専門店だけでなく、家電量販店やディスカウントストア、ネット通販などさまざまな場所で買える商品になった。品ぞろえの広さを武器にしてきた専門店にとって、わざわざ足を運んでもらう理由は薄れていったといえる。
本家の米トイザらスは、伸び盛りのネット通販をAmazonに預けてしまったが故に、自前の基盤を立て直し切れなかった。日本トイザらスも、ネット通販や家電量販店に客が流れる中で、市場の成長分野を取り込み切れなかったのだろう。日米どちらの破綻にも共通するのは、市場が伸びる裏で時代の流れに追い付けなかった点だ。
●空前の「トレカブーム」 玩具販売店の生き残る道になるのか?
玩具販売大手の日本トイザらスが倒産したいま、玩具販売店に生き残る道はあるのか。
玩具市場の伸びをけん引していた分野の一つがトレーディングカード(トレカ)を含むカードゲームだ。2015年度の約961億円から2025年度の約3384億円へと約3.5倍に膨らみ、市場全体の約29%を占める。
背景には、買った後に値段が変わる「資産性」があるのではないか。パックから出たカードは、人気や希少性によって定価を大きく超える値段で取引されることも珍しくない。この「二次流通」は、メーカー希望小売価格(上代)で数える日本玩具協会の統計には表れない。
トレカの人気は、二次流通の数字にも表れている。中古本や中古グッズを扱う「BOOKOFF」を展開するブックオフグループホールディングスでは、ブックオフ事業における直営既存店の売上高の約23%を「トレーディングカード・ホビー」が占め、前期比で約17%伸びた。
フリマアプリを運営するメルカリも流通総額の伸びの理由の一つに「エンタメ・ホビー」の好調を挙げた。海外の利用者が日本の出品を買う越境取引は流通総額の約9%を占める。トレカの越境取引件数では「ポケットモンスター」が首位だった。
メーカーが作り、店が定価で売るまでが一次流通だ。その後に生まれる定価との差額は、売却した個人やリユース企業、取引の場を提供するプラットフォーム運営事業者に分配されていく。
メルカリは、海外の買い手が日本の商品を買う動機の一つに、円安などによる「価格優位性」を挙げる。日本の定価は世界から見れば割安だが、販売店が相場に合わせて値上げするのは難しい。売れる商品でも大きな利益は取りにくい構造にあると考えられる。
かといって、中古の売買には古物営業法に基づく許可が必要だ。また、正規販売店が二次流通に乗り出すのは商慣習的にも難しい。取引先のメーカーにとっては、新品の販売機会を奪われかねないからだ。
トイザらスを引き継ぐドンキも、あくまで一次流通のフィールドで勝負していくことになるだろう。
●ドンキ×トイザらス、“新しい時代の玩具販売店”は生まれるか
では、PPIHはどこで勝負するのか。同社は、乳幼児から子ども、ファミリー層まで幅広いトイザらスの顧客基盤が加わることで、新たな顧客層の獲得とLTV(顧客生涯価値)の拡大につながると説明する。店をどう変えるかはまだ示していないが、同社の戦略と重ねると2つの方向が見えてくる。
1つ目は訪日客だ。2026年6月期の免税売上高は過去最高を更新した。日本の定価は海外から見ると割安になるため、訪日客を呼ぶ武器になる。メルカリのレポートでも、ポケモンのトレカだけでなく「鬼滅の刃」グッズといった日本のIP商品は海外の買い手に人気だ。定価で売る一次流通の小売店でも、売り先を広げれば市場拡大の恩恵に十分預かれるだろう。
次にファミリー層である。PPIHは「ドン・キホーテを知ってはいるが、来店していない『消極的忌避層』」を約3000万人と試算し、マーケティングを強化する方針だ。また、1800万人を超える電子マネー「majica」会員の購買データを生かして、一人一人に合わせた販促を進め、新規顧客の獲得と既存顧客の来店頻度向上を図る。
ベビー用品を買いに来た家族が、子どもの成長に合わせて玩具を、やがて日用品や食品までグループの店でそろえるようになれば、節目ごとの買い物で終わっていた客を長い付き合いに変えられる。
定価で1回だけ売って終わる商売ではなく、訪日客の呼び込みや家族の世代交代まで見据えた長い付き合いで稼ぐ商売となることを、PPIHは目指しているようにも思われる。
PPIHの国内実店舗網と訪日客を呼び込む力が、これまでのトイザらスが成し得なかった新しい時代の玩具販売店を形作るのかもしれない。
●筆者プロフィール:古田拓也 株式会社X Capital 1級FP技能士
FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経てX Capital株式会社へ参画。
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