なぜ快活CLUBの客がスーツを買う? AOKIHDが業界首位に躍り出た「4500万人データ」と多角化の秘密

0

2026年10月11日 18:51  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

AOKIホールディングスの青木彰宏会長(撮影:河嶌太郎)

 AOKIホールディングス(AOKIHD)の2026年3月期の連結売上高は1945億円となり、紳士服業界首位の青山商事の1890億円を初めて上回った。AOKIHDはビジネスウェアの「AOKI」「ORIHICA」に加え、結婚式場「アニヴェルセル」、複合カフェ「快活CLUB」、カラオケ「コート・ダジュール」、フィットネスジム「FiT24」を展開する。1990年代からブライダル、カラオケ、複合カフェへと事業を広げてきた。


【その他の画像】


 売上高に占めるアパレル以外の事業の比率は、青山商事の約34%に対し、AOKIHDは約47%に上る。快活CLUBは2026年6月末時点で498店舗を構え、店舗数で国内首位の複合カフェだ。快活CLUBやFiT24などのエンターテイメント事業の売上高は767億円で、営業利益は72億円と、ファッション事業の85億円に迫る。ファッション事業単体の売上高は1028億円で、青山商事のビジネスウエア事業の1242億円を下回っている。


 業界首位に立てた要因は、30年前から愚直に推し進めてきた「ポートフォリオ経営」と、グループ4500万人分の顧客データを一元化した巨大基盤だ。本来なら接点を持てない10代のネットカフェ利用者を、いかにして新社会人スーツの顧客へと変え、フィットネスジムの会員にスポーツウェアを売るのか。単なるアパレル企業の枠を超え、異業種間の相互送客によって最高益を更新し続ける戦略を、AOKIHDの青木彰宏会長と、AOKIの立川延之専務に聞いた。


●「10代の快活CLUB客」を新社会人スーツへ 4500万人データ基盤で相互送客


――AOKIHDは2026年3月期、ブライダルや複合カフェなどを含むグループ全体の連結売上高で、業界首位の青山商事を初めて上回りました。この要因を、どう分析していますか。


青木: 首位を取ること自体を目指してきたわけではありません。当社はもともとポートフォリオ経営を進めてきました。スーツ市場が縮小していくことを見据え、30年前にポートフォリオ経営を戦略として選んだのです。多角化で始めた各業態も、20〜30年の歴史があります。


 それぞれの業態で経営チームがしっかり育ち、チェーンストア経営を学びながら多店舗化を進めてきました。来店する顧客のニーズやウォンツに応え、新しい価値を持つ商品やサービスを生み出してきたことが、最も大きな要因だと考えています。


 各業態の経営チームが見ているのは、業界での順位ではありません。顧客のニーズやウォンツをどうサービスや新商品に変えていくか。そこを徹底してきた結果です。


――ファッション事業に限らず、グループ全体でも顧客データを活用しています。どのように取り組んでいるのですか。


立川: 当社グループには、ファッション、エンターテイメント、ブライダルの各事業に豊富なデータがあり、さまざまな形で活用しています。そのデータは、AOKIHDでクレンジングしています。クレンジングとは、住所が正しいかを確認するなど、変化していく顧客データを最新の状態に整える作業のことです。活用しやすく整えたデータを、各事業やさまざまな媒体で使っています。


青木: 現在は、約4500万人分の顧客データを1つのデータ基盤に統合する作業を完了しています。これにより、事業間の相互送客が可能になりました。


 例えば、快活CLUBは10代の利用者が多い業態です。一方AOKIにとって、社会人になる18歳前後の顧客は非常に重要な市場ではあるものの、この層の顧客データはもともとありませんでした。快活CLUBを入り口として獲得した顧客データをもとに、就職活動や入社を控えた若者向けのスーツなどへ送客することが実現可能になりました。


●ジム会員にウェアを売り、式場客にタキシードを売る


――業態が全く異なる事業間では、顧客データを生かすのは難しいようにも思えます。実際には生かせるものなのですか。


青木: 購買を促すという話になると、ご指摘の通り、さまざまなハードルがあると思います。ただ、当社グループはサービス業として顧客とのタッチポイントを持ち、それを有効に活用しています。モノとコトの両方をしっかり事業化しているのが当社グループです。コトの事業は会員制が多く、サブスクリプションに近いため、どんな顧客が来ているかが明確に分かります。その顧客に必要なものを、モノとして提案する。この掛け合わせは、データさえあれば確実にできると考えています。


 例えば、24時間営業のフィットネスジムであるFiT24と、ビジネスウェアブランドであるORIHICAの組み合わせです。スポーツ素材を使ったORIHICAの商品で、FiT24でのスタイルを提案できます。実際に、FiT24のスタッフが着るウェアをORIHICAで作り、提供しています。


 現在はスタッフ向けですが、今後は掛け合わせを徐々に広げていきます。FiT24には1店舗当たり約700人の会員がいて、店舗数は100を超えています。その会員に向けて、掛け合わせの取り組みを進めています。AOKIであれば、礼服やタキシードを、結婚式場であるアニヴェルセルのパーティーや結婚式と掛け合わせられます。コトがあって、モノがある。この掛け合わせを徹底的に深めるために、顧客データをしっかり使っていく考えです。


――快活CLUBとの掛け合わせでは、スーツではなく、よりカジュアルな商品が中心になるのでしょうか。


青木: 雑貨なども考えられます。例えば充電器です。こうしたアイデアについては、快活CLUBの経営チームとAOKIの企画チームが話し合い、仕掛けていける関係ができています。各事業がそれぞれの顧客を獲得してきたのが、この20〜30年でした。そこから相互送客へ進むために、モノとコトを掛け合わせる顧客データの基盤が整ったところです。


●客単価数千円と数百万円の帳票を毎月見比べる


――事業をまたいだ掛け合わせは、データがあっても発想力がなければ生まれないように思います。こうした発想は、どのように生まれているのですか。


青木: 客単価は、エンターテイメント事業が数千円、ファッション事業が数万円、ブライダル事業が数百万円です。単価の異なる事業ごとに月次の会議があり、それぞれの帳票をしっかり見ていると、考え方の幅が広がります。


 毎月数千円、数万円、数百万円という単価の異なる帳票を確認し、それぞれの良かった点や成功した点を情報交換しています。さらに毎週、各事業の経営チームが集まり「こういうやり方でうまくいった」とノウハウを共有する場を、数時間設けています。こうした場を通じて、各経営チームの考え方は柔軟になっています。「あの事業のやり方をこちらに持ってきたらどうなるか」と、発想の幅が非常に広がっているのです。


 ビジネスウェアだけ、あるいはアパレルだけを手掛ける会社とは、そこが違います。当社は、FiT24のように全く関係のない事業の話も聞きながら「これをやれば意外ともうかるのではないか」「こういう考え方をすればいいのではないか」と考えます。頭の柔軟性や構想力に生きていると思います。


――事業をまたいで顧客を送り合うには、各事業がAOKIグループのものだと知られている必要があるように思います。ただ、快活CLUBをAOKIグループが運営していることは、まだ一般に浸透していないのではないでしょうか。


青木: AOKIが快活CLUBを運営していると知ってもらうことより先に、快活CLUB、FiT24、AOKIといった業態ごとのブランディングを確実に進めることが重要です。


 その上で、アニヴェルセルも含めてAOKIグループが手掛けていると知られれば、認知度がさらに上がります。快活CLUBを利用していた人が、AOKIやORIHICAに行ってみようと考える。そうした相互送客につながっていくはずです。まずは業態ごとのブランディングを徹底的に磨き上げていきます。


(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)



    ランキングトレンド

    前日のランキングへ

    ニュース設定