※AI生成画像を使用しています。 高齢の方との距離感や会話に困ること、ありませんか? 世代ギャップは、どの世代にもあるようで……。
今回は、小学生の娘の訴えに戸惑ってしまったという女性から話を聞きました。
◆都心から少し離れた下町暮らし
東京都在住の高橋郁恵さん(仮名・38歳)は、小学3年生の女の子の母。娘が学校に行っている間にパート勤務をしています。
住まいは、いわゆる下町と呼ばれる地区。最寄駅から都心まで電車で約30分。商店街と住宅街が広がる落ち着いたエリアで、昔からの住民と若い子育て世帯が混在しています。
「住みやすい街だと思っています。ごちゃごちゃしていないので、子育てにもちょうどいいんです。
ただ、娘はまだ低学年で、何かと手がかかりますね。一人で留守番させると、YouTubeばかり見てしまいますし……。それに、女の子なので防犯面の不安もあります。なので長期休みの間はパートを休んで、娘が帰宅する時間には必ず家にいるようにしています」
ここ最近、娘が通う小学校から不審者情報の連絡が入ることも増えているんだそう。
◆娘が少し強張った顔で学校から帰宅
先週のこと。小学生の娘が、強張った表情で帰ってきたんだそう。
「10分ほど、いつもより帰宅が遅かったんです。心配していたら、娘が青白い顔をして帰ってきました。あのときは、何があったのかと慌てましたね」
郁恵さんが娘に「何かあったの?」と聞くと、3年生の娘は「ママー」と言いながら、泣き出してしまったといいます。
「娘の固い表情と涙には焦りました。私は、何があったかと聞きたい気持ちを押さえて、まずは抱きしめて娘が泣き止むのを待ちました」
娘の涙が止まり呼吸も安定して気持ちが落ち着いた頃、郁恵さんが尋ねる前に娘が話し出したんだそうです。
◆「不審者にあったの」震えながら話す娘
「今日、不審者に触られた」
その言葉に、郁恵さんは息をのみます。
「ここのところ、本当に不審者情報が多くて。娘に何かあったらどうしようかとは思っていました。そんな矢先、娘の口から “不審者”という言葉が出てきたので、驚きましたよ」
少しうつむきながら、そして目を真っ赤にさせて娘は話を続けます。
「1丁目の横断歩道でね、もう少しで渡れるかなってときに転びそうになったの。そしたら、急に走ってきたおじいさんが、私のランドセルをぎゅっとつかんできたの」
まだ少し潤んだ目で、郁恵さんをまっすぐに見つめ、声を震わせながら話す娘。
「私のランドセルをぎゅっとつかんだおじいさんね、その後に大声で「危ないよ!」って言ってきて。怖くて逃げてきちゃった」
娘の話に違和感を抱きつつも、怖がっている娘の言葉を遮ることなく郁恵さんは聞いたそうです。
◆学校からの電話が鳴る
郁恵さんが娘の話を聞き終え、どうやって声を掛けていいものか考えていたとき、郁恵さんのスマホが鳴ります。
「小学校からでした。娘の担任の先生から、今日のことでご報告したいと。娘がランドセルを触られて泣いたとき、そばにいた娘の友達が家に帰って親に伝えたそうなんです。その子の親御さんが学校に連絡をしたそうで……」
先生の話によると、少し圧が強めの高齢の男性が最近よく小学生に話しかけてくるんだそう。今年に入って、すでに数人から学校へ被害の連絡が入っている。学校としても重く受け止めており、今回の件も“声かけ事案”として一斉連絡を出す予定だということでした。
「家でも、知らない人に話しかけられたらついて行かないよ、逃げるんだよと教えています。ただね、今回の娘の件は、転びそうになったのを助けてもらっただけ。娘は驚いて泣いたけど、相手は不審者ではないですよね……?」
◆警察との現場検証
そして、この “不審者事件”はそれだけでは終わりませんでした。
下校時、娘と一緒にいた友達の母は、なんと警察にも連絡していたようです。
「警察から電話がきました。『娘さんから聞いていると思いますが、現場でどんな様子だったかお話を聞きたく、出てきていただけますか?』とのこと。警察からの連絡がくることなんて、はじめてだったので頭の中が混乱しました」
郁恵さんは急いで支度をし、娘と一緒に高齢男性に声をかけられた横断歩道へ向かいます。
「現場には、私より少し年配の警察官がいました。どうやってランドセルを触られたのか、どう声をかけられたのかを優しく娘に聞いてくれましたね。娘の気持ちを汲んで、『そっか、それは怖かったね』と共感してくれてホッとしたのを覚えています」
郁恵さんは、警察官に聞いたそうです。
「すいません。これって、ただの親切なおじいさんが娘を助けてくれただけじゃないんでしょうか」と。
すると、警察官は少し困った顔で答えます。
「最近は、 “昭和の距離感”が通報されやすいんですよ。助けようとしても、触れたらアウト。声をかけてもアウト。今の方たちと高齢者との、この距離感が本当に難しくて」
その言葉に郁恵さんは複雑な気持ちになったと言います。
「娘が怖いと感じた気持ちは、まぎれもなく本物。一方で、転びそうな子どもを支えた高齢男性の行動も、善意からだったのかもしれません」
そう語る郁恵さんの表情は、どこか複雑でした。
守ることと、疑うこと。
その境界線は、思っているよりもずっと曖昧なのかもしれません。
<取材・文/木村ひかる>
【木村ひかる】
湘南在住の編集者/ライター。4人の子どもを出産後、独学でライターに転身。多数のメディアにコラムを寄稿している。「自分が読みたい記事」を書くのがモットー。
Twitter:@hikaru___kimura、Instagram:@hikaru.writer