写真【今日のにゃんこタイム〜○○さん家の猫がかわいすぎる Vol.213】
2011年3月11日に発生した東日本大震災は15年経った今も、人々の心に深く刻まれている大災害です。そんな大震災を乗り越え、今年22歳になるのは、ツユリさん(@tuyuri5151)宅のマリンちゃん。
震災後、ツユリさんはマリンちゃんを置いて避難せざるを得ない状況に置かれたが、保護団体にレスキューを依頼。震災から1ヶ月後に再会を果たしました。
◆平和な日常を壊した、東日本大震災
マリンちゃんは、知人宅の庭で野良猫が産んだ子。2004年7月上旬、動物好きのツユリさんは兄弟の中で紅一点だったマリンちゃんに一目惚れ。両親を説得し、家に迎えました。
若い頃は、とにかくやんちゃ。2階のベランダから物置小屋の屋根に飛び降るなど、家族をハラハラさせたことは多々あったといいます。
ツユリさん宅は、福島第一原発から5km圏内にありました。震災時、ツユリさんは一晩、職場で過ごし、翌日に帰宅。マリンちゃんは地震発生時、家族と一緒に外へ飛び出しました。
「余震が多くて室内に戻るのが怖かったため、震災日の夜、家族は庭にテントを立て、キャンプ道具を駆使して一夜を過ごしたそうです」
マリンちゃんも外で夜を乗り越え、生き延びましたが、翌日の避難時、町から「ペットは避難所に連れて行けません」と告げられたのです。
「マリンは庭に戻って来ておらず、避難といっても夕方には戻って来られるだろうと思っていたので、室内に閉じ込めたままにするのも不安だと思い、ありったけのご飯と水を庭に用意し、自家用車で避難しました」
◆警戒区域にいる愛猫ともう一度会いたい
一家は、新潟へ避難。その後、両親の実家へ移った時、ツユリさんは父親を説得し、マリンちゃんを迎えに行こうとしました。
ですが、検問所で警察に止められ、住んでいた町に入ることはできませんでした。悔しさから、ツユリさんはその場で泣き崩れたといいます。
「その時、もう二度とペットは迎え入れない、迎え入れる資格はないと思いました。今もその想いは消えません。マリンは最初で最後の愛猫です」
町が警戒区域となる直前には、両親からも立ち入りを強く止められ、マリンちゃんを迎えに行くのはより難しくなりました。
ですが、同時期、全国各地の動物愛護団体が検問所を越え、動物たちを保護していることをネットで知ります。ツユリさんは複雑な想いを抱きながら、マリンちゃんの情報や自宅の住所を複数の団体へ提供しました。
「自分は安全な場所にいるまま、愛護団体様を現地へ向かわせる行為が非常に卑怯で恥ずかしく思い、後ろめたかったです」
◆再会時に愛猫が見せた“家族愛”に涙…
震災から約1ヶ月後、神奈川の動物愛護団体から嬉しい報告が。ツユリさん宅の庭に設置した捕獲器にマリンちゃんが入り、保護できたというのです。ただ、マリンちゃんは一切鳴きもせず、ご飯を食べませんでした。
「保護されても衰弱したまま命を落としてしまう猫ちゃんの話も聞いていたので、両親を説得し、すぐにマリンを迎えに行きました」
再会時、マリンちゃんは家族を威嚇。やせ細り、目つきは険しくなっていました。
「家族のことは忘れてしまったのか。きっと、置き去りにしたことを怒っているのだろう。許してもらえるわけなどない」
そう思ったツユリさんは泣きながら、変わったマリンちゃんの姿を受け入れようとしました。
ですが、猫が人間を思う気持ちは深かったのです。ツユリさんが声をかけると、マリンちゃんは目を丸くし、見慣れたかわいい表情に。「ニャーニャー」とひとしきり鳴いた後、ご飯をガツガツ食べました。
「保護してくれた方は、『初めて鳴いた。安心したんでしょうね』と声をかけてくださいました」
◆再会できた愛猫が避難生活中の“心の支え”に
再会後は、埼玉で避難生活を送りました。当初は仕事も休まざるを得ない状況で、気分も塞ぎ、無気力に。
「被災者が遊び歩くのもどうなのかと思い、出かける気にもなれず、家にいるか、庭で草花をいじるくらいしかできませんでした」
ですが、マリンちゃんがそばにいてくれたため、気持ちがどん底まで沈むことはなかったといいます。
ツユリさんは、近所の人たちの優しさに支えられ、窓際で昼寝をするマリンに声をかける園児や先生らの姿を微笑ましく思うなどして、気力を取り戻していきました。
ただ、災害は動物の心にも大きな影響を与えます。マリンちゃんは留守番が苦手になり、半日以上留守にすると、帰宅時に大きな声で鳴いて何かを訴えるようになりました。
以前にも増して家族のそばにいたがり、「膝の上に乗せて」とせがむようになったマリンちゃんに応え、心に寄り添っています。
現在、マリンちゃんは腎臓病を患っているため、週に2度、自宅点滴を行っているそうです。
「ジャンプの失敗が多くなった頃から危ない部屋には入れないようにしています。便秘気味の時には、抱っこしながらお腹のマッサージもします」
◆被災しても悩む“災害時の動物家族の守り方”
被災し、災害時に愛猫を守ることの難しさに直面したツユリさんは、いざという時、愛猫を守りやすくなるように、マリンちゃんとの再会後にはハーネスとリードをつけての散歩を行うようになりました。
「一緒に避難でき、避難先でもストレスなく外に出られるよう、慣らしていきたいと思ったからです。最初は道なき道を歩くマリンに振り回されましたが、今はハーネスをつけながら自然に散歩できるようになりました」
また、被災したからこそ気づいた“動物を守るための避難法”もあります。
「マリンの場合は、室内に残してきていたら確実に助からなかった。難しい選択ですが、私個人としては大災害で一緒に避難できない状況であれば、ペットは室内に残すべきではないと思いました」
ただ、一緒に避難できた後の暮らしを想像すると、悩むことは多いです。
「避難所にペットを入れることはできないので、自家用車内で避難できない場合は生活が難しい。ペット専用の避難所が設けられた地域もありましたが、すぐには設置されませんでしたし、非常に珍しいケースでした」
借家を探す段階になっても、ペット可の物件が少なく苦労した――。そう話すツユリさんの体験談に触れると、震災時に動物の家族を守ることの難しさを痛感します。
マリンちゃんのように家族との再会が叶った子はきっと、多くはないでしょう。“いつもの日常”が壊れた時に大切な存在を守る、まずは必要な防災知識を得て、今できる準備に取り組んでいきたいですね。
<取材・文/愛玩動物飼養管理士・古川諭香>
【古川諭香】
愛玩動物飼養管理士・キャットケアスペシャリスト。3匹の愛猫と生活中の猫バカライター。共著『バズにゃん』、Twitter:@yunc24291