宮崎駿監督のラスト映画「風立ちぬ」は、「未成年者喫煙禁止法」に違反するか?

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2013年09月08日 19:50  弁護士ドットコム

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引退会見を行ったスタジオ・ジブリの宮崎駿監督。その最後の長編映画となった『風立ちぬ』をめぐって、夏休み期間中にネットをにぎわせたのが「タバコ論争」だ。医師や薬剤師らでつくる禁煙推進団体「日本禁煙学会」が作品にクレームをつけ、議論を呼んだ。


【関連記事:そろそろ歩きタバコを「法律」で規制すべきか?】



発端は、禁煙学会が8月12日、映画の制作者に対して提出した要望書だ。そこでは、『風立ちぬ』のなかに喫煙のシーンが何回も登場することを問題視。特に、結核患者のすぐ横でタバコを吸ったり、学生がもらいタバコをするシーンが問題だと指摘していた。



禁煙学会は要望書のなかで、「学生が『タバコくれ』と友人にタバコをもらう場面などは未成年者の喫煙を助長し、国内法の『未成年者喫煙禁止法』にも抵触するおそれがあります」と法律違反のおそれを指摘。また、タバコの広告・宣伝を禁じた「タバコ規制枠組条約」にも違反すると主張している。



この指摘のように、『風立ちぬ』が法律や条約に違反する可能性はあるのだろうか。坂和章平弁護士に聞いた。



●自由な表現は映画の「生命線」



「あるある、こんな意見。しかも、ずっと昔からありますね」



要望書を見た坂和弁護士は苦笑しながらこう話す。



「映画はエンタメ。小説以上の総合的芸術で、自由な表現はその生命線です。世の良識派は違う意見かもしれませんが、日活ロマンポルノ大好き人間の私としては、性と暴力の表現への規制も最小限でOKと考えます」



となると、禁煙学会からの要望は?



「バカバカしい。それなら犯罪映画やヤクザ映画もダメだし、石川五右衛門を主人公にした映画はもっての外? 『俺たちに明日はない』(67年)も『太陽がいっぱい』(60年)もダメになるの?」



●『風立ちぬ』の喫煙シーンに法的問題はない



映画が、法律や条約に反するという主張については?



「未成年者喫煙禁止法は明治33年に制定された、6条からなる法律ですが、『風立ちぬ』に喫煙シーンが多いことは、どの構成要件にも該当せず、抵触の恐れはありません。



念のため列挙すると、1条は20歳未満の喫煙禁止。2条はタバコの没収。3条は親や監督権者が喫煙を制止しなかったときの科料。4条は販売者への年齢確認義務。5条はそれと知りつつ未成年に販売した者に対する罰金(50万円以下)。6条は法人への罰則を、それぞれ定めています」



つまり、未成年者喫煙禁止法は、「リアルの世界」で未成年にタバコを販売したり、喫煙を制止しなかったりすることを禁じているだけで、「フィクションの世界」でタバコのシーンを描くことまで規制しているわけではない、ということだ。



タバコの広告・宣伝を禁じた「タバコ規制枠組条約」についても、坂和弁護士は「この条約の13条は、タバコの宣伝、販売促進、スポンサー活動の包括的禁止等をしているものですから、いくら『風立ちぬ』に喫煙シーンが多くても、何ら違反にはなりません」と切り捨てる。



ということは、要望のこうした法的主張は「間違い」ということになるのだろうか。



「表現の是非を巡って議論したり、対立したりはあってもいい。しかし、根拠のない法律違反、条約違反を持ち出し、『法律や条約を無視することはいかがなものでしょうか』『法令遵守をした映画制作をお願いいたします』と主張するのはムチャクチャです」



ただし……。坂和弁護士は、こう付け加えた。「この要望を『表現の自由への侵害』と批判するのもダメです。彼らにだって『風立ちぬ』をそういう視点から批判する表現の自由があるのですから」


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
坂和 章平(さかわ・しょうへい)弁護士
大阪弁護士会。弁護士・映画評論家。2002年から最新映画の評論をHPで公開。また毎年2〜3冊の『SHOW─HEYシネマルーム』を出版し、2013年7月現在30巻に。評論した映画の本数は約2500本。
事務所名:坂和総合法律事務所
事務所URL:http://www.sakawa-lawoffice.gr.jp/



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  • 「風立ちぬ」の喫煙シーンが問題なら、「時代劇」は即刻すべての放送を中止すべきだ。いったい何人の人を劇の中で殺しているのだ・・・殺人の助長だ!ということになる。
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