"1話切り"は気にしていない!? 作り手側が意識する新作テレビアニメ第1話のポイントとは?

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2014年07月11日 17:10  おたぽる

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おたぽる

イメージ画像:『名作に学ぶアニメのつくり方』(玄光社)

■アニメ業界人が語る、ひそひそ秘話【第1回】



――日夜アニメが放送・放映され、盛り上がりを見せるアニメ文化。そんな中、アニメに関する事件や風聞、ムーブメントが話題になることも数知れず。それでは、実際にアニメの"中の人"はそんな万物事象をどう見ているのか? アニメ業界に身を置く安康頂一(仮名)が、大きな声ではいえないあんなこと、こんなことをひそひそと語ります。




 夏クールの新アニメがスタートする7月。さっそくネットでは放送されたばかりの作品について「第1話がどうだったか」という話題で盛り上がっていますね。同じ作品に対しても視聴者の賛否・着目する点がそれぞれ違っていておもしろいです。



 では、作り手(制作・製作者)はアニメ第1話のどこに注力し、何を受け手(視聴者)に伝えようとしているのか。ギョーカイの隅っこに身を置く者として少し語らせてもらおうと思います。



※※※※※※※※※※※※



 アニメシリーズの初期段階で作り手側が意識するのは、大きく分けて3つの要素です。「主人公のキャラクター」「世界観」「ジャンル」、これらを視聴者へ効果的に伝えられるかどうか。このうち、第1話で最も重視されるのは「主人公のキャラクター」です。



 どんなに平凡でも、逆に突拍子もない主人公でも"これまで"があるわけで、そこになんらかの変化が訪れることで主人公も視聴者も知らない"これから"が動き出す。そのターニングポイントが、視聴者の目撃する第1話なわけです。



 そこから2話、3話と続く中で、



・どんな主人公が(キャラクター)
・どんな法則の支配する世界に投げ込まれ(世界観)
・どんな物語を繰り広げるのか(ジャンル)



 をうまく絡み合わせ、作り手は作品の基礎知識を視聴者に提示していきます。
 (ジャンルとは、ここでは「恋愛もの」「友情もの」「群像劇」「復讐劇」「成長譚」といった物語の類型を指します)



 第1話の役割を視聴者にイメージしてもらいやすいのは、ロボットアニメですね。お話の進み具合によっていくつかのパターンに分けられます。



・主人公がロボットと出会う
・主人公がロボットに乗る
・主人公がロボットに乗って戦おうとする
・主人公がロボットに乗って戦う
・主人公がロボットに乗って戦って勝つ



 もちろん「主人公が最初からパイロットをしている設定」など例外もたくさんありますが、ロボットアニメでは「第1話で上記のどこまでやっているか」がひとつの試金石になります。



 ビデオグラムを売る側(製作側)は、できるだけ「戦って勝つ」ところまでやっておいたほうが視聴者へのツカミになると考えがちです。でも、そのせいで視聴者のキャラクター理解(≒主人公への感情移入)が置いてけぼりになっては本末転倒なので、どのパターンがベストなのかは一概に言えません。



 また、「主人公のキャラクター」「世界観」「ジャンル」以外に、第1話でプラスアルファの要素があるとすれば「謎」が挙げられます。全体のストーリーを貫き通す謎の存在をにおわせることも、初期話数のポイントとなります。



 序盤にこれだけ気を配っているのは、1話だけ見て視聴を継続しない"1話切り"を恐れているからと思われるかもしれませんが、実は、作り手側は"1話切り"をそれほど心配してはいません。主人公の魅力を最大限描けるよう工夫しつつも、「どのみち受け付けない人は受け付けないよ」という、作り手から視聴者に対する「見切り」もまた存在します。いずれにしても主人公が気に入ってもらえなければ継続視聴してもらうことは難しいでしょうから、当然「主人公のキャラクター」を描くことに力を入れるわけです。



 そういえば最近はネットの普及で"1話切り"したアニメがその後話題になっているのを知って悔しがる視聴者も多いようで、尻上がりに盛り上がる作品に対して、ネットの口コミなどを通じて視聴者の揺り戻しも散見されます。作り手もそういった状況を認識することで、受け手との共犯関係は濃くなりつつあるように感じますね。



【まとめ】



 作り手側は、初期話数で「どんな主人公が」「何(誰)と出会い」「どんな未来に向かうのか?」に興味をもってもらえることを重視しています。1〜2クールの作品ならせめて3話までには、これらを簡潔に表現できていなくてはいけません。視聴者としては、そこが成功しているアニメは良作になる可能性が高いと考え、視聴を続けるかどうかの判断ポイントにしてもいいのではないでしょうか。



 好みや楽しみ方は人それぞれだと思いますが、新アニメを観るときは「この作品の作り手は、第1話で何をどこまで伝えようとしているだろう?」ということも気にかけてみると、新しい発見があるかもしれませんよ。



■安康頂一
 仮名。都内某アニメスタジオに制作進行として勤務、現場の辛酸をベロベロ舐め尽くしたのち、同業別職種に転じる。現在はギョーカイの深海底でひっそりとコンテンツの明かりをともすその日暮らしのチョウチンアンコウ。



このニュースに関するつぶやき

  • これだけ作品が過剰供給な状況で、まだ「いい物を作れば観る側には伝わる」論が通用すると思っているのが凄いな。「1話切り」以前にその1話を観てもらえる確証もないのに。
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