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――日夜アニメが放送・放映され、盛り上がりを見せるアニメ文化。そんな中、アニメに関する事件や風聞、ムーブメントが話題になることも数知れず。それでは、実際にアニメの"中の人"はそんな万物事象をどう見ているのか? アニメ業界に身を置く安康頂一(仮名)が、大きな声ではいえないあんなこと、こんなことをひそひそと語ります。
新クールになり多くのアニメ作品の放送がスタートすると、ファンの間で熱く語られるのが"作画"の話題。本来はアニメの質を決定する1つのファクターにすぎませんが、"作画厨""神作画""作画崩壊"といった数々のスラングが示すように、原画・動画をひっくるめた作画クオリティを重視する風潮には根強いものがあるようです。
そうした関心の高まりとともに、動画・仕上げの工程を中国や韓国などに外注していることも広く知られるようになりました。今回はさらに突っ込んで"海外への外注の実情"と、そこから見えてくる"国内アニメーターの空洞化問題"を、ギョーカイの隅っこに身を置く者として少し語らせてもらおうと思います。
■海外の動仕会社に依頼するメリット
中国や韓国への動画・仕上げの外注は、筆者が知る限り30年以上も前から当たり前に行われています。例えば、少し特殊な形態ですが、今から約40年前の1968年から放送されたテレビアニメ『妖怪人間ベム』は、日本のスタッフが渡韓して現地スタッフを指導しながら制作されていました。まず、アニメ業界には、海外の動仕会社(動画や仕上げ=彩色を専門にする)との窓口になる会社が複数あります。そこに依頼して原画を引き渡すと航空便で現地へ送られ、数日あるいは中1日程度のスピードで、数百枚の動画が彩色まで終わって帰ってきます。これは国内の動仕会社を使うと、ほとんど不可能なスケジュールです。
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近年では彩色済みデータをネット経由でやりとりできるため、利便性はさらに向上しています。それを海外の動仕会社は、国内と変わらない単価で受けてくれるのです。もちろん窓口会社の取り分があるので、現地アニメーターの実入りは国内よりいくらか少ないはずですが。
海外に動仕を外注することは逼迫したスケジュールを救う半面、動画検査という工程をすっ飛ばすため、国内での作業に比べクオリティは一段劣るものとされ、"三文字作画"と揶揄されることもありました。ところが昨今は、充分なスケジュールで国内に発注した動画より海外動画のほうが上手いことがある、という声が現場で聞かれます。
アニメーターは描かなければ上達しません。膨大な枚数をこなしている海外アニメーターが上手くなるのは道理です。
また、いくら仕事がスピーディーといっても、あまりにクオリティの低い動仕会社は敬遠されるため、上手さ・丁寧さにも重点が置かれ始めました。すでに海外の動仕が"速かろう悪かろう"ではなくなりつつあるのです。
■国内で進行する"人材の空洞化"
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作業スピードだけでなく、上手さ・丁寧さまでも重視するようになった海外の動仕会社に対し、国内アニメーターの動画クオリティが下がってきているのはなぜか? 単価が安いから? 適切な休息が取れないから? いえ、コトはそう単純ではありません。端的に言えば「上手くなる機会を奪われている」のだと、筆者は考えます。
動画の仕事は原画へ上がるためのステップにすぎないと考えられがちですが、実は非常に専門性の高い特殊な作業です。動画は最終的に視聴者の目に多く触れる画であり、多くの職人技の集積でもあります。動画マンとしてしっかりと枚数をこなし経験を積むことで、原画マン・作画監督になったときの地力が培われるのです。
ところが近年は制作されるアニメの本数が増え、慢性化していた原画マン不足がいよいよ限界に近づきました。
そこで動画マンを原画マンに上げようとする制作サイドの動きが加速。動画マンが充分な修練を積む前にどんどん原画へ上がってしまうようになりました。つまり国内で動画を外注に出すと、経験の浅い人、もしくは原画に上がれないスキルのアニメーターが担当することになります。つまり、人材が空洞化しているのです。
国内ではアニメーターが修練の少ないまま原画に上がり、そのマズい原画を作画監督が必死に修正してどうにか観られるものにして、海外アニメーターが動画・仕上げを一手に引き受ける――極端に言ってしまえば、これがアニメ制作の現状です。
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■人材育成に注力するスタジオもあるが......
海外の動仕会社に頼ることは元来、逼迫したスケジュールを取り繕う苦肉の策でした。しかし前述した流れはもはや止められないものとして、一部では最初から海外動仕を前提にスケジュールと予算を組み、クオリティを担保しようとする作品も見られます。この傾向は今後さらに強まり"人材空洞化 → 海外動仕への依存を深める"という悪循環を生み出すことが懸念されます。
少数ながら、京都アニメーションや富山県にスタジオを置くP.A.WORKSのように、地理的条件を生かしてアニメーターにあまり仕事をかけもちさせないようにし、そのぶん仕事をしっかり供給して生活と修練を両立させるスタジオもあります。囲い込んだアニメーターの仕事を途切れさせないようにするには、高いプロデュース能力が求められます。非常に志が高く、かつクオリティも獲得できている好例と言えるでしょう。
ですが、このスタンスで「高クオリティのアニメを作ることで、流行を作り出す」可能性はあっても、「今、流行しているコンテンツのスピーディなアニメ化」に対応することは、フットワークの面で困難です。業界全体に彼らのやり方を行き渡らせるのは、さまざまな条件を鑑みても、やはり無理があります。
人気マンガや小説、ソーシャルゲームなどのアニメ化は流行が冷めないうちに世に出す必要があるため、必然的にスケジュールは逼迫します。また、当たり外れの読みにくいオリジナルアニメも、出資者や局の思惑がからんで準備に時間がかかる上、作画クオリティまで要求され、制作後期にはやはりスケジュールが圧迫されやすい傾向にあるのです。
【まとめ】
切迫するスケジュールといった問題などもあり、国内ではアニメーターが腰を据えて作品作りに取り組めないのがアニメ制作の現状。制作本数の高止まりが続くのであれば、アニメ業界において加速する"国内の人材の空洞化"への根本的な解決策は、筆者を含め、いまだ誰も見いだせていません。
■安康頂一
仮名。都内某アニメスタジオに制作進行として勤務、現場の辛酸をベロベロ舐め尽くしたのち、同業別職種に転じる。現在はギョーカイの深海底でひっそりとコンテンツの明かりをともす、その日暮らしのチョウチンアンコウ。
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