鳥山明の作品がマンガ界に及ぼした影響は計り知れない!『Dr.スランプ』から『ドラゴンボール』が誕生するまで

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2014年12月25日 03:10  おたぽる

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おたぽる

(イラスト/村田らむ)

Kindleでも読める30年前の名作プレイバック 第22回



 ここのところ、スズキの軽自動車「ハスラー」が売れているという。予約してもなかなか買えないと話題になっていた。そんなハスラーのCMに登場したのが、『Dr.スランプ』だった。則巻アラレの声優には、当時のアニメ版でもアラレに声を当てていた小山茉美が起用され、おじさんたちはみな、「懐かしいな〜」と当時を思い出したのである。



『Dr.スランプ』は1980年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)でスタートした、鳥山明のマンガだ。
 
 前回の『三つ目がとおる』の名作プレイバック(http://otapol.jp/2014/12/post-2078.html)にも書いた通り、その頃はまだ、うちの実家は「マンガ読むの禁止令」が敷かれていたので、『Dr.スランプ』も読めなかった作品のひとつだった。



 アニメ『Dr.スランプ アラレちゃん』が始まり、大人気になった頃、やっと数巻まとめて読むことができた。当時、一気に夢中になった。



『Dr.スランプ』を読んだ時に感じた衝撃は、今までのマンガ人生で最大だった。そして、今後も塗り替えられることはないだろうな〜と思っている。



 とにかく、何度も何度も読み返したので、実家にあるコミックスは手垢だらけでボロボロだ。それに加えて、30年も経過したため、経年劣化で茶色く変色している。しかし中身は全然古くなっていない。今回Kindle版を読んで、改めてそう思った。



 よく言われることだが、『Dr.スランプ』の一番の魅力はなんと言っても、"絵"である。単純に鳥山明の画力が高いだけではなく、天才的なデフォルメ能力が生きている。



 人物も自動車などの機械類もマンガ的に頭身が変化させられているのだが、そのキャラクターの肝になる部分(例えば、タイヤの溝、戦車のビス、ベルトのバックルなど)はピシッとリアルに描かれている。かわいいだけでも、かっこいいだけでもない、"かっこかわいい"のだ。



 扉絵や表紙でよく描かれる、自動車や戦車などの乗り物にキャラクターたちが乗り込みドライブしているイラストは、パッと見何気ない絵に見えるかもしれないが、キャラクターに合わせて機械もデフォルメし、かつ頭身が違うキャラクターたちを自然に搭乗させている。そう簡単に描けるものではない。



『Dr.スランプ』の扉で描かれる、さまざまなイラストは本当に素晴らしい。マンガ本編とは、画材を変えている作品も多く、絵画作品として1枚1枚見ている間に、あっという間に1日が過ぎてしまう。



 戦車、軍服、銃器......など、ミリタリー系が描かれることも多い。当時は、これに影響を受けてミリタリー系の雑誌を購入したものだ。......というか今でも、買っている。



 個人的には、鳥山明イラストは『Dr.スランプ』から『ドラゴンボール』のマジュニア編くらいまでの、丸みがあるタッチが好きだった。ドラゴンボール後半は直線的になり、バトルマンガを描く絵として特化されたように思った。



 僕は大学のデザイン学科に行っていたが、僕の周りの多くの人たちは、頭にカビの生えた大学教授の使えないデザイン論より、鳥山明のイラスト1枚から多くを学んでいた。そんな人達が日本中には、何千人何万人といたわけで、結果的に鳥山明の作品が、イラスト界、マンガ界に及ぼした影響は計り知れない。



 ......とあまりに鳥山明の絵が好きすぎて、このままだと、ず〜っと絵について書いてしまうのでこの辺でやめる。個人的にはどうしても絵に注目が行ってしまうが、もちろんそれ以外にも素晴らしい部分は多い。



『Dr.スランプ』の場合、「ペンギン村」という舞台がとても魅力的だ。



 村民性はのんきでおおらか。ド田舎で、学校も学年に1クラスしかない。でも、喫茶店もバーバーもあるし、スケベな発明家もいる。動物たちも人間と同じようにのんきに暮らしているし、怪獣やロボットや悪魔もそこら中にいる。とても魅力的な村なのだ。



 ちなみに『Dr.スランプ』ではよく名古屋弁が使われるため、『ペンギン村=名古屋』と混同されがちだった。名古屋産まれ名古屋育ちのうちの母親は、そこがどうにも気に食わなかったようで、



「名古屋はこんなに田舎じゃないわあ」



とよく文句を言っていた。



 そんな母とは逆に、僕は鳥山明が近くに住んでいるというだけで、妙に誇りを感じたものだった。



 ペンギン村に住んでいるキャラクターたちもまた、一部をのぞいて、とてものんきで善人でほのぼのしている。"Dr.スランプ"こと則巻千兵衛も、スケベキャラなのだが、根がとても善人でつい応援したくなってしまう人物だ。一般に、ギャグマンガの三枚目キャラというのはなかなか幸せになれないが、千兵衛さんが美人教師の山吹みどり先生と結婚した時はとても嬉しかった。



 そうそう、『Dr.スランプ』には鳥山明のキャラクターが頻繁に出てくるのだが、"作者"というメタなキャラクターにもかかわらず、とてもデザインチックで、ストーリーにもよく馴染んでいた。自分の担当編集をモデルにしたマシリトも、そんな内輪受けのギャグとは思えないほど人気のキャラクターだった。



『Dr.スランプ』で好きな1話を挙げろと言われたら本当に迷ってしまうのだが......あえて挙げるのならKindle版の最終巻にあたる9巻に収録されていた『駆けずりまわる青春の巻』だろうか。連載終了前の、かなり後半の回である。



 チャカボ王国の監禁を逃れ、飛行機で逃走中のナババ王国のカスマット姫が、ペンギン村に墜落してしまう。則巻家の隣に引っ越してきた中国人一家のひとり息子摘突詰(つんつくつん)はレギュラーキャラクターの木緑あかねとデート中だったが、慌ててカスマット姫を救出する。しかし、カスマット姫を追いかけてきたチャカボ王国の悪漢ビスナによって、偶然にもカスカット姫と瓜二つだった木緑あかねが間違えてさらわれてしまう。そこで、あかねを取り戻すために、東奔西走する摘突詰......という内容だ。



 全6話という、ショートギャグが基本の『Dr.スランプ』の中では異例の長さ。ギャグは薄めで、ストーリーマンガ的な展開をするお話だった。



『Dr.スランプ』の中では、脇役の摘突詰を主役にしているのが面白い。摘突詰は中国拳法の使い手であり、当たり前に強い(アラレやガッちゃんたちは強すぎる)。中国拳法の使い手が冒険する話......というと、どこかで聞いたことがあるような気がするだろう。そう、今読むと、とてもドラゴンボールを予感させる物語なのだ。



 冷酷な敵キャラ、恐ろしく強い魔神、怒って覚醒......などなど、『ドラゴンボール』でも見られる要素が詰まっているのだ。



 当時、「鳥山明はいずれアクションストーリーマンガも描くんだ!! もっと長いの読みてえ〜」と思った覚えがある。素晴らしく完成度の高い1本だと思う。



 最近の若い人の中には、『Dr.スランプ』を読んでいない人も増えているという。



『Dr.スランプ』の連載終了から30年、『Dr.スランプ』の次の作品『ドラゴンボール』が終了してからも20年経とうとしている。時代的には読まれなくなって当たり前なのだが、しかしまだまだ生きているマンガである。



 イラストやマンガを学んでいる人はもちろん、そうでない人にもぜひぜひ読んで欲しい作品なのである。



●村田らむ(むらた・らむ)
1972年、愛知県生まれ。ルポライター、イラストレーター。ホームレス、新興宗教、犯罪などをテーマに、潜入取材や体験取材によるルポルタージュを数多く発表する。近著に、『裏仕事師 儲けのからくり』(12年、三才ブックス)『ホームレス大博覧会』(13年、鹿砦社)など。近著に、マンガ家の北上諭志との共著『デビルズ・ダンディ・ドッグス』(太田出版)、『ゴミ屋敷奮闘記』(鹿砦社)。
●公式ブログ<http://ameblo.jp/rumrumrumrum/>



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