近頃話題の水素は様々な方法で作り出すことができるため、資源に乏しくそのほとんどを輸入に頼っている日本にとってエネルギーの自給は悲願であり、水素を利用する“燃料電池車”の普及は予想よりも早く進む可能性を秘めている。
昨年12月15日にトヨタ自動車が水素と空気中の酸素を反応させて発電、モーターで走行するFCVこと燃料電池車『MIRAI』を発売。
発売後1ヶ月経過した1月14時点で、既に約1,500台を受注したそうで、その内訳は官公庁や法人が約6割、個人が約4割を占めており、地域別では東京都、神奈川県、愛知県、福岡県が中心となっている。
ホンダもトヨタに続いてFCVの発売を予定しており、2015年はさながら“水素元年”となりそうだ。
乗用車以外でも燃料電池車の開発が進んでいる
ところで水素で走る燃料電池車は、何も乗用車のみに限った話ではない。
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経済産業省と北九州市が進める『北九州スマートコミュニティ創造事業』の一環で、豊田自動織機が2012年12月からトヨタ自動車と共同開発した燃料電池フォークリフトの実証実験を行っている。
3分間で水素を満充填、非常時の電源としても活用できる点はFCVと同じだ。
また、経済産業省・資源エネルギー庁が昨年6月に発表した『水素・燃料電池戦略ロードマップ』によれば、バスは勿論のこと、鉄道、船舶、航空機への応用が検討されている。
そのなかでも最も身近なのが“燃料電池バイク”だ。
FCVに続いて燃料電池バイクの実用化が迫る
ホンダは遡ること2004年8月に、高効率な小型FCスタック(燃料電池)を搭載した燃料電池バイク『FCMC』を発表。
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車体中央部に氷点下での始動が可能なFCスタックを配置し、補器類を効率的に配置することで、同クラスのエンジン車並みの車体サイズを実現している。
ホンダが今年度中に発売を予定しているFCVでは、同社従来比で33%小型化したFCスタックを市販車では世界初となるボンネット内に収めているようで、その背景には燃料電池バイクで培ったFCスタックの小型化技術を応用している可能性がある。
スズキはバイク用の燃料電池開発で英国と合弁会社を設立
一方のスズキは、2007年の東京モーターショーで約200kmの航続距離を誇る本格的な燃料電池バイク『クロスケージ』を出展。
搭載されているFCスタックは英インテリジェント・エナジー社製の空冷式で、ラジエータなどをいっさい必要としないため省スペース化に寄与している。
水素燃料タンクの上に設置されたFCスタックはコンパクト且つ軽量で、排出するのは水蒸気のみ。センサーが常時水素の漏れをチェックしており、異常時はタンクのバルブをロックする仕組み。
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スズキはその後も2009年、2011年の2度に渡り東京モーターショーで『クロスケージ 』の技術を応用した燃料電池スクーター、『バーグマン フューエルセル スクーター』を出展。
2012年には英インテリジェント・エナジー社を傘下に持つIEH社と、燃料電池システムを開発・製造する合弁会社を設立している。
同スクーターでは2輪車で初となる700気圧の高圧水素タンクを採用、強固なフレーム内に高圧水素タンクを収めることで安全性を高めている。
このようにホンダやスズキは燃料電池バイクの実用化に向けた準備を着々と進めているのだ。
2015年以降、水素ステーション拡充が急速に進む
水素供給ステーションについても、トヨタがFCVを発売したことで4大都市を中心に政府の後押しのもと、水素供給ステーションの開業が相次いでおり、2015年度内には全国4大都市を中心に100ヶ所程度まで増大する予定。
つまり、4輪車で先行するインフラ整備によって燃料電池バイクにとっての環境が整うという訳だ。
気になる水素の価格については前述の経済産業省『水素・燃料電池戦略ロードマップ』において「2015年時点でガソリン車の燃料代と同等以下、2020年にはHVの燃料代と同等以下の実現を目指す」としている。
ガス大手の岩谷産業はこれを受けて、昨年11月14日に政府の2020年価格目標を先取り、液化水素を原料とした市販用の水素価格を“1,100円/kg”に決定した。
また、同年12月25日にはJX日鉱日石エネルギーが神奈川県海老名市に水素ステーション「Dr.Drive海老名中央店」を開設、一般向けに水素の販売を開始している。同社が発表した水素の販売価格は「1,000円/kg」だ。
ちなみに、リチウムイオン電池を搭載した既存の電動バイクの普及が進まないのは、同クラスのガソリン車比で約2倍の車両価格(30〜40万円)に対して遥かに短い航続距離(30〜40km)、そして充電時間の長さ(4〜6時間)に尽きる。
しかし、ガソリン車と同等の航続距離やクイックチャージが自慢の燃料電池バイクの場合は話が別。
FCV同様に災害時には非常用電源としても利用可能な次世代の燃料電池バイクは、もはや発売されてもおかしくないところまで来ているのだ。
残された課題は、如何にして販売価格を手が届く水準まで引き下げることができるかにかかっている。