派遣社員の48%が「マタハラ」経験 「ハラスメントは立場の弱い者に向けられる」

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2015年11月30日 11:21  弁護士ドットコム

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妊娠・出産を理由とした職場での嫌がらせ「マタニティ・ハラスメント」(マタハラ)について、厚生労働省が初めての実態調査を行った。調査の結果、妊娠・出産した派遣社員の48%が被害を経験したことがあると答えた。調査は2015年9月から10月にかけて、25歳から44歳の女性を対象におこなわれた。


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マタハラ被害の内容については、「迷惑」や「辞めたら」など言葉による嫌がらせが最も多く、マタハラにあった女性の47%が被害内容としてあげた。解雇されたケースは20%、退職や非正規雇用への転換を強要されたケースは15%だった。



また、被害にあったのは派遣社員が48%と最も多く、正社員は21%、契約社員は13%、パートは5%だった。マタハラの加害者は、直属の男性上司が最も多く19%で、直属の女性上司という回答も11%あった。



今回の調査結果を、弁護士はどうみるのだろうか。NPO法人「マタハラNet」を立上げから支援するなど、マタハラ問題に取り組む圷由美子弁護士に聞いた。



●「派遣社員をめぐる本質的な問題が顕在化」


今回の調査では、働きながら妊娠・出産・育児をしたことがある派遣社員の約半数、正社員の2割以上がマタハラ被害にあったと答えている。



「派遣社員の48%がマタハラ被害を経験しているという数値は、見逃せないデータです。派遣社員をめぐる本質的な問題を顕在化させたものといえます。



ハラスメントは立場の弱い者に向けられます。派遣社員がターゲットとなるのは、マタハラに限らず、セクハラ・パワハラにもみられる傾向です。



この数値を受け、厚労省は、派遣社員への不利益取扱い・ハラスメントについて、より一層実効的な対策を講ずる責任が生じたといえます」



調査結果を受けて、厚労省の審議会では、マタハラ防止対策の義務付けに向けて、法改正の議論が進められるという。どのような法改正が必要なのか。



「最低限必要な法改正は3点です。1点目は、事業主による不利益取り扱いのみならず、上司・同僚らによる言動も、法律で『マタハラ』として定義づけ、その例を具体的に示すことです。



2点目は、マタハラ防止のために事業主がやらねばならない内容を、具体的に列挙して定めるべきだということです。セクハラについては、法改正により、9つの措置義務が定められましたが、相談件数は増える一方です。このことからすれば、マタハラについては、セクハラと同レベルでは足りず、より実効的な措置義務の定めが必要でしょう。



3点目は、罰則規定をつくることです。こちらもセクハラと同レベルでは不十分で、マタハラをしたことそのものへの罰則も設けるべきといえましょう」



●「1人抜けても致命傷」の中小企業がすべきマタハラ対策は?


ネット上では「大企業ならともかく、零細・中小企業だと1人の社員が抜けるだけで致命傷になる」といった意見が見られる。こうした会社では、マタハラ防止のために、どういう対策をすべきなのか。



「1人抜けても致命傷という現状は、そのとおりなのでしょう。しかし、それは、その妊産婦が職場で一定の役割を担う『一員』であった裏返しともいえます。



サービス残業、有休も取れない、なのに、なぜ妊婦ばかり産休や育休を取れるのか・・・。そんな、本来は事業主に向けられるべき、労働条件に関する各人の不満が、事業主ではなく、妊産婦にぶつけられるものが、マタハラです。しかし、その不満は、マタハラでぶつけても、解消されることはありません。



したがって、第一に、労使双方が、不満の元である長時間労働など、各人の働き方にまず向き合うべきでしょう。次に、事業主としては、1人抜けた分を補充する、プラスアルファの対応を余儀なくされた者にはプラス評価をする、など、しわ寄せによる不公平感を取り除く措置が欠かせません」



社員が1人抜けるような事態は、妊娠・出産に限らず、介護や自身のケガ・病気などの場合にも起こりうる。



「視点を変えれば、『お互いさま』ということです。むしろ妊娠の場合、経過が順調なら産休は数カ月先となるわけで、他の突発的事態と比べ、ある程度計画的な対応ができます。



昨年10月、最高裁は、『妊娠を契機とする不利益取扱いは原則違法・無効』と断じ、今年1月には厚労省通達も出されました。法が『働く妊産婦の権利保護』というスタンスを取り、国も『マタハラ撲滅』を重点方針に掲げ、是正指導や勧告に従わない企業に対しては、企業名を公表するなど厳しく指導する方針です。



企業は、その規模を問わず、マタハラ防止に対応せざるを得ない待ったなしの状況にあります。これを機に、経営戦略として『1人抜けても大丈夫』な体制を築くべきです。



私は『良い企業の見極めポイント』の筆頭に『有休消化率の高さ』を挙げています。労働力不足の時代、人材獲得競争に勝ち抜くには、むしろ、それを企業の売りとすべきでしょう」



●「働きながら妊娠・出産する人の営みは、どんな雇用形態でも尊重されるべき」


今回の調査では、正社員より派遣社員のほうが、より多く、マタハラ被害を受けているという結果が出た。ネット上では「非正規なんだし、産休取ってまで会社にしがみつく必要あるの?」「派遣なんだから(辞めろと言われても)仕方ない」などの意見が出ている。



「マタハラの認知度が93%(今年8月連合調査)となった今でも、そうした認識をしている人がいることは、大変残念です。



非正規や派遣社員について、そのような意見が挙がる背景は、2つあると思います。



1つめは、非正規・派遣社員でも妊産婦として、法律上、産休や育休を取る権利が認められているのに、それが周知されていないという点。



2つめは、非正規・派遣社員に対する『身分差別』の意識です。



働く者は、全て等しく、人格を持った生活者です。働きながら妊娠し、出産するという人の営みは、どんな雇用形態であっても尊重されなければなりません」



(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
圷 由美子(あくつ・ゆみこ)弁護士
2000年登録。都労働相談情報センター専門相談員、「かえせ☆生活時間プロジェクト」発起人、担当に日本マクドナルド店長(名ばかり管理職)事件など。小酒部さやか氏らマタハラ当事者を引合せ「マタハラNet」を立上げから支援。講演、執筆(「妊すぐ」2015年夏号「上司の妊すぐ」など)、研修用DVD(マタハラにつき(株)アスパクリエイト、(株)自己啓発協会)監修など通じ、真の「働き方改革」を目指す。小4、2歳の母。
事務所名:旬報法律事務所
事務所URL:http://junpo.org/


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