『けものフレンズ』や『おそ松さん』はどんな環境で生まれた? テレ東アニメ局部長に聞く(後編) - 熱い思いを信じることがヒット作に繋がる

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2017年06月22日 07:23  マイナビニュース

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●ファンと一緒に作品を育てること、社会現象になる作品の要件
テレビ東京のアニメに関する物事を統括し、ビジネスとして取り組むアニメ局・アニメ事業部。その部長・廣部琢之氏への取材の前編では、大ヒットした深夜帯の作品『けものフレンズ』をキーポイントとして、テレビ東京のアニメがどのように生まれ、育てられるのかをみてきた。そこで廣部氏がまっすぐに語っていたのは、「テレビ東京で放送するアニメ作品はできる限り長く取り組んでいきたい」という思いだ。その言葉通り、ゴールデンタイム帯に放送されている『ポケットモンスター』シリーズをはじめ、長期的に放送されている作品は数多い。

その一方で、廣部氏は「アニメは放送するだけではないんです」「むしろ放送が終わった後の方がめちゃくちゃ長い」とも語る。確かに、放送という観点から少し外れて見ると、テレビ東京は2014年から千葉・幕張メッセで毎年、同局のアニメ作品で楽曲を担当した声優やアーティストが集まる音楽イベント・アニメJAMを開催しているし、2017年4月からは独自の配信サービス・あにてれを始動させるなど、その取り組みは実に多岐にわたっている。それらの中心部分に位置する思いは何なのか。後編では、『けものフレンズ』だけでなく様々な角度から、アニメ局の仕事を伺うことで見えてきた"テレビ東京らしさ"についても紹介したい。

○できるだけ長期間取り組んで作品の魅力を伝えたい

――先程までは主に、深夜帯の『けものフレンズ』のお話をメインにお聞きしてきましたが、テレビ東京さんのアニメ作品は全体を通して見てみると、夕方帯はじめ息の長い作品が多いですよね。

そうですね。例えば『ポケットモンスター』は2017年で20周年ですし、『遊☆戯☆王』や――『BORUTO-ボルト-』に世代交代しましたが――『NARUTO-ナルト-』も長いです。他局さんは1、2クールものといったように、ある程度、最初から期限を設けて放送する作品が多々あるじゃないですか。テレビ東京でも深夜で放送しているものは、最初は1、2クールですが、ちょっと間をあけて2期、3期……とやっていける作品であれば良いと思っています。

――『ゆるゆり』シリーズなどそれに当てはまりますね。

そうです。それに現在放送している作品でも『銀魂』(4期)、『夏目友人帳』(6期)、『弱虫ペダル』(3期)。休む期間があったとしても、もう何年にも渡ってやってきている作品が多々あるんです。ファンの人たちと一緒に長く愛されるような作品を育てていくことは、テレビ東京らしさの一つかも知れないですね。加えて、ウチで放送する以上、できるだけ長い間取り組んで作品を浸透させて魅力を伝えていこう、さらにそこから派生するアニメのプロジェクト自体が盛り上がるようにしていこう、ということで期限を設けずに腹を据えてやっている作品も沢山ありますね。

○幅広い層が楽しめる作品でないと社会現象にならない

――作品数という観点では、児童がターゲットと思われる土日朝のアニメが多い印象を持っていまして。派生プロジェクトも盛り上げたいというお話がありましたが、2016年に公開された『プリティーリズム』シリーズのスピンオフ劇場アニメ『KING OF PRISM by PrettyRhythm』は大人の女性ファンも多かったように思います。

実は一見子供向けの作品でも、子供だけにしか分からないものは、むしろ子供に刺さらないんですよ。今の子供たちはすごく多感だし、色々な経験で常に様々な物に触れていますから。それに子供の方が作品への理解力だったり受け取り方だったりが多様なので、子供が観られる作品は中学生、大学生、親御さんが観ても楽しめるような作品になっていると思うんですよね。

――例えば『妖怪ウォッチ』などはよく親御さんもついつい観入ってしまうと言われますね。

きっと大人が楽しいものは子供も楽しいし、子供が楽しいものは大人も楽しい。たまたま入り口が子供向けにスタートした、深夜で大人向けにスタートした、というだけで話題になる作品は、普段アニメを観ない層も含めて老若男女に広まっていくと思うんですよね。だから『妖怪ウォッチ』も子供向けだと思われても、大人が観ても十分楽しめる。あるいは、『おそ松さん』なんかは深夜に放送していましたけど、今や小学生にも人気です。そういったように、幅広い層が楽しめる作品じゃないと社会現象にならないんです。むしろ大人たちが解釈しているのとはまた違う見方で子供たちが楽しんでいるとか、子供たちとは違う目線で大人たちが楽しめるだとかもあります。ウチで言えば『アイカツ!』や『プリティーリズム』という女の子アイドルを描いた作品は、女児たちはそのキャラクターに憧れて楽しむけれど、アイドルを応援するように楽しんでいるとか声優にひかれて作品を追いかける人もいて……本当にアニメって見方も入り口も多様化しているので。社会現象のレベルにまで広がる作品は、そこも拡大していくというか。

――核に面白いものがあれば、ということですね。

そうです! なので、やはり作品を選ぶ時はまず純粋に作品として楽しいか、面白いかを重視しています。また、その楽しい面白い作品というのは、万人が観て楽しいか面白いかだけでなく――今アニメ局は60人以上在籍しているんですけど――1人2人であっても「これ面白いからやりたいです!」とか「絶対ヒットさせます!」と熱い気持ちを向けている作品ですね。そういったものには絶対に魅力的なところがあるので、尊重してあげたいと思っています。

●大ヒット作が生まれる気風、アニメの可能性を深めるための取り組み

○『けものフレンズ』や『おそ松さん』が生まれる気風

――そういった経緯で選ばれた作品はどんなものがありますか?

むしろそういうものの方が多いのかも知れないですね。やっぱりウチの担当者が熱い思いで持ってくるものは信じたいと思っているし……日本の人口だって1億人以上いるじゃないですか、その中の1%の人にでも面白いと思ってもらえたら、かなりの人数に楽しんでもらえるわけですよね。だから全員が「これ当たりますよ」と言ってなくても、1人2人でも「可能性があるんです」と言うものは尊重してあげたいと思いますし、そういった中で『おそ松さん』や『けものフレンズ』みたいな作品が生まれたと思っています。番組の成立の経緯ってすごく色々あるので……「漫画が面白いから映像化してみましょう」とか「この監督、このスタッフなら面白いもの作れそうですよ」というアプローチの仕方もありますし、「ゲームが面白いからアニメにしてみたい」とか色々な入り口があると思うんですけど、「面白い」「楽しい」「挑戦してみたい」という気持ちはかなり大切にしていまして、それがテレビ東京らしさだと思います。それで、「テレビ東京だからあの企画が当たったんだ」と世の中の人に思ってもらえているとしたら嬉しいですね。

○アニメの広がりは無限大

――なるほど。それでは少し観点が変わりますが、新たな挑戦という点では、あにてれが4月から新スタートしましたね。

テレビ東京は系列局が6局なんですよね。その6局ネットで放送している作品もあれば、東名阪あるいは東京でしか放送してない作品もあります。そんな中、テレビ東京でやっている作品を早く観たいというお客さんが多かったので、その声に応えられる環境を作っていきたいという思いがありました。あとは、放送だけでなくマーチャン(ダイジング)であったりイベントだったり、いろいろなビジネスを考えた時にやっぱり国内で観たい人が観たい時に観られる環境をどうやって作っていくかを考えることが大事でした。そして、製作委員会の皆さんや商品を出しているライセンシーの皆さんにどうやって貢献できるか、ファンの人たちの声にどう応えていくかを考えるという高い志の元に始めました。今は配信サイトが沢山ありますけれども、テレビ東京のアニメチームだからやれるような楽しみ方を模索し、提案していきたい。だから作品を配信して終わりではなく、何か他の要素もどんどん付け加えていきたいなと思っているので、期待していただければと思います。

――イベントと言えば、近年はアニメJAMも開催していらっしゃいます。

アニメって放送や配信を観て終わりではなくて、イベントに行ってみたい、音楽を聴いてみたい、グッズが欲しい、ゲームをやってみたい、皆と共有したい、皆と語り合いたいといった様に広がり方は無限大なので。その無限の広がりにどうやって応えていくかという形の一つですね。アニメってすごく難しいんですけど、楽しいんです。僕、いつも言っているんですけど、テレビの前にいて1人で作品を観ていたとしても、何かSNSに書き込むことで作品や空間を共有できるという、すごい繋がりを持てるジャンルなんです。また、それが国内だけでなく海外、さらに性別だったり世代だったりを超えて皆で共有できる可能性があると思っています。それをどんどん深めていきたいし、その中でテレビ東京として何かできることはないかということを常に考えていきたい。やっぱり「ファンのため、アニメに関わる業界の皆のために何ができるのか」ということがアニメ局の目的と課題で、テーマにもなっています。

○長く作品を育てながら常に新しいことに挑戦していたい

――そんな思いでアニメ局という部署が設けられるほどにアニメにかける期待が強いテレビ局ということですね。

アニメは放送する側も放送や配信をして終わりではなくて、その後の様々な展開を含め作品をどう育てていくか考えることが重要になってきます。むしろ放送が終わった後の方がめちゃくちゃ長い。放送が1、2クールだったりとしても、その作品は永遠に生きていくじゃないですか。その間ずっと関わっていくし、「とことんやっていこうよ」という思いで始めている作品なんかは10年、20年続いていくような大きな取り組みなので。テレビ東京の作品でもそうだし、他局さんの作品もそうですけど、自分たちが子供の頃に観ていた作品がまだ続いている、あるいは色々な展開をしているというのって様々あるじゃないですか。だから僕たちも10年前に放送が終わった作品のことでも動いているし、さまざまな作品に色々な関わり方で仕事をしています。本当に仕事の可能性も大きく期間も長いんです。僕たちは世代や時を超えて楽しめる作品になってほしいと思っているし、子供の時に楽しんでもらった作品が、自分が親になった時、子供と一緒に楽しめる作品になってほしい、そういった作品を作りたいという思いがすごくありますね。

――なるほど。

それと、あとはやっぱり挑戦していくということで、例えばこの4月に『スナックワールド』のようなフル3DCGアニメをゴールデンタイムで放送してみたりだとか、世代を超えた作品をやってみたいということで『NARUTO-ナルト-』の子供世代の『BORUTO-ボルト-』は原作漫画が始まって間もない中でアニメをスタートしてみたりしています。あるいは、『アイドル×戦士 ミラクルちゅーんず!』という作品はアニメ枠ですが、女児向けの実写です。そういったように長く続いている作品もありつつ、新しいことにも挑戦して、その中でテレビ東京らしさが出てくれば良いと考えています。『ポケットモンスター』のように20周年になるものもあれば、新しいトライをするものもあれば、漫画原作の実写映画というのもあれば、2.5次元の舞台や音楽イベントも含めて放送だけじゃなく、作品の楽しさをファンの人たちにどうやって提供、提案していくか、そして一緒になって楽しめるかということをすごく考えてやっています。ただ、作品を楽しんでもらえるか、魅力的だと思ってもらえるかがスタート地点であることに変わりはないですね。

■プロフィール
廣部琢之
テレビ東京アニメ局アニメ事業部部長。
1993年、テレビ東京に入社。営業局、映像事業部などを経て、2005年にアニメ事業部へ。担当した作品は『NARUTO-ナルト-』、『テニスの王子様』、『おそ松さん』、『しろくまカフェ』などTVアニメ、映画、舞台、イベントなど多岐にわたる。2016年より現職。

(C)Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku
(C)Pokémon
(C)T-ARTS / syn Sophia / テレビ東京/ IPP製作委員会
(C)LEVEL-5/妖怪ウォッチプロジェクト・テレビ東京
(C)赤塚不二夫/おそ松さん製作委員会
(C)けものフレンズプロジェクトA(青野恵介)

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