解読『ジョジョの奇妙な冒険』Vol.2 スタンドという“発明”ーー他に類を見ない表現と概念を考察

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2024年01月11日 10:11  リアルサウンド

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pixabayより(イメージ)

 漫画家・荒木飛呂彦最大の「発明」といえば、それはもちろん、「スタンド」という革新的な超能力表現ということになるだろう。そこで今回は、このスタンドについてあらためて考えてみたいと思う。


(参考:解読『ジョジョの奇妙な冒険』Vol.1「“ジョジョ”という名の時代を越えたヒーローたちの誕生」


■スタンドとは何か


 まずは、そもそもスタンドとは何か。それは、簡単にいえば、人間が引き出す精神的なエネルギーの具現化であり、シリーズ初期(第3 部)では、「幽波紋」の漢字が当てられている。


 その多くは人型のヴィジョンを持って現われ、「スタンド」の名のとおり、能力者の背後に寄り添うように“立ち”、なんらかのスーパーナチュラル(超自然的)な行いをする。また、「遠距離操作型」と呼ばれるタイプのスタンドも存在し、それらは能力者から離れて自由に動くことができる。


 なお、スタンド能力が発現した者のことは「スタンド使い」と呼ばれるのだが、むろん、誰でもなれるというわけではない。スタンド使いになれるのは、大きく分けて以下の4パターンのいずれかの条件を満たしている場合に限られる(もちろん例外もある)。


1:生まれつきスタンド能力を持っている。
2:スタンド使いの血族として生まれた。
3:特別な「矢」に射抜かれたことがある。
4:特別な「場所」を訪れたことがある。


 また、以下のようなルールも存在する(こちらにも例外はある)。


1:スタンドはスタンド使いにしか見えない。
2:基本的には1人につき1能力。
3:スタンドが傷つけば、本体(スタンド使い)も同じように傷つく。
4:スタンドが消滅すれば、本体も死ぬ。また、本体が死ねば、スタンドも消える。


■他に類を見ない表現と概念


 さて、以上が大まかなスタンドの説明であるが、さまざまな形で漫画表現が進化したいまの感覚であらためて考えてみても、このスタンドという超能力表現は、あまりにも斬新なものだったように思う。たぶん、超能力(ないし精神のエネルギー)を、あのような形(見たことのない方はぜひ一度ご覧いただきたい)で可視化したのは荒木飛呂彦が初めてではなかったか。


 誤解を恐れずにいわせていただければ、荒木は、80年代初頭に大友克洋が『童夢』や『AKIRA』などで極めた漫画の超能力表現に、別の形での(それもとびきりトリッキーな)可能性があるということを提示したといっていい(さらにいえば、そのトリッキーなヴィジュアル表現に、緊張感のある頭脳戦・心理戦の要素を組み込むことで、唯一無二のバトル表現を生み出したともいえよう)。


 むろん、それまでにも、ホラー漫画などで、“守護霊が出現する”描写を似たようなヴィジュアルで表現した作品はあったかもしれない。しかし、守護霊が憑依している人間とは別の自立した存在であるのに対し、スタンドはスタンド使いのエネルギーが具現化した意識のないヴィジョンなのである。(例外的に自我を持ったスタンドも存在するが)この違いは大きいと私は思う。


 また、「かまいたち」や「ぬりかべ」など、一部の妖怪は、日常生活の中で時おり起こる不思議な現象に形を与えたものであり、スタンドの概念と近いといえば、近い。だが、妖怪の姿はあくまでも人間の想像力が生み出した実在しないものであり、スタンドは、スタンド使い同士にとっては、目に見える、つまり、実在するものなのだ。


■「波紋」が描かれなくなった理由とは


 ちなみにこのスタンド、いまでは『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの代名詞のようになっているが、実は第1部と第2部では登場しない。


 では、第1部と第2部の主人公たちはどのようにして敵と戦ったのかといえば、それは、「波紋」と呼ばれる技を使ってであった。


 波紋とは、東洋の仙道に伝わる特別な呼吸を使い、太陽の光と同じ波動を持つエネルギーを生み出す技のことである。そう、一見、似たもの(エネルギーの可視化)のように思えるかもしれないが、波紋とは「技術」のことであり、「スタンド」とは「力」のことなのだ。


 ちなみに、波紋は、後続の作品――たとえば、近年最大のヒット作でいえば、『鬼滅の刃』の「呼吸」などに多大な影響を与えていると思われるが、実は荒木の「発明」というわけではない。というのは、もともとこの種のスーパーナチュラルな要素の強いバトル漫画では、人間の潜在能力を引き出すために、体内の“氣”の流れを調整したり、特別な呼吸法を用いたりするという設定が少なからず存在するからだ(先行作でいえば、『北斗の拳』の「転龍呼吸法」などがよく知られているところだろう)。


 だからたぶん、独自の表現にこだわる荒木は、(言葉は悪いが)手垢にまみれた表現である呼吸を使った戦術ではなく、スタンドという自らの「発明」ともいえる新しい超能力表現へとしだいにシフトしていったのではあるまいか(『荒木飛呂彦の漫画術』によると、担当編集者から「もう波紋は飽きた」といわれたのがきっかけで、スタンドの設定を考えたらしいが……)。


 いずれにせよ、波紋と類似した技は、(前述の『鬼滅の刃』のように)他の漫画家が描いても特に問題はない。しかし、スタンドと似たような超能力表現は、荒木以外の漫画家が描いた日には、間違いなくパクリといわれるだろう。


 この先、『ジョジョの奇妙な冒険』が第何部まで続くのかは定かではないが、たとえ主人公や時代が変わっても、スタンドさえ出てくれば、それは『ジョジョの奇妙な冒険』なのである。これはやはり、凄い「発明」だという他ない。


[付記]『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの主要人物でただ1人、ジョセフ・ジョースター(第2部の主人公)は、スタンドと波紋を併用できる稀有な存在である(第3部の終盤、宿敵DIOを相手に、自らのスタンドに波紋のエネルギーを流し込むという奇策を見せた)。また、ジャイロ・ツェペリ(第7部の主人公の1人)は、基本的には「鉄球の回転」を応用した技を使うのだが、一時的にスタンドを使えるようにもなった。


(島田一志)


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