【韓国とんかつ】衣ザクザク、肉が薄くてソースどっぷり。韓国風のとんかつ:パリッコ『今週のハマりメシ』第139回

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2024年06月21日 11:50  週プレNEWS

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曙橋にある「ソジュハンザン029」のトンカツ

ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

【写真】韓国料理店では定番のサービス小皿「パンチャン」

* * *

ありがたいことにこのご時世において、僕の新しい本をまた出してもらうことができるらしい。タイトルは『缶チューハイとベビーカー』。

ひとり娘がベビーカーに乗っていた時代から保育園を卒園するまでの約2年間、子育てをしつつも、その隙間を縫ってどう酒を飲むかを綴ったエッセイ集だ。というコンセプトを聞くとどうしようもなさそうだけど、子育ての経験がある人はもちろん、お酒が好きな人にも、それ以外の人にも、もしかしたらどこかしら響くところがある内容になっている気がしないでもないので、ご興味がある方はチェックしてみてほしい。というか、なんなら土下座でもなんでもするから、ぜひご興味持ってください。

で、その本を出してくれる出版元である太田出版へ先日、サイン本を作らせてもらいに行ってきた。これは主に、僕の本を多少なりとも応援してくれる本屋さんに出荷されるもので、人によっては落書きともとれる僕のサインが入ってしまっているので、一度発注してしまったら最後、返品ができないシロモノとなる。つくづく、ありがたいことだ。

午前中から作業を始めて約2時間半で、無事200冊のサイン本を作り終えた。ひたすら同じ作業のくり返しでさすがに手が疲れたし、頭もぼーっとしてきた。時刻は午後2時すぎ。当然、ちょっと遅いランチ&おつかれ飲みタイムに突入するしかないだろう。

太田出版を出て、最寄駅である曙橋付近を歩きだす。この日はあいにくの大雨だったが、そんなの関係ない。今の気分にしっくりきそうなメシと酒にありつけそうな店に、自分の力でたどり着きたい。今、考えられることはそれだけだ。


すると、駅付近に「あけぼのばし通り」というゲートを見つけた。昔ながらの商店街的雰囲気が僕好み。よし、ここを探索してみよう。すると、全長で徒歩5分くらいの道のりだが、個人経営のラーメン屋さんや夜に来てみたい居酒屋など、魅力的な飲食店がちらほらと見つかる。その突き当たりほどに、1軒の韓国料理屋があった。


「ソジュハンザン029」という店で、「本格韓国式焼肉専門店」とあるが、その他のメニューも豊富そうだし、ランチタイムが夕方4時までというのもありがたい。


また、税込みで858円、1078円、1188円の3段階に分かれたランチメニューが興味深い。インスタントベースのラーメンや、ビビンバ、純豆腐チゲ、プルコギなどのおなじみ韓国料理はもちろん、最近初めて専門店で食べて好物のひとつになったスープ料理で、日本ではまだそこまでメジャーではないであろう「へジャンク」まである。

ただ、そのなかでひときわ異彩を放っているのは、どう考えても「とんかつ」だろう。


こいつだけシンプルに、とんかつ。韓国料理がずらりと並ぶなかで、昔から慣れ親しんだ友達的な存在感。気にならざるをえない。とはいえ、そのメニュー写真は、もしもそれ僕らの知っているとんかつと同じものだとしたら、あきらかにかけすぎだろうってくらいに、ビシャーっとなんらかのソースに浸っている。他の王道韓国料理も食べたいけれど、もはや真相を確かめないわけにはいかないだろう。

というわけで、入店し即、ランチの「とんかつ」(1188円)を注文。さらに、韓国焼酎やマッコリもいいけれど、とりあえずビール! ということで「Asahi 瓶ビール」(748円)を頼む。

ビールよりも早く、韓国料理店では定番のサービス小皿「パンチャン」たちが到着。内容は、カクテキ、甘辛く煮られた細切りのごぼう、とろりと火の通ったねぎとちくわのあえもの。さらに、グラスからひと口飲んで濃厚なコンソメ味のように感じたのは、コムタン的なスープだろうか。それぞれに味わい深いこれらの布陣がビールを迎えてくれるから、スタートからつまみ不足にならないのは、韓国料理の偉大さと言えるだろう。


到着した瓶ビールをトクトクトクとグラスに注ぎ、いざおつかれさまビールといこう。大好物のカクテキをポリリとかじり、ビールをぐびっ......っふぅ?、ひたすらうまい。


しばらくそんな喜びに浸っていると、「とんかつ」のランチセットも到着。


おぉ〜! まずもって、巨大な皿にどーんとのったかつのインパクトがすごい。ほぼ本体は見えず、赤茶色いソースが全体をどっぷりと覆っている。それにサラダ、白メシに加え、さっきのとはまた別に玉子スープがついてくるのがちょっとおもしろい。

肝心のかつだが、僕の慣れ親しんだとんかつと比べてずいぶん薄い。試しに数枚のかつを縦にして断面を見てみると、衣、肉、衣、それぞれが同じくらいの厚みだ。ビアホールや酒場のつまみとして昔からある「紙カツ」というメニューに近いイメージだろうか。ただ、それが縦に2列、ずらーっと大皿に並んでいて、ボリューム的にはかなりすごいと。


ザクッザクッという食感が心地いい衣が駄菓子的ジャンクな香ばしさで、もはや主役級の存在感を発揮している。そこに、薄くのばされたとはいえ、きっちりと豚肉の旨味も加わる。はっきり言って、嫌いなわけがない料理だ。

さらに特筆すべきはソースで、デミグラスソースにケチャップを加えて甘くしたような、どこかわんぱくな味わい。和風とんかつソースと言われれば違和感があるけれど、じゃあ老舗のとんかつ屋でオリジナルに調合しているソースなんだよ言われたら、「あそこは独特のソースがうまいんだよな!」と絶賛してしまわない自信はない。

当然白メシとの交互食べも合うが、究極は米をとんかつの皿にのせてしまい、カレーのようにスプーンで食べる方式だろうか。とんかつとごはんとソース、すべてを余さず味わえるし、いわゆるとんかつ定食とは別ものの食体験として楽しい。


肉が薄めで、ライスも超大盛りというわけではなかったから、余裕で食べられるだろうと思っていたが、食べ終えるころには満腹をだいぶ超える状態となった。よく考えたら、あんなにでっかいかつに加え、サイドメニューもたらふく食べてるんだから当たり前か。とにかく、ふだんなかなか食べられない美味をお腹いっぱい食べられたという満足感が幸せな一食だった。

家に帰ってから調べてみたところ、韓国でとんかつは、日本の呼び名そのままで通じるほど定番のメニュー(正確には、韓国語には「ツ」という発音がないため「トンカス」)らしく、その特徴はまさに、肉が薄く、デミグラス系のソースたたっぷりかかっていることなんだそう。ということは、日本で独自の進化を遂げたカレーライスやラーメンの、韓国版と言える料理というわけか。

韓国に限らず、各国独自の名物や有名な料理は多い。けれども日本の町中華のように、全世界において、各地から伝わって独自進化を遂げ、庶民の間で定着した料理があるとするならば、できるだけ味わってみたいものだ。

ソジュハンザン029、数人で行ってあれこれ頼んでみるのも楽しそうな店だった。

取材・文・撮影/パリッコ

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