熱い戦いが続いた甲子園も本日が決勝。この原稿を書いてる時点では賜杯の行方はわかりませんが、関東第一と京都国際、どちらの高校の選手たちにも素晴らしい戦いを期待したいです。
高校野球が素晴らしいのは、日本全土を巻き込んだ大イベントであること。
私の母親は島根県出身なのですが、島根代表の大社が早稲田実業にタイブレークで勝利した試合が放送されている時間、松江空港にいたそうです。すると空港のテレビがある一角に、地元の大社を応援する人たちの人だかりが。試合はタイブレークの末に大社のサヨナラ勝ちとなり、空港の中はまるでお祭りのような盛り上がりを見せていたようです。
その試合で印象に残ったのが、2−2で迎えた延長11回裏の大社の攻撃で、初出場・初打席でありながらしっかりとバントを決めた安松大希選手です。三塁線ギリギリに転がしたバントはまさに職人技で、ランナーを送るだけじゃなく自らもセーフに。次の馬庭優太選手のサヨナラヒットを呼び込みました。求められた場面できっちりと結果を残す。これほど頼もしい選手はいません。
プロ野球でも「職人」と呼ばれる選手がいます。「バント職人」と呼ばれた川相昌弘さん(元巨人、中日)は 通算533本の犠打世界記録を残しています。また、「守備職人」と呼ばれた元ヤクルトの宮本慎也さんの華麗な守備は、野球の教科書に載せてほしいくらい(笑)。
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職人たちは常に献身的なプレーを見せてくれます。ランナーを進める送りバントは「犠打」と言われますが、決して自分を犠牲にしているわけではありません。なぜなら犠打は、野球選手としての立派な自己表現だからです。
プロでも、みんなが村上宗隆選手のようなスラッガーではないですし、各選手は与えられた仕事、自分ができる仕事をまっとうすることに生き残りをかけています。大事なのは自分をアピールする最大の手段であり、犠打も決して自分を犠牲にしているわけではないのです。
それゆえ、職人たちはきたるべき「好機」に向けて着々と準備と練習を続けています。守備にしろ犠打にしろ、「守って当たり前」「決めて当たり前」と思われていますから、失敗したらファンからため息が出ることも。そんな緊張した状態で成功させ続けるには、よほどの努力と精神力が必要ですよね。
職人と呼ばれるまでには、長い時間がかかります。ホームラン王と同じように、誰でもなれるものではないのです。最近、私が注目している職人はヤクルトの宮本丈選手です。
奈良学園大学からドラフト6位で入団し、プロ7年目を迎える内野手。スタメンで出ることもありますが、試合終盤に登場することも多く、代打をはじめ多くの役割を求められ、それにきっちりと応えてきました。
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先日にインタビューをした際には、自分がチームで求められていることをしっかりと意識していて、その期待に応えようとする真面目な姿勢が強く印象に残りました。周囲の選手たちも、宮本選手の印象を聞くと「練習の虫」と口を揃えます。
宮本選手は、試合前の練習では特にバッティング練習にこだわり、試合に登板する可能性がある相手投手のさまざまな投げ方を打撃投手に真似てもらい、シーンを想定したバッティングやバントの練習を行なうそうです。
高校野球ではベンチで大きな声を出す子もいて、それもひとつの表現ですね。人生も野球も、自分が必要とされる方法を模索することが大切。職人と呼ばれる選手の背中からも、学ぶことが多いと思うのです。
それではまた来週。
構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作
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