● 250ccのバイクは初心者に最適なクラスですが、1980年代は2ストに匹敵するパワーを備えた4ストのマシンが次々に登場しました。その火ぶたを切ったヤマハ発動機のバイクをご存じですか?
ヒント:「P」で始まるペットネームを持っています
オートバイの名称は「アルファベット」と「排気量」を示す数字の組み合わせが大半ですが、このモデルは「P」から始まるペットネームも持っていました。ちなみに「F」じゃありませんよ?
――正解は次のページで!● ○問題をおさらい!
正解はこちら!
○【答え】ヤマハ「FZ250 PHAZER(フェーザー)」
正解はヤマハの「FZ250 PHAZER(フェーザー)」でした!
「FZ250 PHAZER」(以降、FZ250)が登場した1985年は中型バイクブームの真っただ中。前例のない16,000回転以上のエキサイティングなジェットサウンドとクラス上限値いっぱいの45馬力を特徴とするFZ250は、フェアリングとタンクカバーを一体化した空力に優れた未来的なカウリングをまとって颯爽とデビューしました。
FZ250が誕生したきっかけは1980年代の初めにまでさかのぼります。当時のヤマハはブームの火付け役だった2ストの「RZ250」を「RZ250R/RR」に進化させていたものの、その対抗馬としてホンダがリリースした4ストVツインの「VT250F」が大ヒットします。このクラスは入門向けでもあるため、クリーンで扱いやすい4ストを求めるユーザーも多かったわけです。
ヤマハはさらに本格的な2ストのレーサーレプリカ「TZR250」を開発していましたが、ホンダ「VT」の快進撃を許すわけにもいきません。そこで「GENESIS」(ジェネシス:創世記)という設計思想を掲げて4ストモデル群を刷新し、その中から誕生した完全新設計の250ccモデルが4気筒エンジンを搭載したFZ250でした。
実は250ccの4スト4気筒はFZ250が初めてではなく、その2年前にはスズキが「GS250FW」を、1977年にはイタリアのベネリが「254クワトロ」を市販しています。しかし、パワー面ではスペックもフィーリングも2ストに劣り、車体も重かったため注目を集めることはできませんでした。
単純に同じ排気量なら2ストの方がパワーを出しやすいのですが、4ストは2ストよりも最高回転数を上げられるというメリットを持っています。つまり、回せば回した分だけパワーアップが期待できますが、そのためには多気筒化は必須。さらに上乗せするには吸入効率の高い多バルブ化やストレートポート、4連キャブレター、熱対策やメカニカルロスを抑える工夫も必要になります。従来の250ccでは技術・コスト的に見送られてきた本気の設計をしたことで、FZ250のエンジンは前代未聞の超高回転を実現できたというわけです。
実は当時のヤマハ社内では、上層部はホンダのVTと同じ40馬力程度のVツインで設計が進んでいると思っていたようですが、若手を中心とする開発現場は『ヤマハらしくない!』とこれを否定して4気筒を完成させ、社内プレゼンでいきなり超高回転サウンドを響かせて納得させたという逸話も残っています。45馬力という数値も、ライバルに情報が漏れないよう、カタログを刷る直前まで秘密だったそうです。
また、“ハンドリングとデザインのヤマハ車”の例にもれず、角断面ワイドタイプ・ダブルクレードルフレームや前後16インチの極太小径タイヤ、乾燥重量138kgの軽量・コンパクトな車体はWGPチャンピオンのケニー・ロバーツも感心するほどの操縦性を持ち、フラッシュサーフェス化された美しい造形は多くの女性ユーザーも獲得します。
それまでは初心者やツーリング向けだった4スト250ccのカテゴリーにFZ250が与えたインパクトは非常に大きいものでした。発売直後にホンダやスズキ、最後にはカワサキも加わって20,000回転近く回る“超高回転型クォーターの戦国時代”が始まり、さらにはレーサーレプリカブームも本格化したため、FZ250は登場から2年半ほどでレプリカカウルに衣替えした「FZR250」にバトンを渡して生産を終了します。
それでは、次回をお楽しみに!
津原リョウ 二輪・四輪、IT、家電などの商品企画や広告・デザイン全般に従事するクリエイター。エンジンOHからON/OFFサーキット走行、長距離キャンプツーリングまでバイク遊びは一通り経験し、1950年代のBMWから最新スポーツまで数多く試乗。印象的だったバイクは「MVアグスタ F4」と「Kawasaki KX500」。 この著者の記事一覧はこちら(津原リョウ)