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表現の自由を守ることを目的に活動する団体「うぐいすリボン」(静岡県富士市)は12月3日、「クレジットカード会社等による表現規制『金融検閲』問題を考える」と題した院内集会を、参議院議員会館で開催した。同団体代表の荻野幸太郎さんや山田太郎参議院議員、赤松健参議院議員らが登壇した。
集会では、クレジットカード業界の複雑な仕組みや、同人コンテンツを販売する店などにヒアリングして分かった表現規制の現状などを紹介した。表現規制の問題点として「非常に透明性が低い」などの指摘が上がった他、クレジットカードブランドの本社がある米国での表現規制の動向も解説。“インフラ”にまで拡大したクレジットカードに関する今後の対応を語った。
クレジットカードの表現規制を巡っては、2022年7月のDMM.comでのMastercard利用停止を皮切りに、成人向けコンテンツを扱うECサイトなどでの、特定のクレジットカードブランドの取り扱い一時停止が急増している。
こうした状況を受け、山田議員は8月、米Visa本社に訪問し「合法であるコンテンツ等に対する価値判断は行っていない」「VISA規約についても、本社は基準を決めているのみで、判断を行っていない(判断を行うのは現場)」などの発言を引き出している。これに関連し、直近ではVisaの日本法人にも同様の確認が取れたとしている。
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ただ、実際にはクレジットカードの取り扱い停止が進んでいる現状があるとして、山田議員はカード業界の複雑な仕組みを紹介した。Visa/Mastercard/JCBなどのクレジットカードブランドの下には、イシュアー(クレジットカード発行会社)とアクワイアラー(加盟店契約会社)があり、さらにアクワイアラーと加盟店の間には、各クレジットカードブランドなどと一括契約できる決済代行会社が挟まっている。
山田議員は、寄せられたクレジットカードの取り扱い停止に関する相談の多くが、決済代行会社から対応を求められたものと明かす。しかし、その複雑な仕組みから、誰が主体となって規制をしているのか分かりにくいという。他にも、加盟店がカード会社と取引ができなくなる可能性もあるため、情報収集が進んでいないとしている。
●“伝言ゲーム”が要因? 荻野さんが語るクレカ表現規制の現状
うぐいすリボンの活動の一環として、クレジットカードの表現規制に関し、同人ショップなどにヒアリングしてきたという荻野さん。荻野さんも、規制の問題点について「誰がどこで何をやっているのかよく分からない、非常に透明性の低い問題で、だからこそ対応しにくい」と指摘する。
「契約をしている決済代行会社から(取り扱いができないと店に)連絡が来る。その決済代行会社には、シンガポールなどにオフィスを置いてアジア地域を統括しているクレジットカード(ブランド)会社の本社が業務委託した調査会社から、規約違反がないかパトロールしているが、(決済代行会社が契約している)書店のこういう作品が問題があるから対応してください』とメールが来る。この時点で伝聞・伝言ゲームなんです」(荻野さん)
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こうした状況も要因となり、「なんとなく決済できない、インターネット上の売り場から(コンテンツが)消える、事実上の表現規制が進んでしまうという非常に気持ち悪い状況が起きている」と荻野さんは説明する。「日本の場合、実写のポルノをやってるわけではなく、マンガや小説を扱っているが、その題材に、近親相姦であるだとか、動物との性行為などが描かれている」(荻野さん)として、問題の着地点が見えないとしている。
●カードブランドの本社がある米国の動向 クレカ表現規制の背景は?
荻野さんが「実写のポルノ」を持ち出す背景には、クレジットカードブランドの本社がある米国での表現規制の状況がある。荻野さんによると、電子書籍を扱っている米国の書店が規制を受け、売り場から成人向けコンテンツが消えたり、クレジットカードでの決済ができなくなるといったことは起きていないという。
アダルトサイトについても、本人の同意なくポルノ映像を公開しているとして、一時的に決済が止まることはあったが、各Webサイトが本人確認の制度などを整備し、決済が復活していると語る。
集会では、米カリフォルニア大学アーバイン校で情報法学を研究するジャック・ラーナー教授もオンラインで登壇。米国におけるクレジットカードの表現規制の動向について解説した。
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ラーナー教授によると、アダルトサイト「Pornhub」運営元であるカナダのMindGeekに対し、13歳の少女が「自分のビデオが無断でアップロードされた」として起こした裁判が、クレジットカードの表現規制に大きな影響を与えたという。この裁判で原告は「多数の児童ポルノが掲載されているのを知っていた」などと主張し、米Visaも被告に指定。Visaは訴訟から外すよう求めたが、裁判所は2022年、そのまま訴訟を継続すると決定したという。
ラーナー教授は「この裁判はまだ継続中で初期段階にあり、何かしらの結果が出ているわけではない」としつつ、アダルト業界とクレジットカード会社との確執を深めるきっかけになったようだ。これにより、Visa/Mastercardなどのガイドラインが非常に厳しくなったと説明する。
ただし、米国のガイドラインで規制しているコンテンツについて、ラーナー教授は「同意のない性交の写真や児童ポルノに限っている」と指摘。「日本で起きているような問題のコンテンツはそもそも対象外である」と強調した。
●クレジットカードは“インフラ” 山田議員が考える今後の対応
山田議員は、今後のクレジットカードの表現規制への対応に関し、国内の電子決済の比率が約4割になり、さらに比率が増していくと予測される現状に着目する。電子決済のほとんどがクレジットカード決済であり、クレジットカードのブランドもVisa/Mastercard/JCB以外の選択肢がほぼなく、寡占状態にあるという。国としても、電力やガス・鉄道に並ぶ「重要インフラ」にクレジットカードを指定しており、プラットフォーマーとしての側面もあるとしている。
これを受け、山田議員は「表現規制だけではなく、例えば、とある国の意向によって、こういう取引をさせないとなれば、国は混乱するだろう」と説明する。「プラットフォーム、あるいはインフラとして(クレジットカードに対する)規律・規制が必要になる」との考えを明かした。
具体的には、独占禁止法の解釈を広げ、「好き嫌いだとかいろんな理由でもって合法な取引ができない」状況を解消できないか、現在検討中とのこと。他にも、消費者保護の観点から、自由な売買を保証する文脈でクレジットカードに対して規律を設けるなどの案を挙げ、法的な根拠を準備し、クレジットカードの表現規制に対応するとしている。
●赤松議員、マンガ図書館Z閉鎖で「当事者ならではの知見分かった」
集会には、漫画家で参議院議員の赤松健さんも登壇。立ち上げに関わった、絶版マンガなどの電子書籍配信サービス「マンガ図書館Z」が11月26日に停止した経緯を説明。「当事者ならではの知見が分かった」と語った。
赤松議員によると、停止の直接的な原因は、決済代行会社がクレジットカード以外の決済手段全てを含む決済サービスの解約を通告してきたことという。通告より前の2024年夏分の支払いもできないとの連絡があり、サーバの利用料金が払えなくなったと報告した。「普段から表現の自由・創作の自由を伝えている自分が決済サービスを押さえる会社に屈することになり、非常に申し訳なく思う」と謝罪した。
一方で「当事者ならではのいろいろな知見が分かった」とも赤松議員は語る。「3日後にはすぐやれ」というようなスピード感で通知が来ることなどが具体的に分かったとともに、どうすれば回避できたのかについても徐々に明らかになっていると説明した。
「例えば、ビットキャッシュ(インターネット決済で利用できる電子マネー)が結構使える。こういった現場の声が集まっている。こうした集会を通じて、意見交換や議論が深まり、前向きな解決法や代替の決済手段などの研究が進んでいくことを望んでいる」(赤松議員)
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