1億総スカンの「流行語大賞」 それでもユーキャンは辞めないワケ

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2024年12月06日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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2024年の流行語大賞は「ふてほど」になった(出所:TBS公式Webサイト)

 今年の「ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞に選ばれたのは「ふてほど」だった。この言葉はTBSの人気ドラマ『不適切にもほどがある』を略したものだが、SNSでは「そんな略称聞いたことない」「流行した記憶がない」といった声が大半を占め、国民的な共感を得られたとは言い難い。


【画像】直近20年間における、流行語大賞を受賞した言葉。ある一点から、明らかに傾向が変わっている


 実際にドラマそのものは話題になったものの、「ふてほど」という略称が独自に流行していた事実はほとんど確認できない。このような選出が続く中で、流行語大賞そのものへの疑問が浮上している。


 筆者の予想では、Netflixで大きな話題を呼び、「もうええでしょう」などといったキャッチーなフレーズがちまたで多用された「地面師」が本命で、次点として「闇バイト」になるのではないかと踏んでいた。しかし、残念ながら、そのような予想は裏切られてしまったかたちになる。


 しかし、統計データを確認すると、やはり「ふてほど」が選ばれた経緯は不可解だ。


●なぜここまで実感と乖離したのか?


 検索ボリュームの推移を視覚化する「Google トレンド」によれば、「ふてほど」の検索ボリュームは年間を通じて、「地面師」の9分の1、「タイミー」の7分の1、「闇バイト」の2分の1にすぎない。


 しかも、流行語大賞の選出を機に「ふてほど」のボリュームが急増していることから、戸惑いながら「ふてほどって何?」と検索する人々の混乱ぶりもうかがえる。


 時代を映す鏡としてのシンボルを担ってきた流行語大賞だが、ここまで定量的なデータと乖離する結果は妥当なのだろうか。


 確かにインターネットの検索ワードが世の中の全てではない。しかし、百歩譲ってインターネットの外のどこかのコミュニティーで「ふてほど」が流行しているとして、そのコミュニティーが全てかのように「流行語大賞」と認定することもまた不合理ではないか。


 そう考えると、もはや「国民全体が納得する流行語」という概念自体が破綻している可能性すらある。特に、SNSや動画配信サービスの台頭により、興味や関心が多様化し、全世代に共通する話題を見つけるのが困難になっている。


●ユーキャンの事情も影響か


 生活者の実感と乖離している背景に、スポンサーであるユーキャンが「自社ブランドへの影響」を意識していることもあるかもしれない。


 確かに、地面師も闇バイトも「犯罪に関連する言葉」である。流行語大賞の歴史を振り返っても、実は犯罪や疑惑などネガティブに関連するワードが選出されることはごくごくまれである。


 ユーキャンという企業のイメージにネガティブな影響を及ぼすことを避けた結果として、それらのワードが選ばれなかったのではないかと推測される。


 しかし、それにしてもここ数年の「安定思考」はいかがなものか。次の表は直近20年の流行語大賞をまとめたものである。


 この表の中で特に目立つのは、2017年ごろを境とした「テーマの選択基準」の変化ではないだろうか。


 2000年代から2010年代前半の流行語大賞は、政治や社会的なトピックに関連する言葉が多く選ばれていた。例えば、2005年の「小泉劇場」や2009年の「政権交代」は、日本の政治情勢を象徴するものであり、社会的議論を活性化させた。同様に、2014年の「集団的自衛権」や2017年の「忖度」も政治的な問題を背景にした受賞語だ。


 しかし、このような社会的なテーマは2018年以降、急激に減少している。そして、全体の傾向としてはお笑い芸人の持ちネタが選出されにくくなり、スポーツに関連する話題が受賞するケースが増加している。


 この表からは、審査員のユーキャンに対する“忖度(そんたく)”も見え隠れする。うがった見方をすれば、通常のCM起用では莫大(ばくだい)なギャラが必要な有名スポーツ選手を、「流行語大賞」という称号を与えるだけでユーキャンのプロモーションに呼べるという「戦略」もあるのではないだろうか。


●それでもユーキャンは流行語大賞を続ける


 ユーキャンは今後も流行語大賞を辞めないだろう。それは、自社のブランディングと認知度向上のために有効であることが明らかだからだ。


 流行語大賞というイベントは、ユーキャンにとって単なる伝統ではなく、毎年話題を生むことで企業名を広く浸透させる重要なマーケティング施策であり、CMを打たなくても勝手に番組やネットで拡散される。


 しかし、その「話題性」は必ずしもポジティブなものとは限らない。


 そもそも、今回の流行語大賞がバズっている理由は「時代を反映していない」「無難すぎる」という批判の文脈が中心だ。これがもしバズらせるための意図的なものだったら、注目を浴びたいがために企業イメージ低下を招くという、本末転倒の結果になっている。


 流行語の選考基準において無視できないのが、SNS上の流行と国民全体での流行の間に存在するギャップだ。


 流行語大賞がその存在意義を保つためには、SNS上の流行を参考にしつつも、国民全体が共感できる「普遍的なテーマ」を見つける必要がある。もちろん、SNSのトレンドを過剰に意識した結果、逆に一部の層にしか響かない言葉を選ぶリスクもあるため、SNSのバズワードを機械的に選出することにもリスクがある。


●2020年の大賞に学べ


 この点、2020年の「3密」の選出は卓越していたのではないだろうか。


 政治的テーマでもあることから勇気のいる選出だったかもしれないが、コロナ禍の空気感を表す的を射た選出であったし、後世の人から見ても2020年に何があったのかが一目で分かる、歴史的な意義もあった。


 時代を象徴する言葉を選定するはずの流行語大賞は、最近の選考ではむしろ賞そのものが時代遅れと見なされる危機に直面している。


 このまま選考基準を見直さずに続ければ、さらに賞の価値を損ない、ユーキャンのブランド力にも悪影響を及ぼしかねない。


 選考プロセスを透明化し、SNSや国民から広く意見を募る形に改めることも一案だろう。また、黎明期の流行語大賞のように、部門を分けるなどして、一つの言葉だけに絞ることをやめるというのも手だ。


 ユーキャンが流行語大賞のスポンサーを続けるならば、話題作りと同時に納得感を重視し、可能であれば社会的にも価値あるメッセージを届ける賞として生まれ変わることを期待したい。


●筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO


1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手掛けたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレースを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務などを手掛ける。



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