4回転7本すべてで回転不足判定に「複雑だけど乗り越える」 王者イリア・マリニンに単独インタビュー

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2024年12月13日 07:10  webスポルティーバ

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GPファイナル王者イリア・マリニン(アメリカ)インタビュー 前編(全2回)

 フランス・グルノーブルで開催されたフィギュアスケートのGPファイナル(12月5〜8日)で、アメリカのイリア・マリニン(20歳)が連覇を果たした。驚くべきは、フリーで4回転7本に挑んだこと。一方、すべての4回転が"回転不足"という判定がつき、課題も残った。史上初の栄光に挑んだマリニンに、単独インタビューを行なった。

【自分の居場所を見つけ始めた】

ーーGPファイナルは、ショートプログラム、フリーともに自信にあふれた演技でした。昨シーズンに世界選手権で初タイトルを獲って今シーズンに臨んでいます。精神的に変化がありましたか?

イリア・マリニン(以下同) 世界選手権で優勝したことでの自分にとっての変化は、「自分の居場所」を見つけ始めたことです。「自分はこんなスタイルで、こんな独自性があるよ」という自分の存在を、自分自身で認められるようになったんです。試合で氷の上に立った瞬間に、「自分の居場所」に入りこんで準備が完了する。それが自信につながっていると思います。

ーースケートカナダが10月末に終わってから、ファイナルまで1カ月半ほど空きました。

 スケートアメリカ、スケートカナダと2試合続けて出たことで、ファイナルまでの準備はラクになりました。ゆっくり時間をかけて、スタミナを上げていく練習に集中できました。

ーーショートはパーフェクトの演技で、首位発進でした。手応えは?

 まずはGPファイナルということで、何か変化がほしくて新しいコスチュームにしました。ショートの曲『Running』のストーリーは、自分の中の気に入らない部分を取り除きたいのに、その方法が見つからずに苦悩する。プログラムの最後に、そこから脱する方法を見つける、というもの。コスチュームのグレーは監禁されるような苦しみと摩耗(まもう)を表し、青は自由を表しています。

ーーショートの演技についてはいかがでしょう?

 本番で氷に足を踏み入れた時、自信が湧いてきて、すごくいい気分でした。100%の集中状態でジャンプを跳び、そして最後のステップシークエンスでは観客の波に身をまかせることができました。そして自然と歌詞を口ずさんでいました。本当に大好きな曲で、試合前に聞いて、集中状態に入る時にも使っている曲なんです。

【4回転7本挑戦への道のり】

ーーフリーでは7本すべてのジャンプで4回転を跳びました。いつからこの挑戦をしようと考えていたのでしょう?

 もともと今シーズンのどこかのタイミングで挑戦しようと考えていました。すでに6種類の4回転は跳べるようになっていたので、昨シーズンからやりたいなとは思っていました。でも昨シーズンはまず、GPファイナルと世界選手権の2つの世界タイトルを獲ることが目標で、7本に挑戦する計画は誰にも話していませんでした。

ーースケートカナダのフリーでは4回転3本だったことから考えると、予想できないジャンプ構成でした。

 アメリカとカナダの2戦は、まず新しいプログラムの芸術性を磨いて、アピールする必要があったので、すべての技術を詰めこみませんでした。自分のスケーティングをもっと向上させる時期でしたから。自分の全部の技術は使わずにGPファイナルに進み、この舞台でためてきた技術を一気に入れようと考えていました。

ーーフリーの6分間練習では、4回転アクセルを練習しませんでした。それなのに本番一発で決めたのは驚きでした。

 僕の場合、ジャンプを本番一発で決めるためには、踏み切りのタイミングと、助走からアプローチしていく感覚、この2つの確認が大切なんです。だから6分間練習では、トリプルアクセルを跳んで、自分の身体に感覚をセットしました。そして、あと1回転の追加を入れるための十分な空間を、トリプルアクセルで確認しました。実際に4回転アクセルを跳ばなくても、しっかりと高さや滞空時間のあるトリプルアクセルを跳ぶことで、あと1回転分の余裕があるなというのを確認したのです。

【判定には複雑な気持ちも「乗り越える」】

ーー7本の4回転に挑戦したものの、すべてのジャンプにqマーク(90度回転不足)やアンダーローテーションの判定がつきました。最初に得点を見た時はどう感じましたか?

 最初に見た時はちょっとびっくりしました。さすがに7つ全部とは思いませんでしたから。でも、あまり感情を表に出さないようにしました。これはジャッジ競技なので、時には自分が思っているような結果を得られないこともあります。

ーーどうやって感情を抑えたのでしょう?

 複雑な気持ちはありましたが、受け止めて、何を改善すべきかを見つめました。それを乗り越えれば、自分の強みにしていくことができます。今回は「あなたはもっとクリーンなジャンプを跳べる」というメッセージだと受け止めて、改善するためのモチベーションに変えようと思いました。

ーーまだ改善の余地はあると思いましたか?

 もちろんです。実際のところ今回はまだ、100%の準備はできていませんでした。あくまでも今回はテストケース。まずは7本挑戦してみることで、僕が何を改善する必要があるのか、どれくらいスタミナが必要か、確認したかったのです。そして今回、スコアシートで、何が必要かよくわかりました。僕は、ジャッジがわざわざ回転を判定しなくてもいいくらいクリーンなプログラムができるってことを証明したいし、できると思っています。

ーー7本の挑戦そのものは楽しめていたのか、緊張していたのか、どちらでしょう?

 とにかくエキサイティングでした。演技中は夢中で楽しんでいました。でもその挑戦が終わった今は、本当に多くのことを吸収できたので、早く世界選手権に向けて改善点を練習したいなと思っています。世界選手権はもう少しシンプルなジャンプ構成に戻すと思います。

ーーマリニンさんにとっての、最終目標となる演技は?

 ジャンプが何本か、ということは目標そのものではありません。僕にとって重要なのは、ただ自信を持って本番のリンクに降り立つことです。そして演技の瞬間と時間を楽しみ、心に刻むこと。それができるように、また練習していきます。

つづく

【プロフィール】
イリア・マリニン Ilia Malinin 
2004年、アメリカ・バージニア州生まれ。2022−2023シーズンからシニアへ移行し、USインターナショナルクラシックで史上初の4回転アクセルを成功。2023−2024シーズンにGPファイナルと世界選手権で初優勝。2024−2025シーズンはここまで、GPシリーズ・スケートアメリカ、スケートカナダ、GPファイナルなどで優勝を飾っている。

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