イリア・マリニンが「僕に一番似ている」と言う日本選手とは? 王者の夢は「フィギュアスケートを大人気に」

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2024年12月13日 07:20  webスポルティーバ

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GPファイナル王者イリア・マリニン(アメリカ)インタビュー 後編(全2回)

 フランス・グルノーブルで開催されたフィギュアスケートのGPファイナル(12月5〜8日)で連覇をなしとげた王者イリア・マリニン(アメリカ)。20歳の瞳に映る、これまで、そしてこれから目指していくフィギュアスケートとは? GPファイナル後に単独インタビューに応じた。

【世界選手権優勝後に始めた長い旅】

ーーGPファイナルで連覇を達成しました。フリーでは7本の4回転ジャンプに挑戦し、アグレッシブな内容での優勝となりました。

イリア・マリニン(以下同) 本当にやりきった、という気持ちです。演技後は氷の上で寝たまま起き上がれなかったくらい。今の自分が試したいこと、やりたいこと、すべてに挑戦した大会でした。

ーー昨シーズンに比べて、今シーズンは本当に演技を楽しんでいるのが伝わってきます。

 昨シーズンの世界選手権で優勝した時、「さあ、ここからが僕のスケートを見つける時間だ」と思いました。まずはトレーニングしてきたことをすべて発揮して、それを認めてもらえた。これからは、自分らしいスケートとは何か、自分はなぜスケートをしているのか、スケートのためにできることは何か、という長い旅を始めたんです。今シーズンは、勝敗や得点ではなくて、自分のフィギュアスケートを確立するための時間だと思って過ごしています。

ーーショートプログラムの曲は、もともと好きでウォーミングアップに使っていた曲だそうですね。

 ここ数年間、アーティストのNFの音楽を聞いてきました。彼の音楽は、僕の心に深く入りこんできて、つながりを感じるのです。彼が歌にこめるストーリーは、僕の人生と似たようなものを感じて、共感することで気持ちが盛り上がってくるのです。今回のショートも、苦しみにもがき、最後に苦しみから逃れるというストーリーのなかで、自分の人生を投影しています。

ーー今シーズンのプログラムについて教えてください。フリーの『I'm not a Vampire』は個性的な選曲でした。

 今シーズンは、とにかくユニークで、他の誰よりも目立つプログラムにしたいと思いました。フリーは7本の4回転を入れることも考えていましたから、人と違うことをしたいという思いをこめるプログラムです。ちょっと強すぎたり、狂っているような舞台設定がいいかなと思って、この曲にしました。

【フィギュアスケートを大人気のスポーツにしたい】

ーー今回のGPファイナルは、ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪を目指す新しい世代が集結しました。

 ここ1、2年で新しいスケーターが次々と出てきて、またスケートは盛り上がりつつあるところだと感じています。それはとてもうれしいことです。僕の目標のひとつは、フィギュアスケートを大人気のスポーツにすること。そのためには僕たちの世代のスケーターが、技術や表現、それぞれの得意なことで演技を盛り上げていくことが大切だと思います。

ーー特に今回のGPファイナルは個性的なスケーターが集まりました。日本選手についてはいかがですか?

 今回はとても個性的だったと思います。日本選手とはアイスショーでも一緒になりますし、仲がいいです。(鍵山)優真はきれいなスケーティングと、スピード感があって、柔らかな滑りがあります。(佐藤)駿は、回転速度が速くてきれいな回転軸のジャンプを跳びます。ジャンプの跳び方は僕に一番似ている選手で、4回転ルッツはすごく上手だと思います。

ーーその他の国の選手も素晴らしいスケーターばかりでしたね。

 ミハイル・シャイドロフ(カザフスタン)はこの前の試合でトリプルアクセル+4回転トーループを決めたし、今回はトリプルアクセル+オイラー+4回転サルコウをやりました。どちらも史上初です。今回は出ていないけれど、アダム(・シャオ・イム・ファ/フランス)もバックフリップをやって観客を盛り上げています。みんなが、氷上で「自分だけの人間」になり、存在しています。それを僕は本当に尊敬しているし、この時代にこのメンバーでスケートを盛り上げていけることが、楽しくてたまらないです。

【試合で変化と成長を示していく】

ーーいまや6種類の4回転を跳べる世界王者として、地位を固めている状況です。ここまでの道のりを振り返って、いかがでしょう?

 僕が「世界で戦うんだ」という自覚を持ったのは、つい5年前のことです。それまではずっとレクリエーションのスケーターの気分でした。成績が出ずにつらい時期も長くて、本当にスケートをやめたいと思ったことが何度もありました。でも両親がそばにいて、支えてくれました。そして的確なアドバイスと自信を与えてくれたことで、新たな気持ちで戦ってきました。

ーーご両親はウズベキスタン出身の有名なスケーターで、コーチを務めていますね。それぞれの役割は?

 いつもふたり一緒に教えてくれています。母はサルコウ、ループ、ルッツが得意で、父はアクセル、トーループ、フリップが得意なんです。だからちょうど半々くらいで指導してくれています。ただ、教え方は違います。母はとっても厳しいです。どんな状況であろうと「もっとできるわ」と背中を押してくれます。父は本当に穏やかで、僕の気分が乗らない時は、それが助けになることもあります。うまく行かない時に、自分でいったん受け止めて考える時間や、客観的な意見はとても重要ですから。でも、やはりここまで上達し、スケートを続けてこられたのは、母が「とにかく一生懸命にやれ」と言い続けてくれたおかげだと思います。

ーーこれまでのスケート人生で、ご両親から受け止めた一番のメッセージは?

 毎日練習を続けること、そしてつらいこともあることを知り、それを受け止めて乗り越えること、です。タイトルを獲ったことで、両親は僕のことを誇りに思ってくれていますが、僕のほうこそ、両親にとても感謝しています。僕がどんなに落ちこんでいてもリンクに連れてきて、指導してくれて、つらい時期を乗り越えさせてくれました。

ーー12月2日に20歳になりました。どんな誕生日でしたか、そして20歳の決意はありますか?

 誕生日は、GPファイナルの直前だったので、ひたすら練習していました。たくさん練習することが、僕へのプレゼントだったと思います。4回転も好きなだけ跳びました。20歳になり、まだ目指すスタイルは見つけられていません。ただ僕は、自分自身に費やした努力と、このチームに感謝をしたい。一つひとつの試合で、どんな努力をし、どんな変化と成長をしたかを示し続けていきたいと思います。

終わり

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【プロフィール】
イリア・マリニン Ilia Malinin 
2004年、アメリカ・バージニア州生まれ。2022−2023シーズンからシニアへ移行し、USインターナショナルクラシックで史上初の4回転アクセルを成功。2023−2024シーズンにGPファイナルと世界選手権で初優勝。2024−2025シーズンはここまで、GPシリーズ・スケートアメリカ、スケートカナダ、GPファイナルなどで優勝を飾っている。

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